第十九話 ゆーちゃん
おはようございます。
そして仕事に行ってきます。
仕方ない。倒さないわけにはいかないし覚悟を決めて・・
「・・遠距離攻撃で倒そう」
「おにいさん、ひよったのー」
・・これでも頑張ったんだよ?
それにちょうど試したいこともあったし。
俺はみーちゃんが乗ったカートを引いてはぐれウィーズルから10mほど離れる。
これだけ離れれば顔は見えない。
右手を構えて一つ大きく深呼吸をして・・
「スラッシュショット!」
手刀の形で右腕を振るった。
刀の時と同様、白い斬撃がはぐれウィーズル目掛けて飛んでいく。
きゅあぁぁ・・
はぐれウィーズルの断末魔が響き渡る。心が痛いです。
山羊座さんの聖剣を楽しみにしていたのに、こんな事になるとは・・
まあそれでも大量の経験値を得て、めでたくレベルアップを果たした。
ステータスウインドウを見てみると『????』表示だったスキルが『召喚魔法』に変わった。
「これはみーちゃんがどこにいても呼び出せるの?」
「そうなの。いつでもじゃじゃじゃじゃーんてとびだすの」
君は大魔王なのか?
ついでなので帰る前に、召喚魔法も試してみよう。
みーちゃんにカートから降りてもらい、少し離れて観察しながら使ってみる。
「召喚魔法!」
魔法を発動すると、誰を呼び出すか頭の中に選択肢が出る。
もちろん今はみーちゃんしか表示されない。
「みーちゃん!」
選択の余地はないので、みーちゃんの名前を呼ぶ。
するとみーちゃんの足元と俺の目の前の地面に、魔法陣が現れた。
みーちゃんは足元の魔法陣に沈んでいき、目の前の魔法陣から浮かんできた。
「みーちゃんさんじょうなの!」
なんかビシッとポーズを決めるみーちゃん。
子供向けの魔法少女の衣装とか着せてあげたくなる。
とりあえず、これでやることはやっただろうか?
本来ならカイザーナックルで本格的な戦闘をしてみたかったが・・
殴るのは『ファースト』の魔物にしましょう。
「おにいさん、はぐれうぃーずるがたねをおとしてるの」
みーちゃんの言葉に、俺ははぐれウィーズルがいた場所に戻ってみた。
確かに種が落ちている。みーちゃん目がいいな。
これははぐれマッチョの時と同様、レアアイテムの『速さの種』だ。文字どおりステータスの速さを1ポイント上昇させる。
たくさん集めればダンジョンの外でも、ボルトの速さでフルマラソンだって出来るだろう。
でもそんなに集まるまではぐれウィーズルを狩り続けたら精神が持ちません。
何事もほどほどに。
「そうだみーちゃん。俺を呼ぶときはおにいさんじゃなくて豊でいいよ」
呼び方について、さっきからちょっと気になっていたのでそう伝えた。
『おじさん』ではなく『おにいさん』なのは嬉しいが。
「じゃあゆーちゃんってよぶの」
「ゆーちゃん・・まあいいか。じゃあそれで」
ちょっと恥ずかしいが、みーちゃんにならいいか。
それでは今日は撤収しよう。
「じゃあみーちゃん、また乗っていいよ」
「もうかえるなら、ゆーちゃんとてをつないであるくの」
この子もう俺の娘ってことで。
みーちゃんに近づく悪い虫には、俺のカイザーナックルが火を噴くぜ。
地下5階に戻った。
ポータルがあるので帰りは楽だ。しかしみーちゃんとはここでお別れだ。
「じゃあみーちゃん。ダンジョンに潜ったらすぐに呼ぶから、今日はここまでだね」
「?」
みーちゃんの手を放し、そう告げると不思議そうに首をかしげた。
そして再びみーちゃんが俺の手を取る。
「みーちゃんもいっしょにいくよ?」
「え!?」
「おそとにでて、さっきのあまいのをもっとたべたいの」
いや、そういう事じゃなくてね。出れるの!?
ちなみに魔物はダンジョンから出れない。地上部との出入り口に結界のようなものがあるらしい。
みーちゃんは精霊だから出れるのか?
「外に出ても大丈夫なの?」
「へいきなの。それにおそとにもゆーちゃんがみえないだけで、せいれいはいるの」
そうだったんですか!?
地球は俺らが知らないだけで、意外とファンタジーな世界だった。
でもそういう事なら、連れて行ってあげるか。一人暮らしだから特に問題もないし。
「じゃあ我が家にご招待だ」
「やったーなの! おいしいものたべるの!」
いっぱい食べて健やかに成長しなさい。
精霊が成長するのかは知らないが・・
家に戻った時には18時になっていた。
ちょうど飯時なので、買い物に行こうとするが・・
「みーちゃんもいっしょにいくの」
と言い出した。さすがにまだマズい。
せめて『ファースト』で召喚して向こうから連れ出さなければ、矛盾が生じる。
みーちゃんをどこで召喚したのか聞かれたら困ってしまう。
今日のところは我慢してもらって、明日にでも『ファースト』でみーちゃんを召喚すれば問題はなくなる。
「みーちゃん、明日近くのダンジョンで召喚するまでは、家から出るのは我慢してくれ。一日だけだからお願い」
「むー、わかったの。いきたいけどゆーちゃんをこまらせたくないから、がまんするの」
なんていい子!
思わず頭をナデナデしてしまった。
ふくれっ面をしていたみーちゃんも、頭を撫でたらにこにこ笑顔に戻った。
急いで買い物を済ませよう。そして豆大福も買ってこよう。
きっと今の俺なら素でボルトを越えられる。




