第二百六話 ノリだー!
水神社最終日。
今日は昼過ぎまで十二階で活動してから引き上げる予定だ。
朝食は早起きして予定通りアサリの味噌汁、さらにアサリの佃煮も作ってみた。
昨日は生か焼きだけだったので飽きずに食べられるだろう。
「・・お味噌汁いい味だわ」
「つくだにもあまくておいしいの」
「ご飯がたくさん食べれるね!」
ちみっ子達にも好評で何よりだ。
俺も朝から丼飯が進む。すでに三杯目だ。
満足な朝飯の後はさっそく地下十二階に向かう。
ここから階段まではまっすぐ進めば一時間くらいだろうか。
洞窟型のファーストと違ってオープンフィールドな水神社は、階段の位置がわかるのであれば最短距離を進めるのが利点だ。
ただし未踏破の場合、広大なフィールドから階段を探すのがものすごく大変なのだそうだ。
もちろん洞窟型でも大変だがこちらは道を一つずつ潰していけばいいのに対して、オープンフィールドの場合は広大な敷地を隈無く探さないといけない。
この階層のように山があったり、他の場所なら鬱蒼とした森の中や過酷な砂漠があったりもする。
そんな中を歩き回って探すのはツラたん。先駆者たちには感謝しかない。
俺達はその恩恵に預かって地下十二階へと突入していった。
ここも十一階と変わらず湖のフィールドとなっている。
ここにも山が見えるが、貝が採れるのかどうかまでは調べてないらしい。
わかっているのは湖フィールドであることと、出現するモンスターの特徴やドロップアイテムだけだ。
「ここでは何をするの?」
「またつりをするの!」
みーちゃん、残念だが釣りではない。ってか散々楽しんだでしょうが。
魚介類の豊富なこのダンジョンだが、海産物は魚や貝だけではない。
この階では日本人としては是非とも確保しておきたい食材がある。
「ここではモンスターの討伐だ。ドロップする食材を狙うぞ」
「・・またイールドッグみたいな?」
「あんなキモい奴じゃないから安心してくれ。今日倒すのはのり男だ」
『のりお?』
変わった名前に三人が揃って聞き返してきた。
確かに誰が付けた名前なのか、日本人な名前となっている。
「名前の通りに海苔をドロップするモンスターだ。だからのり男って付けられたのかもな」
「海苔! 美味しいよね!」
「み、みーちゃんはおにぎりがすきなんだな」
「・・トーストに乗せても美味しいわよね」
日本人の心、名脇役の海苔。
朝、アサリの佃煮を作ってるときに、ここでゲットした海苔で海苔の佃煮も作ろうと思った。また白米が進むことだろう。
あとみーちゃんはいつその画伯のことを知ったのかな? ドラマをやってたのはずいぶん昔だったはずだが・・
「噂をすればのり男さんの登場だ」
俺がモンスターの現れた方を向くと、ちみっ子達も一斉にそちらを向いた。
のそっと木の陰から現れたのは人形のモンスター。ただし外見は真っ黒な苔のようなものに覆われている。
海苔人間・・確かにのり男だな。
「アレがのり男だね!」
「・・黒いシロタイツマッチョみたいね」
「でもまっちょではないの」
みーちゃんの言う通り、モサモサしてるのでマッチョには見えない。
どちらかといえば黒いイエティだろうか?
「こいつは表面のモサモサのせいで打撃が通りにくいそうだ。まあ俺は貫通攻撃があるから問題はないと思う。魔法は元が海藻だからか水魔法の効きが悪いらしい」
「みーちゃんのでばんをうばうわるいやつなの!」
斬撃が有効そうなので、一番適してるのはふーちゃんの風の刃だろうか。
この階層の敵ならちーちゃんの土魔法でも倒せるだろう。
みーちゃんは無理するな。
「じゃあたくさん海苔を集めて美味しいご飯を食べるぞ!」
『おー!』
そして始まる蹂躙劇。
やはり十二階程度のモンスターでは俺達の敵ではない。遭遇するたびに蹴散らしていく。
のり男さんを殴ってみて気付いたのだが、コイツは体にモサモサが付いているのではなく、どうやら体自体がモサモサで出来ているようだ。
殴った手応えが想像以上に軽かったのだ。
――体は海苔で出来ている。モサモサを斬っても無限に海苔が出て来そうだ。
なおドロップアイテムの海苔はちゃんと袋に入って出てくるので安心して食べられます。
「ドロップする海苔は何種類かあるみたい?」
「・・そうね。色や袋に書かれている文言が違うみたい」
二人にそう言われたので、雑にアイテムボックスに放り込んだ海苔を見てみる。
アイテムボックスの内容の表示には『高級海苔』『上海苔』『海苔』と確かに三種類に分かれていた。
取り出して見比べてみると、高級なものほど色が濃いようだ。
俺が普段食べている海苔が高級なわけがないので、きっとこの一番下の『海苔』と同じレベルなのだろう。
高級なのは有名な『有明海苔』とか、昔東京でも造られていた『浅草海苔』などの美味しさだろうか。食べるのが楽しみだ。
どうせなら米や水にもこだわって、最高に美味しいおにぎりを作るのもいいかもしれない。
その時まで高級海苔を取っておけるように、ここでたくさん集めていこう。
のり男さんごめんなさい。そしてありがとう。




