第二百七話 水神社退ダン
数時間後。
大量ののり男さんの残骸をゲットし、ホクホクな俺達。
そろそろ帰還の時間だ。
「みんな思い残しはないな?」
「いっぱいたたかえてたのしかったの!」
「・・早く帰って響子を見たいわ」
「美味しいものもいっぱい手に入ったね!」
ちみっ子達も満足なようだ。
駆け足での探索になってしまったが、十分楽しむことは出来た。お土産もたっぷりだしな。
もっと潜っていけばまだまだいろいろな海の幸が手に入るのかもしれないが、このダンジョンの開拓はここの冒険者に任せよう。
ウチらはウチらのホームに帰ることに。
まずはギルドハウスを目指す。今日までの食材以外のドロップ品の買取と釣り竿の返却。それと宮本さんにも挨拶をしておこう。
さて移動開始だ。
昼も食わずに外を目指したおかげで、夕方になる前にはダンジョンを出れた。
もちろんお腹が空いてはいるが福寿荘で美味いものが食えるのがわかっているので、みんなおやつくらいで我慢するつもりだ。
まずはドロップの買取からだ。
俺達は竜宮館に入り受付のおねーさんのもとへと行く。
「こんにちわ。釣り竿の返却と買取をお願いします」
「わかりました。ではまず釣り竿から預かりますね」
との事なので、釣り道具一式をおねーさんに返却した。
おねーさんが釣り竿をしまいに行ってる間に、今日までのドロップ品をカウンターに載せた。
約一週間分だが食材は全て持ち帰るので納品はほぼ魔石と少量の素材。
運搬はトートバッグ二つで事足りた。
「あら、食材はないのですか?」
「それが目当てで潜ったようなものなので。食材以外だけでお願いします」
当然のように来た質問に苦笑いでそう返した。
そういった人間はたまにいるのかおねーさんは特に気にすることもなく俺に番号札を渡して、二つのバッグを後ろの作業台に回した。
「今のうちにおやつでも食べようか」
「まってましたなの!」
俺はあらかじめ出しておいた豆大福を三人に渡した。
飲み物もあるが、ちみっ子達のちっちゃいお手々で両方持って食べるのは大変だろう。袋に入れたまま俺が持っておくことにする。
あたりを見回すと冒険者の姿は見られない。
やはり漁がメインのダンジョンなので、人が多いのは早朝なのだろう。
また探索する冒険者も、復活したばかりのここにはまだ集まってきてないようだ。
これが桜木亭ならば、この時間からは帰還した冒険者たちでごった返しているだろう。
隣の食堂でも冒険者や観光客がガヤガヤと飯を食ってるはずだ。
・・アカン。どんどんホームシックになってくる。
『三番のカードをお持ちのお客様、窓口へお越しください』
そうして感傷に浸っていると、思ったよりも早く案内の電子音声が流れた。
まだ豆大福を食べているちみっ子達を置いて、カウンターへと向かった。
「おまたせしました。こちらが買取金になります」
差し出されたトレーの上には四万円ちょっとのお金が載っていた。
魔石ばかりだしこんなものだろう。
「あ、すいません。アポはないんですがギルマスの宮本さんに会いたいんですが可能ですか?」
「本城さんであれば問題ないと思いますよ。今連絡しますね」
おっと、俺の顔を覚えられていたか。いやちみっ子達の存在かもな。
まあ話が早くて助かるので問題なしだ。
「ギルマスがこちらに来られるそうなので、そのままお待ちください」
「わかりました」
こっちが宮本さんの部屋に行くのかと思ったのだが、まあ軽く挨拶をするだけだしここでもいいか。
程なくして宮本さんが階段を降りてきた。
「お疲れ様。今日はこれで上がりかな?」
「今日でですね。明日には東京に帰ります」
「あれ、早くないかい!? もっとこっちで活動すると思っていたのに」
「いろいろあったんでホームシックになりました。まあ食材もいっぱいゲットできたし、ダンジョンも楽しめたのでもういいかなと」
「子供かねと言いたいところだけど、きっと水神社を復活させるにあたって本城君の言う通りいろいろあったのだろう。無理に引き止めることも出来ないな」
はい、いろいろありましたとも。
如月さんやヤスには会えないが、二人とも漁に出ているのなら朝早いだろうし仕方ないな。
まあ別に今生の別れでもないし、何かしらの用事でこっちに来ることもあるかもしれん。
それにあっさりした別れのほうが冒険者らしいじゃないか。
「明日帰るということは今日は福寿荘に泊まるのかな?」
「そうですね。最後に温泉と美味い飯を堪能してゆっくりと東京に帰ります」
「あの宿を気に入ってくれたようで紹介したかいがあったよ」
そういえば最初は宮本が手配してくれたんだったな。
リーズナブルな値段で温泉もあって食事も美味い素晴らしい宿だった。
「こっちに来ることがあったらまた顔を出しますね」
「ああ。高倉さんによろしく言っておいてくれ。『総員起立!』」
急に宮本さんが大きな声で仕事をしていた職員達を立たせた。
豆大福を食べ終えたちみっ子達も何事かとびっくりしている。
「本城君、そして精霊のお嬢さんたち。水神社を救ってくれた事、心より感謝します。私達はこの恩を決して忘れない。ありがとうございました!
『ありがとうございました!』
宮本さんと職員の皆さんからの御礼の言葉。
とても嬉しいのと同時に、ものすごくこっ恥ずかしい。
俺は愛想笑いをしつつ、ちみっ子達を抱えて竜宮館を逃げ出した。
後ろから笑い声が聞こえたがパンピーな俺にはこんな空気は耐えられません・・
異世界でライオード王子達と別れたときもこんな感じだったが、あれは異世界の空気があってこそカッコいい別れになったのだ。
同じ日本人にあんなに一斉にお礼を言われるなど、嬉しくはあるのだが晒し者のようで恥ずかしいです。
ほとぼりが覚めるまではこっちに来るのはやめよう・・




