第百九十八話 やめられないしとまらない
宮本さんと別れてダンジョンへと逃げ込んだ我々。
当初の予定通り地図を手に地下六階まで直行する。
「到着する頃には昼飯時になりそうだな。セーフエリアで先に昼食にしよう」
「おひるはなにをたべるの?」
「がっつり肉にしようか。出発前に作っておいた料理がまだあるしな。生姜焼きか唐揚げか・・」
水神社に来る前に仕込んでおいた料理は異世界の旅の途中でも食べたが、まだまだたくさんある。
別に悪くなるものではないが、昼飯は作り置きを食べてさっさと行動を開始しよう。
「唐揚げと生姜焼きだね。お昼から豪華だね!」
「今日もちみっ子達は健啖家だな・・」
お肉たっぷりなメニューに変更して喜ぶちみっ子達。
元気で腹ペコなのは良いことだが、その後すぐに探索に行くんだぞ?
お腹いっぱいだからおんぶは無しだからな。
まあそんなわけで地下六階に到着。ワープポータルを起動してからあたりを見渡す。
長く続く土手と並行して流れる川。川幅は広く、所々に大きな橋がかかっているのが見える。
何を参考にしたのか河川敷には野球場まである。
セーフエリアも河川敷にあって、そしてこの階でも相変わらずログハウスとなっていてホッとする。
別に気候や気温の変動があるわけでもないし敵からの視線も遮られているのはファーストでも一緒だが、木で造られているログハウスでは温かみがある気がする。
逆に言えばダンジョン内であるという緊張感が減ってしまうデメリットもあるかもしれないが・・
俺達は中で昼食を食べて、軽く一休みしたところでログハウスを後にした。
「さて、ここでの目玉はやはりモンスターのドロップだな。さっきもちらっと見えたが『跳ねエビ』というモンスターがドロップするエビ類がお目当てだ」
ここのモンスターである跳ねエビは人間サイズのエビであり、陸上でピチピチ跳ねまくっているというシュールな見た目のモンスターだ。
だがその跳躍力で繰り出す体当たりはかなりのダメージになるそうだ。なんせ体が殻で覆われていて硬いのだから。
下手に頭に直撃したりすると死ぬ可能性もある攻撃だ。
プロレスラーから頭にフライングボディプレスを食らったと考えればわかりやすいか。普通に死ねるな。
「・・エビなら漁でも捕れるんじゃないの?」
「もちろん捕れるがこっちのほうが種類が豊富で、伊勢海老なんかもゲットできるそうだ」
エビも魚に劣らず種類の多い生物で、種類だけなら約三千種類もいるそうだ。
よく聞くエビだとクルマエビやボタンエビ、甘エビあたりか。
日本で一番消費されてるのはバナメイエビだが、意外と名前を知らない人が多い。
大きい種類だとロブスターや伊勢海老やウチワエビなどもいる。
地下一階の漁で捕れるエビは数種類だが、ここの跳ねエビは多くの種類をドロップするらしい。
逆に言えば狙いのエビをドロップさせるのは困難とも言えるが・・
「イールドッグとは違って確定で何かしらのエビはドロップしてくれるそうだ。エビガチャを楽しむ階だな」
「なんでもえびちりにすればいいの」
「天ぷらも美味しいよ!」
「・・唐揚げにしてもいいわね」
確かに種類にもよるが、その辺りならどのエビでも問題なさそうだな。
食用とされているエビは約二十種類ほどいるそうなので、狙いのエビがいるなら二十体ほど倒してようやく一個手に入る。その点はイールドッグよりも分が悪い。
「ちょうどあそこに一体いるな。倒してみよう」
おあつらえ向きにピチピチ跳ねている跳ねエビがいるので戦ってみることにする。
先程も言った通りコイツは体が殻で覆われているので、打撃系が一番の有効打になる。貫通攻撃を持っている俺ならば殴るだけで一撃だろう。
また魔法なら土魔法で石や岩を当てるのが効果的だ。
相性の悪さだと火や風だろうか。質量がない攻撃は効果も薄そうだ。
俺は無造作に近づいてその体に一撃を加えた。
確かに体当たりをされると危ないかもしれないが、人間サイズなためにこちらの攻撃も当てやすい。跳ねてきたとしてもカウンターで当てられる。
予想通り一撃で倒れたエビ野郎。そこには魔石と十尾ほどのエビが入っているパックが出てきた。
「ゆーちゃん、これは何エビ?」
「・・わからん。でかいエビならわかる気もするが、普段殻付きのエビって見ないからなぁ」
家ではあまりエビを使わないし、使うとしても殻がない身と尻尾だけのものが多い。
当然外食で食べるエビも殻のないものが大半だしな。
伊勢海老やロブスターならわかるのだが・・すまんなふーちゃんよ。
「ただここでドロップするのは全て食用だ。調理自体は問題ないだろう」
「きょうはえびぱーてぃーなの!」
エビも意外とお高い食材だ。バナメイエビならまだしも、クルマエビやボタンエビなど普段食べることはないし・・
海老づくしの料理なんて、ウナギに続きかなり贅沢なお食事になりそうだ。
「イールドッグみたいに気持ち悪いわけでもないし、今日も狩りまくろうか」
「でもみーちゃんとふーちゃんは、あんまりでばんがなさそうなの」
「そうだね。力を込めて攻撃すれば倒せるけど、長続きしないしね」
みーちゃんなら氷塊をぶつけたり、ふーちゃんなら高威力の風の刃で攻撃も出来るだろうが、何十体も倒すのには向かないだろう。
二人にはたまに攻撃してもらい、俺とちーちゃんがメインで戦おう。
特に殴るだけで倒せる俺が一番相性がいい。今日はちみっ子達に俺の活躍を見せるとしよう。
調子に乗ってそう心に決めた俺は一人で百匹くらい倒して、ちみっ子達からの称賛と引き換えにヘロヘロになった・・
この後飯を作るのか・・あ、おやつ出しますんでちょっと休ませてください。




