第二百五話 カキ食えば
「確かシャコ貝って美味いって聞いたことがあるが・・こいつはなんかなぁ」
ここまで大きいと食べる気自体が沸いてこないんだよなぁ。
中を見てみたいが、食べもしないのに殺すのも嫌だしな。
「・・じゃあこのまま放置かしら?」
「ちょっともったいない気もするがそれでいいだろう」
流れるように転がり込んできたイベントだが、ここはスルーさせてもらおう。
そう思ってみんなで移動しようとしたとき、巨大シャコ貝に動きがあった。
「かいがあいたの!」
「・・開いたなぁ」
まるで自分を見ろと言わんばかりに、その大きな貝がパカっと開いた。
そしてその中には思った通りの巨大な身と・・
「真珠だ! しかもすごい大きい!」
「・・真珠だなぁ」
これまた見たことのないほど巨大な真珠が鎮座していた。
コイツを売ったらとんでもない金額になるかもしれん。
「ゆーちゃんとらないの?」
「こんなのトラップの予感しかしないだろ」
「・・まあ確かに怪しいわよね」
立ち去ろうとしたら貝が開いて中からデカい真珠が出てくる。
俺の中でシャコ貝のイメージと言えば、その巨大な貝に手や足を挟まれて動けなくなるといったものだ。
別にわざわざ手を突っ込んで取らなくても、棒みたいなもので真珠を叩いて転がせばいいが・・
「こんなもん売りに出したら目立つしな。前の俺なら喜んで取ってたかもしれないが、特に今は金銭関係で目立ちたくない」
大きな金が動けばろくでもない輩が集まってくるかもしれない。
ウチにある以前のミスリルだらけだったガーデンと同じだ。売ったら悪目立ちしてしまう。
ちみっ子達をそんな危険なことに巻き込みたくはない。
欲をかきすぎずに程々に稼いでいればいいんだ。
「そういうことなの。ゆーちゃんはいらないからくちをとじるの」
みーちゃんがシャコ貝に向かってそう言うと、言葉を理解したかのようにゆっくりと貝が閉じていった。
もったいないとは微塵も思わなかった。唯一思ったのはどんな味だったのだろうの一点だ。
今度シャコ貝が売ってたら食べてみるかな。
「じゃあそろそろセーフエリアに行くか」
本当はここでおやつの予定だったが、ここからならセーフエリアも近いし向こうでゆっくりティータイムとしよう。
俺達はシャコ貝に見送られるようにその場を後にした。
ワンチャンあの真珠は大精霊様からの贈り物だったのかもしれないが、そうとは言われてないので気にしないでいこう。
セーフエリアは先程の場所から十分ほどの距離にあった。
もちろん道中の貝も採取しつつ歩いた。
「お疲れ様。おやつを出すからゆっくり休んでくれ」
「まってましたなの!」
テーブルに着いた三人にジュースとケーキを出してあげる。
ハイキングレベルとはいえ、山を登りながらの貝の採取だ。元気に見えても疲れはあるだろう。
ちみっ子達がおやつの間に俺は夕飯の準備を進めていく。
とはいえバーベキューなのでそこまでの準備はいらない。
貝は焼くだけだし、肉は下味を付けて放置でいい。野菜もカットするだけだ。
後は外にバーベキューグリルを用意して夕飯の時間を待つだけ。
ログハウス外も一定範囲はセーフエリアとなっているので、食事中に三尾狐が襲ってくることもない。
「・・明日が最終日でいいのかしら?」
「そうだな。地下十二階に行ってそこでおしまいだ」
夕飯までの時間をちみっ子達とにらめっこなどをして潰していると、ふとちーちゃんが聞いてきた。
マップがあるのはこの階までだ。
地下十二階についてはモンスターとフロアの特徴の情報があるだけ。
もちろん十三階に下りる階段を見つけるまで粘る気はない。広大なフロアから階段を探すのはとても時間がかかるものだ。
それはここの冒険者達に頑張ってもらおう。
「ゆーちゃん、そろそろご飯にしようよ」
「みーちゃんもおなかすいたの」
おやつを食べてからそんなに経ってないのによく食べるのね。
まあ外も暗くなったしそろそろ頃合いではあるか。
俺は外に出てグリルの炭に火をつけていく。
ちなみにこのグリルは普通に立てるとちみっ子達には高いので、足を外して木箱の上に置いている。
当然俺には低くなるがちみっ子達優先だ。
ローテーブルにアイテムボックスにしまっておいた食材を出していく。
貝は焼けるのに時間がかかるので先に乗せておき、まずはこいつからだ。
「さあ生牡蠣からどうぞ」
皿に蓋を外した牡蠣がたくさん乗っているだけなのに贅沢な一品。レモンとポン酢はお好みで。
一応当たると怖いので、蓋を剥いた時点でみーちゃんに浄化魔法はかけてもらった。
みんな牡蠣を一つずつ手にとって殻から身を一口ですすった。
・・結構大きな牡蠣だからちみっ子達は口の中がパンパンだ。
俺もまずは何も付けずに牡蠣を食べる。
「ウマい! 木に生ってたくせに海の味がするな」
何故か塩味のするプリプリ身は、ジューシーかつ濃厚で口の中を幸せにしてくれる。
ちみっ子達ももぐもぐに時間はかかっているが美味しそうにしている。
「お次はレモンで行くか」
皿に添えてあるカットレモンを絞り、再びその身を口にする。
こちらは磯臭さが抜けて、レモンの爽やかな香りと純粋な牡蠣の味が口に広がる。
焼き物に行く前にこれで腹一杯にしたくなるほど幸せな味だ。
その後も焼き牡蠣、焼きサザエ、牡蠣ハマグリといった黄金トリオを満喫していく。
魚介に飽きたと思っていたが貝はまた別物なんだな。
気付けば俺もちみっ子達も肉よりも貝ばかり食べ続けた。
明日の朝はアサリの味噌汁を作るかな。
ここでの最後の朝飯だし手の込んだものもいいだろう。




