第二百十話 壁に挑む
こちらに戻って数日が過ぎた。
その間に高倉さん、アレン、『うさぎや』のおかみさんにおみやげを渡した。
レン達や龍二さんは潜ったままらしく連絡が取れなかったのでまた今度だ。
最前線の攻略は一度潜ると当分戻れないからな。
それに今回レン達はアイテム袋を持っていった。その分食料がたくさん持ち込めるから以前より長期の探索ができるはずだ。
今いる地下二十階を突破できればワープポータルが使えるようになるので、移動が楽になるのだが、現状は地下十六階から地下二十階に下りるだけでもだいぶ時間がかかってしまうはずだ。
確か地下十九階まででも一週間ほどかかると言っていたな。それだけマップが広いのと、パーティーを組んでると一番足の遅い人に合わせる必要があるので時間がかかるのだろう。さらに持っていく荷物の問題もある。
もし俺達だったらどうだろう? 余計な荷物はアイテムボックスにしまって、ちみっ子達を抱えてモンスターをガン無視、さらに神速と強化を使って最速で進んだ場合・・
確か六階から十階までは普通の冒険者は一日くらいかかるはずだ。俺達は神速で四時間で駆け抜けられた。
七倍の速さで行軍できるなら単純に考えると神速だけで十九階まで一日で着いてしまう。強化を含めると更に短縮できるのか。
もちろんこれは休憩を考えていない時間なので、実際は二日くらいなのかな。
レン達の三倍以上のペースで進めるのか・・これを知ったらあいつらが泣きそうだな。
「ゆーちゃん、そろそろじかんなの」
「ああ、ちょっと待っててな」
準備万端のちみっ子達を待たせてしばし思案する。
現状では特に優先目標はない。
もちろんやることはいろいろあるが、どれも急ぐ必要のないものだ。
であればそろそろ・・
「・・ゆーちゃんどうしたの?」
「もしかしてお腹が痛いの?」
「大丈夫、体調は万全だよ」
ダンジョンへ出発の時間になっても考え事をしてる俺が心配になったようだ。
・・悩むくらいならやっちまうか。そうすれば稼ぎも良くなるしな。
「地下十五階のボスを倒そうと思う。今の俺ならおそらく問題ないはずだ」
「まってましたなの! ゆーちゃんならよゆうなの!」
「・・そうね。ゆーちゃんは強いのだから大丈夫だと思うわ」
「これで新しい階に行けるね!」
ちみっ子達は俺の勝利を疑ってないようだ。
もちろん俺自身も勝てると思っているので戦うのだが。
「とりあえず今日はボス部屋まで行こう。問題なければそのまま挑む」
「・・今回は撮影は無いのかしら?」
「・・それを阻止するためにもさっさと攻略するんだ」
今回の戦い方は他の人が見たら、開いた口が塞がらないようなものになる。
マネ出来るのは同じスキルを持ってる人だけだろう。
そんなのを撮影して流されたらまた目立ってしまう・・
なので今回はダマ攻略でいきます。
「僕もみーちゃんとちーちゃんみたいに撮ってほしかったのに」
「それに関してはアレンにでも言えば、いつでも喜んでセッティングしてくれると思うぞ」
きっとアレンの事だからゴムチューバーの『リユニオン』の甲斐さん達を引っ張り出して撮影してもらうだろう。
下手すると全十二話のストーリーを作ってきそうだ。
「それならぜんはいそげなの! だんじょんにいくの!」
「そうだな、行きますか」
改めて俺達は車に乗り込みファーストを目指す。
十五階を突破すればとりあえずレン達と合流することも可能だし、そうじゃなくても素材の買取価格が上がるので収入が増える。
問題があるとしたら、龍二さんに攻略組に入れられてこき使われる場合か。
自分でこう言うのも何だが、俺が攻略組に入れば間違いなく大活躍だろう。
無限に持ち込める資材、圧倒的な移動速度、戦闘力でも地味なスキル構成ながらレン達にも負ける気はしない。
そんないつの間にかチーターのようになってしまった俺が攻略組に入ると、ダンジョン攻略の醍醐味が無くなってしまう気がする。
今の攻略組のやり方こそが古き良きダンジョンの攻略法なんだ。
持っていける荷物に限りがあり、少しずつモンスターを倒しながら手探りでマッピングをする。
回復手段や食料が無くなる前に帰還をして、それまでの成果を換金して無事に生還したことを喜び飲みに行く。
それを俺がやると食料無限、回復手段はみーちゃんの魔法、モンスターは全逃げ可能、セーフエリアでは温かい食事にふかふかのベッド。みーちゃんの浄化魔法でスッキリ清潔。かわいいちみっ子達に癒してもらえる。
・・他の冒険者達に石でも投げられそうだ。
これでは攻略組には入れない。やるなら俺とちみっ子達だけで攻略をする。
レン達に合流したとしても差し入れをするくらいにしたほうがいいだろう。
本当なら俺達でボスを一番乗りで倒したいが、ここまで頑張った攻略組を差し置いてそんな事は出来ないよな。
そんなこんな考えてるうちに、車は上野公園へ到着した。
そもそも今考えるべきは目の前のボス戦の事であるべきだな。
勝てる算段はあるとはいえ、集中しないと足元を掬われるかもしれない。
ヘタして大怪我でも負ったらちみっ子達が泣くだろうしな。気を付けよう。




