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我が家の地下にレアダンジョンができたんですが・・  作者: エクスボーン


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23/200

幕間 ある少年の話

新しい話を考えるのにずいぶん時間がかかってしまいました。

主人公とは関係ない少年の目線での話です。

 僕は都立高校に通う高校生だ。この春三年生になった。

 学力も運動も平均ぐらいのこれと言って特徴のない人間だと思う。

 特に将来なりたいものもなく、進路も現実的なレベルの大学に行こうと思っている。

 学費くらいは自分で何とかしたいので、バイトをして貯金はしている。

 両親や社会人の姉は、進学するなら学費くらいは出すと言ってくれたが、別にうちは裕福な家庭なわけではない。せいぜい中の下といったところだ。

 なりたい仕事も決まってなく、時間稼ぎのように大学に行こうと思っている自分のために、学費を出してもらうのは気が引ける。

 自分にとっての天職って何なんだろう。



 今日は放課後に友人たちと上野にカラオケに行くことになった。

 六月中旬で梅雨の最中だが、今日は曇りで済んでいる。こういう日くらい遊びに行きたい。

 学校から近いので、遊ぶ場合はこのあたりか秋葉原あたりになる。

 自分を入れて男子4人、女子3人。割とよく遊ぶこのメンバーで今日も来ていた。


「あの冒険者の人結構イケメンじゃない?」


 上野公園の近くを通りかかった時に、女子の一人が茶髪の冒険者を見てそう言った。

 20代くらいだろうか。確かに茶髪ではあるがチャラそうではなく、キリっとしてカッコイイ感じではある。


「優子、あーゆーのが好みなんだ。わたしはあっちかな」

「私はあの渋いおじさまがいい」


 女子たちは好みの男を探してきゃいきゃい盛り上がる。

 僕たち男子は苦笑いだ。横に俺たちがいるのにそんな話をされてはね。

 この辺りはダンジョンがあるために冒険者もよく見かける。

 ただあまり憧れはしない。

 知り合いのおにいさんで冒険者の人がいる。

 冒険者になるのは難しくないそうだが、やはり命の危険があるそうだ。レベルが上がれば実入りはよくなるのかもしれないが、ハイリスクハイリターンってやつだ。

 クラスの連中も憧れがある者はいるかもしれないが、進路に選ぶ奴はいない。

 基本は進学かまっとうな仕事に就職かだ。

 僕もみんなも現実をちゃんと見ている。

 まあ、将来の進路が何も決まってない奴が偉そうにとは思うが・・


「早くカラオケに行こうぜ」

「そうだな」


 友人の一人の言葉に僕は同意する。

 女子もカラオケの方が大事らしく、すぐに移動を始めた。



 その日の夜。

 日課の日記を書いていたら父に呼ばれた。

 来週結婚記念日なので、二人で一泊の旅行に行くとのこと。

 うちの両親はとても仲がいい。

 家族仲も良好で、僕も姉も二人の結婚記念日には毎年花を贈っている。

 今年もすでに花屋に予約をしてある。

 旅行の日取りは結婚記念日の後になるので、当日に渡すことは出来そうだ。

 そう思っていると父と母が惚気だした。僕は隙を見て逃げ出した。



 季節は変わり冬。十二月上旬の事だった。

 母が倒れた。

 夕食後の事で、すぐに救急車で病院に運ばれた。

 結果はガンだった。

 長期の入院が必要となり、日中仕事がある父や姉に代わり僕が母のお見舞いや必要なものを届けたりした。

 もちろん休みの日には父も姉も病院に行った。

 問題は治療費だった。

 保険を適用してもなお高額な治療費は家計を圧迫する。

 父に学費を出してやれないかもしれないと謝られた。

 もともと学費は自分で出すつもりだったのだから問題はない。

 けど、僕はこの時点で進学するつもりはなくなっていた。

 就職して家を助ける。その気になれば勉強はいつだってできる。母が回復してから社会人枠で入学してもいい。

 けど父には猛反対された。高卒ではたかがしれてるのだから、お金があるなら大学に行っておけと。治療費の事は気にするんじゃないと。

 出来るわけない。父にとって母が大事なように、僕にとってもそうなのだから。

 確かに高卒で就職は不利かもしれない。だから学歴が関係ない仕事をする。

 冒険者だ。

 知り合いの冒険者のおにいさんに電話して事情を話してみた。

 彼はもし冒険者になるのなら、自分のパーティーに入れてもいいと言ってくれた。

 なので、すでに18になってる僕は、連休を使ってこっそりと冒険者資格を取りに行った。


 二月に入り父からセンター試験の事を聞かれた。先月の話だが、父も忙しいので気にしていられなかったのだろう。

 だが当然受けていない。父にそのことを話し、冒険者になると言ったら激怒された。

 もし僕がお金を渡してきても絶対に受け取らないとまで言われた。

 見舞いに行ったときに母にも怒られた。

 とはいえもう進学は無理なのだ。冒険者で身を立てると決めた。

 姉は賛成はしなかったが、気持ちは汲んでくれた。

 稼いだお金は一度姉に預けていくことにした。一度に大金が必要になる場合もあるかもしれない。

 その時に姉から自分の貯金だと言って渡してほしいと。

 僕はもちろん家を出る。家にいても父と顔を合わせるたびに喧嘩になるだろうから。

 安いアパートを借りて冒険者生活を始める。

 いずれ母がよくなったら、冒険者を引退してもいい。また家族が仲良く暮らせるのであれば、その時は父に謝ろう。


 そして僕は高校を卒業した。

 今日から知り合いのお兄さんのパーティーに合流する。

 まずはゆっくりダンジョンや戦闘に慣れつつ、レベルを上げる方針らしい。

 ド素人の僕を快く迎えてくれたことに感謝しかない。

 

 母のためにも、パーティーに恩を返すためにも頑張って一人前になろう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 少年めっちゃええ子や…”いのちだいじに”で生き残って欲しい [気になる点] か、彼は一体どうなるんだ! これじゃ気になって夜しか眠れない!
[一言] めっちゃいい子や
[一言] こういった家族を助けたり等の家庭事情で冒険者を目指す若者はそれなりに居そうだよね。 リアルだと、土建へ就職や日雇いに行くけどダンジョンが有ったら間違いなく行くと思うわ。
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