第二百三話 山の海鮮
湖の周りを走りながら採取地の山を目指す。
他の湖を見たことがないので比較が難しいが、一周歩くには数日はかかるのではないだろうか。
俺が身体強化と神速を使い続けて半日で済むかどうかだ。
もちろん負担が大きいので今は神速だけで移動している。山自体はそう遠くなう場所にあるしな。
ちみっ子達は肩車と両腕で一人ずつ抱っこだ。改造したダイフクを使いたいところだが、ダイフクは後ろ手に引くものなので乗ってるちみっ子は前方に攻撃がしづらい。
そもそも二人しか乗れないので、三人で乗れる乗り物を探したほうが良さそうだ。
「あ、キツネが来たよ! 僕がやっちゃうね!」
肩車の権利を勝ち取ったふーちゃんが、前方に現れた大きなキツネに向かって風の刃を飛ばしていく。
キツネなので素早そううだが、弾速の早い風の刃を避けられずに食らって消滅した。
『三尾狐』という名の尻尾が微妙な数のモンスターだ。深く潜れば九尾も出て来るのだろうか?
ドロップアイテムはピンクベア同様に毛皮だ。ただこっちのほうが高級感がある気がする。
両手が塞がっているので行儀が悪いが足でアイテムボックスに蹴り入れていく。
移動中の攻撃はこのようにちみっ子砲台にお任せだ。俺は蹴るくらいしか出来ないからな。
「おおきいきつねはあんまりかわいくないの」
「・・そうね。キツネは小さいから可愛く見えるものね」
三尾狐は大型犬くらいの大きさがある。これで甘えてくるのであればまだしも、襲ってくるのでは可愛いとは思えないな。
現れるたびにちみっ子達が即殲滅している。
「あの山結構遠いね」
「歩きで行くなら半日はかかるだろうな。さすがに十一階ともなるとフィールドも広いもんだ」
地図を見ながら経由できるセーフエリアで休みつつ走っているが、なかなか疲れる。
他の冒険者たちでは強化のスキルや疾風の靴を持っていないし、荷物もあればメンバー間の体力もバラバラだ。
軽いちみっ子達を抱えて俺一人が走るこちらとでは行軍速度は天と地ほどの差がある。
むしろちみっ子達を抱っこしてられるのはご褒美でしかない。お父さん張りきっちゃうぞ!
まあそんなこんなで移動すること四時間ほど。ようやく山の麓まで来ることが出来た。
「さっき見たときは大きく見えなかったけど、近くで見ると結構大きな山だね」
「まあそれでも標高数百メートルくらいだろう。ハイキングに適した山って感じだな」
この山にはご親切にも山道もあればセーフエリアのログハウスもあるそうだ。
ここからは採取になるので、ちみっ子達には下りて一緒に探してもらおう。
「けっきょくここにはなにがあるの?」
今まで散々ぼかしてきた目的をみーちゃんにつっこまれる。
ではそろそろ発表しましょうか。
「この山では――お、あそこにあるな」
ちょうどよく視線の先の木の根元にそれが見えたので、ちみっ子達を連れて見に行く。
その木の根元には白いキノコ・・ではなく、白い貝が生えていた。
「・・これは貝よね?」
「貝だな。ハマグリかな?」
「へー、貝って山に生えるんだ!」
ふーちゃん、そんなワケなかろう。ダンジョンだけのイカれた仕様だ。
まあ、もし山に生えている理由を考えるのなら、海に潜らなくても貝が採れるようにしたのかもしれない。
地下一階での水揚げに貝類があるのかは知らんが、ここなら普通の冒険者でも貝を集められる。理由はともかく俺達としては大助かりなんだ。
「・・じゃあ木の根元を探していけばいいのね」
「いや、貝によっては幹に張り付いていたり、木に生っているのもあるそうだ」
どこかにそういったものがないか見回してみる。
すると視界にブドウのように木の枝にぶら下がっている黒い塊を見つけた。
そこまで移動してよく観察してみる。
「・・なんかキモいな」
「これも貝なんだよね?」
ふーちゃんが疑問に思っても仕方ないコイツは、しじみっぽい黒い貝が集まってブドウのようになっているのだと思う。
それがいくつも枝からぶら下がっているのはちょっと怖い。
「ここのかいはぜんぶたべられるの?」
「ああ。ギルドで調べたところ、全て食用だったそうだ」
「じゃあいっぱいとるの!」
さすがみーちゃん怖いもの知らず。
とはいえ襲ってくるわけでもないので、みーちゃんの言う通りどんどん採取するべきだな。
「じゃあ俺は高い位置の貝を採るから、三人は下の方を探してくれ」
そう言ってちみっ子達にはビニール袋をそれぞれに渡す。
一応怪我をしないように軍手も渡しておく。ただ大人用なのでぶかぶかではあるが・・
「じゃあ改めて山に入っていこう。ゆっくり集めながらセーフエリアわ目指すぞ」
「今日は貝パーティーだね!」
「・・貝以外にも欲しいわ」
「それなら肉も魚も出して今日もバーベキューにするか」
BBQ向けなハマグリやサザエなんかが手に入れば最高だな。
それ以外も他の料理に使えるし、じゃんじゃん採っていこう。
「おまえもあみやきにしてやろうかなの!」
「何でちょっと閣下が入ってるんだ・・」
みーちゃん閣下は哀れな生贄を手に入れるべく、山の奥へと突撃していく。
俺達もまた従僕のごとく閣下の後を追うのだった。




