第二百十一話 地下十五階に向かって
車を降りてみんなでファーストの入口へと向かう。
今日はいい天気で観光客もたくさんいる。
ここには動物園もあれば美術館・博物館もあり、公園自体も観光名所だ。
もちろん俺達が向かっているファーストもその一端を担っている。
ギルドカードを持っていない人間はもちろんダンジョンには入れないので、ダンジョンの入口をゲート外から見たり、動画や写真を取っているだけだ。
そんな中俺はちみっ子達を連れてゲートを通っていくものだから周囲の人間からはどよめきが起きる。
「もうこれにも慣れたな」
「みーちゃんたちはかわいいから、ちゅうもくされてとうぜんなの」
「・・幸せな考え方だわ」
「まあ気にしても仕方ないしね」
ゲートで立哨している警備員さんに挨拶をしてそのまま入口の階段へと進む。
背後では事情を知らない人間がその警備員さんに『あの子供達は通していいのか』と問い詰めるのが聞こえたが、警備員さんは『問題ありません』と答えていた。
事情を知りたいなら桜木亭に入って俺達のPVでも見てくれ。
毎度の事なので振り返ることもなく、ワープポータルへと向かう。
そんな状況も含めて今日もいつも通りのファーストだ。
地下十一階。
ここからボス部屋までは通常の冒険者だと二日はかかる。
俺達は今回モンスターとの戦いは最小限でボス部屋へと向かう。
休憩も含めて半日くらいでの踏破予定だ。
「僕たちは今回ほとんど出番無しだね」
「とはいえお留守番は嫌だろ? まあボス部屋の前で三人を召喚する手もあるが」
「だめなの! みーちゃんはいつでもゆーちゃんといっしょなの!」
「・・そうよ。置いていくなんて許さないんだから」
ちみっ子達からの愛が重いです・・
そしていつも一緒にいることで、ちみっ子達を召喚する機能も無意味となっている・・
「とはいえ、ボス部屋まではほぼ移動だけだぞ。しかも結構長い時間」
「それならみんなでしりとりしながらはしるの」
「山手線ゲームもやろうよ!」
「・・私達がいればゆーちゃんも退屈せずに済むわよ」
・・そうだな。一人で淡々と走り続けるよりも、ちみっ子達と一緒のほうが楽しい。
まったく、良く出来たちみっ子達だよ。
休憩のときにはおやつをいっぱいあげましょう。
「じゃあ行きますか。しっかり掴まってろよ」
肩車のちーちゃんと、左右の腕でだっこのみーちゃんとふーちゃん。
ここからは神速を発動して、更には脚力を少しずつ強化して走っていく。
あまり早すぎても交通事故を起こしそうで怖い。俺は急に止まれないのだ。
少し進むと進路上にこの階のモンスターであるアーマーモールが現れた。
大型犬サイズのこのモグラは、このように通路上にいることもあれば壁や床を突き破って奇襲攻撃をしてくる場合もある厄介な敵だ。
ただ奇襲の際には穴を掘る音が結構大きいので、注意していれば回避できる。
硬い体と鋭利な爪で攻撃してくるが、基本上からの攻撃に弱い。
そして今の俺達には・・
「どっせい!」
「ナイス踏みつけ!」
「れんぞくしてふめば、きっとわんなっぷできるの」
通路上にいるアーマーモールは走り抜けるついでに踏みつけていくだけ。
もちろん倒せはしないが相手にはしない。
壁や床からの奇襲も、仕掛けられた時点で俺は既にその場にはにいない。
近くに他の冒険者が居た場合はなすりつけになってしまう場合もあるので相手をするが、基本はガン無視だ。
もちろん連続で踏んでも1UPはしません。
そんな感じで他の階でも休憩を挟みつつ踏んだり蹴ったりしながら爆進すること十時間。
休憩のたびに昼食やおやつでエナジーチャージをして走り続けた。
強化は最小限にとどめたが、それでも予定よりはだいぶ早く十五階のボス部屋近くのセーフエリアに到着した。
ここで一休みしたら一度ボス部屋を覗きに行く。
その後ここに戻って夕飯を食べてから仮眠を取る。
最後にボスを倒して十六階のポータルから帰還の予定だ。
問題なく事が運べば、日帰りでここのボス討伐が完了する。
いずれこの話をみんなに聞かせたらドン引きするんだろうな・・
まあそんな事が出来るのもここまでだろうし、やれるのだからやるだけだ。
「じゃあちょっと休憩したらボスのところに行くぞ」
アイテムボックスから椅子を取り出してみんなで腰掛ける。
椅子に座ると動きたくなくなるが、地面に座っていては疲れも取りにくい。
「ぼすとうばつなの! ちのたぎるようなばとるがはじまるの!」
「・・みーちゃん、今回は偵察だけよ」
「そもそも僕たちは見学だけだしね」
早くもボルテージの上がっているみーちゃんに、冷たいオレンジジュースを渡してクールダウンさせる。
もちろんちーちゃんとふーちゃんにも差し出す。
道中はちみっ子達のおかげで楽しく進んでこれたが、さすがに疲れはした。
時々みーちゃんが回復魔法をかけてくれたおかげで多少スタミナは回復できたが全快はしていない。
やはりちゃんと体を休めることは大事なのだろう。
「ゆーちゃん、僕たちを抱えてたから大変だったでしょ?」
「いや、そこは不安になるくらい軽かったから問題ないぞ。みんな軽く浮いて重さをほとんどゼロにしてただろ?」
「・・やっぱりわかってたのね」
精霊である三人はもともと軽いのだが、走っている最中に重さを感じなくて落としたのではないかと心配になるほどだ。
だが三人の気遣いのおかげで、抱えてここまで来ることは余裕だった。
後で飯を食って仮眠すれば疲れは取れるだろう。
まあその前に偵察に行かなきゃだけどな。




