第一話 夢とその道のり
みんなは夢を持っているだろうか?
野球選手でもいい。総理大臣でもいい。お嫁さんになるのだって素敵な夢だ。
叶えば最高だし、かなわなくったって夢のために頑張ってきた努力は無駄にならないだろう。
しかし現実は厳しい。
夢を追いかけている内も、時間は過ぎていく。
いつまでも若いままではない。夢を諦めなければならない時も来るだろう。
他人から言わせれば『さっさと堅実な道を歩め』と簡単に済ませられるだろうが、本人にとってはそんな簡単な話ではない。
悔しいのだ。
夢に届かないことが、自分が特別でないことが、現実を受け入れなければならないことが。
子供のころに読んでいたラノベ。
その影響を受けて俺は冒険者になる道を選んだ。
俺が生まれた年から現れ始めたダンジョン。これは何かの宿命だとさえ思っていた。
気づけよ。世界中に同じ年に生まれた人が何万人いると思ってんだ。
まあ、ガキだったころの俺がそんなことを理解できるわけがなく、小学生のころから冒険者になるために体を鍛えるようになった。
とはいえ、現代社会で実戦的な剣術を習うことなんかできない。
なので代わりに身体能力を上げるために空手、柔道、水泳、マラソンと役に立ちそうなものを習い続けた。幸い運動神経がよかったのか、大会で優勝したりもした。
教えてくれている各先生方からもっと上を目指せるといわれたが、スポーツ選手になる気はないと言い、その後は大会に出るのをやめてひたすらに体を鍛え続けた。
中学に上がるころに親から進路についての話をされた。
「冒険者になる」
きっぱりそう言った俺に両親は反対しなかったが、勉強はちゃんとやれと言われた。
冒険者に必要な知識はともかく、学校の勉強が役に立つのか疑問だったが、
「悩んで、考えて、頭を回転させることが重要だ。多角的なモノの見方、深い考察。冒険者には必要なことじゃないのか?」
と、オヤジに言われた。
確かにそうだ。どの教科でもそういったものが養える。
それ以来学校の勉強にも力を入れるようになったが、成績は中の上レベルだった。まあ勉強することが大事なのだから気にはしなかったが。
高校に入ってからはサバイバル訓練を始めた。
とは言え、出来ることは長期休みに無人島に行って1、2週間ほどキャンプをするくらいだ。
必要最低限の荷物で上陸し、水・食料は現地調達。寝床も屋根だけ作って寝ていた。
できるだけ過酷な状況にしておいたほうが、ダンジョン内での野営の時もつらくなくなるだろう。
在学中には引っ越し屋のバイトもやった。
休みの時にしかできなかったが、それでも卒業までには結構たまった。
大学に行かない俺は高3の三学期には自由登校で時間ができるので、その期間を利用して冒険者資格と車、バイクの免許を取った。
ちなみに冒険者資格取得には三日間の講習と実技がある。
講習会場は国営ダンジョンのそばにあるギルドハウスで行われる。俺の場合は『ファースト』のそばにあるギルドハウス『桜木亭』に行った。
講習ではダンジョンの仕組みや魔物の生態、冒険者に適用される法律などを学んだ。
また実技は実際にダンジョンの一階に入り、支給されたショートソードでレッサースライムを倒したり、セーフエリアでの野営をしてみたりと初歩的な事を教えてもらった。
三日間の講習が終わるとギルドカードが発行される。ついに冒険者になったのだ。
また支給品として前述のショートソードと、手帳サイズの冒険者マニュアル、傷を治すためのポーションを一つもらった。
資格の取得費用は10万円。ポーション一つでも5万円するはずだから、安いものだと思う。
国としても冒険者を増やして、ダンジョン素材をたくさん持ってきてもらいたいのだろう。
これでダンジョンには入れるが、両親からは卒業するまでは冒険者を始めない事と約束しているので、それまでは装備品の準備をしたりバイトしたりと、残りの数か月を過ごした。
そして三月。
卒業式を終え、その日は友人たちと遅くまでバカ騒ぎをした。
友人たちは俺が冒険者になるのを応援してくれている。が、同時に心配もしている。危険な仕事だからだ。
俺はそんな気遣いがうれしい。冒険者になったことで浮かれて足元を掬われないように、慎重に探索を進めよう。
明日から俺は新たな道を歩み始める。