第百九十二話 さあ冒険をしよう
一応水神社に入場できるのか聞くために竜宮館に向かう。
買い込んだ大量の食材が重いが、ダンジョンに入るまでの我慢だ。
ちなみにちみっ子達は気を使ったのか全く使ってないのか、食玩だけは自分たちでもっている。それが3つこちらの袋に入ったとしても、重さなんかほぼ変わらないけどね。
ギルドのカウンターに行くと、受付のおねーさんがやつれた笑顔をこちらに向けてきた。よく見れば他の職員達もお疲れモードだ。
これは昨日の騒ぎの対応に遅くまでかかったのだろう。宮本さんや如月さん達も今日はグロッキーだろうな。
「おはようございます。ダンジョンにはもう入場可能ですかね?」
「おはようございます。冒険者の探索は今日から可能ですよ」
「『探索』は?」
何か出来ないことがあるんだろうか? 一般の見学とかか?
「ダンジョン漁の再開が来週からになります。そこからは出入り口を大きな車が通るようになりますので注意してください」
なるほど。さすがに昨日の今日ですぐには漁の再開は出来ないか。
漁協と協力して流通の整備や卸先の確保など、いろいろやることもあるものな。
「冒険者個人が釣りをしたり船を使うのは大丈夫ですか?」
「はい。どちらも問題ありませんが、漁の再開後からは地下二階以降の船のみを使用してください」
さすがに漁の邪魔をするつもりはない。
今回地下一階はスルーして地下二階から探索を始めるつもりだ。
そもそも地下一階はそのためにここの大精霊様が造ったものだしな。
俺はおねーさんに釣り竿のレンタルを頼み、道具一式を受け取ってちみっ子達と電子掲示板へと向かう。
「ゆーちゃん、まだだんじょんにいかないの?」
「ここで地図を出してからだな。そんなに深くまでの地図はないだろうが・・」
ファーストでも利用しているダンジョンのマップの印刷サービスを利用する。
冒険者にとってはとても有難いサービスだ。なんせ初めて潜る階層でも、階段やセーフエリアの場所がわかるのだから。
おまけに出現するモンスターの情報も記載されている。ネタバレが嫌いな人はこのサービスを利用しないものもいるが、俺達はゲームをやってるんじゃない。情報はまさに命だ。
電子掲示板を操作してマップの確認をすると、地下十一階までの情報が印刷可能なようである。早速全部を印刷する。
「やっぱりここのダンジョンは攻略には力を入れてないんだな。ヘタすると十五階のボスもまだ倒されていないのかも」
「・・今まではそれで良かったのよ。その分リソースを漁の方に振ることが出来たのだから」
「確かにそうだな。それでギリギリまで保たせてたんだもんな」
まあ今日からはそんな事情を気にすることもなく探索できるってもんだ。
・・探索メインの冒険者がそんなに訪れるかどうかは知らんが。
ともかくこれでダンジョンに入る準備もできたので、建物を出て入場ゲートへと向かった。
ゲートで立哨している警備員さんに挨拶をして昨日も来たダンジョンの入口へと進む。
来週からはここを魚を運搬する車がじゃんじゃん通るようになるのだろう。
如月さん達も本来の漁師の仕事に戻って、地下一階で漁に出るはずだ。
ヤスや仲間たちと共に今頃は漁の計画を立てているのだろうか?
「早く探索に行こう! 美味しいお魚をいっぱい食べるんだ」
「そうだな。遠回りしてようやく目的を始められる。今日からは探索漬けだ」
そうして俺達は改めて水神社の探索を開始した。
さあ冒険を始めよう!
一時間後、水神社地下二階。
俺達は岸壁に座りながら釣り糸を垂らしていた。
「冒険はどこに行った・・」
「おさかなのほうがだいじなの!」
地下二階に降りてフィールドを見て回ろうとしたところ、ちみっ子達にまずは釣りをしようと言われた。
俺は釣りなんかいつでも出来ると言ったが、ちみっ子達も冒険はいつでも出来ると言ってきた。
結局多数決数の暴力で俺が折れることとなり今に至っている。
ちなみに釣果は上々だ。バケツの中にはすでに三匹の魚が泳いでいる。
そして今も俺の膝の上に座っているみーちゃんがヒットした竿を頑張って引いている。
もちろんみーちゃんだけの力じゃ竿に体を持っていかれるので、俺も一緒に竿を引く。
「すごいひきなの! きっとおおものなの!」
「確かにこれは凄そうだ! 竿や糸が危ないな」
予想外の引きに俺は竿と糸に強化を施す。これで無理にリールを巻いても壊れることはない。
竿は一本だけなので、一匹釣るごとにちみっ子達はポジションを交代しながら釣っていた。
なのでちーちゃんとふーちゃんは俺のそばで固唾をのんで見守っている。
「きっとくろまぐろなの!」
「・・サメかもしれないわ」
「僕はクジラがいい! 背中に乗ってみたい!」
こんな岸壁で釣るようなものじゃないだろう・・
あとサメはともかく、クジラだったら俺の力じゃ引っ張れないって。
しかし結構な大物なのは間違いなさそうだ。頑張ってリールをギリギリと巻き続ける。
「みえてきたの!」
ついに海面近くに魚の銀色の姿が見えてくる。一メートルくらいはありそうだ。
ちなみにこの海では季節や場所を問わず、日本近海の魚が釣れるそうだ。
つまり釣れるものの予想がつかない。
「みーちゃん、一気に引き上げるぞ!」
「りょうかいなの!」
リールを巻きながら竿を思い切り立てる!
糸の先には立派なサイズの・・おそらくブリがビチビチと暴れていた。
夕飯はこれに決定だな。




