第二百十二話 その名はワイバーンレンジャー!
「そろそろ行くとするか」
「ボスを見るのは初めてだから楽しみ!」
一息つけたので椅子から立ち上がり、念のためにアイテムボックスに回収しておく。
そういえばふーちゃんは初ボスだったか。ここのボスはメイジ・ウィーズルよりは見てて楽しいかもしれない。
見た目からしてインパクトの塊だしな。
ここからボス部屋までは歩いて五分ほど。神速を使うまでもないのでのんびりと進んでいく。
道中で何度かこの階層のモンスターのツートンベアーが現れた。
白黒の二色の熊・・ようはパンダなのだが、その本質はやはり熊だ。
こちらを補足すると走って襲いかかってくる。
この階層まで来ると、モンスターもそこそこ強くなっている。
冒険者達はこいつの攻撃をタンク役が防ぐか、しっかりと避けるかしないと大怪我をすることが多い。
「みずのびーむなの!」
「・・石弾!」
「風刃!」
うちの場合はちみっ子達の遠距離攻撃が強いので、基本的に接敵を許さない。
ただそれでは俺が戦えないので、次のパンダには手出し無用にしてもらった。
「ガアァァっ!」
「うるさい!」
目の前まで来たツートンベアーが立ち上がってその腕を振り下ろしてくる。
俺はその振り下ろしに合わせて貫通を乗せたカイザーナックルで相手の拳を殴った。
痛そうな爪ごとツートンベアーの拳を砕いた。やはり貫通は強いな。
悲しいことに貫通攻撃があるおかげで魔法剣が死にスキルとなっている。
せめて同時に使えるのなら・・いや使えるのか?
何となく同時には使えないものだと思っていたが、試したこともなかった。
拳を砕かれて悶絶してるツートンベアーを前に、俺は拳に炎を纏わせてから貫通を乗せて相手のボディを殴りつけた。
「ガアァァ!? ガルルル!」
俺の一撃を食らった直後に激しくのたうち回るパンダ。
そんなにダメージが大きかったのか?
「ゆーちゃん、えぐいことをするの」
「衝撃だけじゃなく炎も貫通したから体内から焼かれているようなものだよ」
なるほど、それはみーちゃんの言う通りエグいわ。
同時に炎耐性でもない相手には必殺クラスの攻撃手段になりそうだな。
地面でじたばたしていたパンダは、やがてドロップアイテムを残して消えていった。
「もともと余裕で倒せたけど、オーバーキル出来るようになったな」
「・・これで先の階層でも問題なく戦えるわね」
魔法剣の有効活用法が見つかってよかったが、余計に俺がチートになってしまった。さらにここに強化まで上乗せをしたら・・
地味に見えたスキル達だったが、その組み合わせが実は良すぎる件について。
「ゆーちゃんがつよいのはいいことなの」
「確かに弱いよりはいいんだろうな」
強くて困ることは特にないだろう。ダンジョンを攻略するのには有利なわけだし。
問題があるとすれば目立つことくらいだがそれも今更かな。
ボスへの攻撃手段が増えたことを喜ぶとしよう。
ツートンベアーを倒してすぐにボス部屋へと到着した。
扉は閉まっており、今戦っている人は居ないようだ。
「・・待ちは誰も居ないのね」
「そういえばこの階には他の冒険者もあんまり居なかったね」
ファーストの地下十五階はいわば試金石だ。
ここから先に進めれば一流。突破できなければ二流だと言われている。
他のダンジョンで十五階のボスを倒してくれば先に進めるが、そんなのはもぐりだと言われる。
別に他のダンジョンの冒険者が弱いと言っているのではなく、ここのボスを倒すのが難関だからそう言われるのだ。
俺は扉を開けて部屋には入らずに中を覗く。
これまでのボス部屋と違いかなり広い。野球場くらいはありそうだ。天井も高く20mくらいだろうか。
この広大な場所で戦うのは五体のボス。
「じゃあ様子見をしてくるから、ここで待っててな」
「すぐにかえってくるの」
「・・無理に戦っちゃダメよ」
「危なそうなら乱入するからね!」
大丈夫。何度も言っているが今回は様子見だ。無理に戦うことはしない。
もちろん油断はせずに、カイザーナックルには炎を纏わせてから部屋に一歩踏み入った。
すると部屋の中央の空中に現れる五体の影。
それは名乗りを上げ、背後に爆発のエフェクトでも発生しそうな五体のワイバーン。
赤・青・黒・黄・緑のカラフルな連中。
その名もワイバーンレンジャー。こうらくえん遊園地で僕と握手!
だがその見た目のコミカルさとは裏腹にかなりの強敵だ。
常に頭上を取られている上に五体がバラバラに動くので、基本的にこちらは数を揃えないと対抗できない。
しかも向こうから寄ってこない限りは近接戦闘が出来ないために、遠距離攻撃の手段がないとまともに戦うことさえも無理だ。
ここを既に突破した高レベルの冒険者に臨時でパーティーに入ってもらって戦うのも手ではあるが、多くの冒険者はそれを良しとしない。
皆ゆずれない意地があるのだ。
自分達は物語にしか居なかった冒険者になったんだ。現実では味わえない戦いをすることが出来るんだ。
強者の手を借りて倒すのではロマンがない。それではオンラインゲームと同じだ。
そういう想いを持って多くの冒険者達が戦った。
死闘の末に突破して歓喜に震えた者たちもいれば、撤退の時期を見誤って散っていった者たちも居た。
そんな中俺は一人でここに立っている。
今回は偵察だが、俺もこれまでの冒険者同様に意地を持っている。
もちろん死ぬつもりもないので撤退だって視野に入れている。
逃げ帰ることに抵抗はない。何年もそうして生きてきたんだ。
だが今日俺はレンや龍二さん達の領域へと到達してみせる。
あとちみっ子達に褒めてもらうんだ!




