第百九十三話 ブルータス、お前もか
結局この日は釣り三昧で終了。
みーちゃんはブリを釣り上げて満足していたが、ちーちゃんとふーちゃんが対抗心を燃やして大物を釣るまでやめようとしなかったためだ。
まあ結果としては、サバやイワシやあまり馴染みのない沖縄あたりで釣れそうなカラフルな魚などが釣れた。大物はなしだ。
まだまだ粘ろうとした二人だが、流石にタイムアップを告げる。
というのも、このダンジョンでは昼夜の概念があるためだ。
ファーストは洞窟型のため、今のところダンジョン内で空が見える場所がなく昼なのか夜なのかがわからない。洞窟だがダンジョン内は明るいので尚の事だ。
なので時計を頼りに行動しないと長期で潜る場合は時間感覚がおかしくなってくる。それは放置すると体調不良を起こしたり、外に出たときに通常の生活が送れなくなったりとデメリットが大きいのだ。
その点ここでは夕焼け小焼けでカラスが鳴いたら帰りましょうで問題ない。
良い子はセーフエリアに帰って夕食のお時間だ。
別に夜に探索をしてもいいのだが、当然視認性が悪いのでおすすめはしない。
暗視ゴーグルを付けてまで探索をするツワモノが他のダンジョンにはいるそうだが、サバゲー気分なのだろうか?
「・・ゆーちゃん、明日も釣りに行くわよ」
「そうだよ。僕達まだ大きいのをを釣ってないんだから」
セーフエリアであるログハウスで夕食を作ってる俺にそう告げる二人。
ブリを捌くのなんて初めてなんだから集中させてよ。
「明日は流石に探索に行かせてください。お手々がずっと魚臭いよ・・」
「そうなの。おおきいのはみーちゃんがつったからじゅうぶんなの。あとゆーちゃんはあとでせんじょうまほうをかけてあげるの」
さらっと二人を煽るみーちゃん。
そんな事言うと明日も釣りになっちゃうじゃない・・
「・・みーちゃん調子に乗ってるわね」
「これはわからせる必要がありそうだよ」
「いいどきょうなの。まとめてたたきのめしてあげるの」
いやまて。ケンカはダメだぞ。
君達が魔法合戦したらセーフエリアがめちゃくちゃになる。他の人がいないとはいえ、このブリがどうなってもいいのか?
「ゆーちゃん、ペットボトルをちょうだい!」
「ペットボトル? ああ、そういうことね」
どうやら決着はペットボトルフリップで着けるようだ。
前に使ったペットボトルをふーちゃんに渡すと、三人とも闘志を漲らせる。
別にこれならいくらでも勝負してくれて構わない。平和なものだ。
今のうちに頑張ってブリを捌こう。
「ルールは魔法ありで、立たせられなかった人の負けだよ」
「・・腕が鳴るわね」
「まほうしょうぶでまけるわけないの!」
もちろん全力で止めた。
ボトルフリップで魔法ありって何さ!? 新しい競技作らないで?
あれから一時間。
ちみっ子達がボトルフリップに続いて◯✕ゲームで激戦を繰り広げる中、やっとこさ夕飯を作り終えた。
魚を捌くのはともかく、刺し身を引くのはなかなか難しいものだな。時間がかかっちまった。
「ごはんだぞー」
「おなかぺこぺこなの!」
「腕と頭を使ったから疲れたよ・・」
「・・まさに激闘だったわね」
◯✕ゲームって激闘になりうるものだったか・・?
俺の脳裏にはハナタレ小僧達が、土の地面に木の枝で井の字を描いて遊んでるイメージしかないのだが・・
「今日はブリのお刺身?」
「ん、いや今日はブリしゃぶだ。ブリの身をこっちの鍋で軽く湯がいて食べるんだ」
ふーちゃんの言葉で現実に戻されて料理の説明をする。
刺し身の乗った大皿とは別に用意した鍋。
カセットコンロの上でグツグツと沸いている鍋は、中央に仕切りがあって二つの違う味の鍋になっている。
「こっちが和風でこっちがキムチ味だ。あんまり辛くないようにしといたから皆も大丈夫だと思う」
ちみっ子達のために辛さ控えめと言ったが、あまり辛すぎると和風の味がわからなくなってしまうのもある。
どちらの鍋もブリのアラで出汁を取っていて、野菜もたっぷりなのでいい味になっている。
ちみっ子達に食器とご飯を配り、しゃぶしゃぶを実演してみせる。
「こんな感じで軽く色が変わったら食べていいぞ。あんまり火を通しすぎるとただの茹でブリになっちゃうからな」
俺は和風の方でしゃぶしゃぶしたブリを口へと運んだ。
レアで引き上げられた身は脂がよく乗っていて、和出汁と野菜の旨味で味もしっかりと付いている。
新鮮なので生臭さも全く無く、ただただ美味い。
『いただきます!』
俺が食べるのを見ていたちみっ子達は美味しそうだとわかったからか、一斉に箸を手にブリをしゃぶしゃぶしだした。
そしてその味に三人とも笑顔になる。
「おいしいの!」
「・・魚なのにちょっとお肉っぽくも思えるわ」
「いくらでも食べられるね」
好評なようで何よりだ。
俺もちみっ子達に負けじと食べなければ。
・・・・。
「何だろう? なんか見られてる気がする・・」
食べてる最中に違和感に気づいた。
何故だかガン見されてるような・・
ぱさっ・・
辺りをキョロキョロしていると、突然テーブルの上に一枚の紙が現れた。
『・・・・』
みんな食事の手を止めて、既視感のあるその紙に視線が向く。
これはもしかしてアレだろうか?
俺は箸を置いて、その紙を手に取った。
『私も味見したいな。大精霊』
そうか。アンタもか・・
ちみっ子達は大精霊様に取られまいと食事のスピードを上げたのだった。




