第百八十九話 大宴会
風呂に入っている途中から建物内から人の声が聞こえてきていたが、出る段階になったら賑やかにまでなっていた。
団体客でも来たのだろうか?
割とゆっくり温泉に浸かっていたので、ちみっ子達を待たせているかもしれない。急いで着替えて休憩所に向かった。
「ゆーちゃんおそいの」
「すまんすまん。久しぶりの風呂だったんでな」
やはりちみっ子達は先に出てここで待っていてくれたようだ。
三人とも前回同様にここの浴衣を着ている。
魔法少女の衣装もいいが、浴衣姿も可愛らしくて良い。
「女将さんがゆーちゃんがお風呂から出たら食堂に来てって言ってたよ」
「わかった。じゃあ行こうか」
腹へり限界な俺達はいい匂いと騒ぎ声の聞こえてくる食堂へと向かう。
匂いはともかく随分と盛り上がっているな。
まあ冒険者なんで騒がしい食事には慣れているもんだが。
「おや、やっと来たわね。じゃあここに座って」
食堂に着くと、最初に目に入ったのは大勢の人だ。
食堂自体はそんなに広くないのだが、隣室の居間のようなところとの仕切りを開けているのでそれなりに広くなっている。
その二部屋に二十人くらいの人間がいて、食堂に来た俺達を見て歓声を上げ始めた。
女将さんに促されて席に着いた俺達は、目の前の豪勢な料理よりもその状況にぽかんとしていた。
・・いや、ちみっ子達は野獣のような目で料理をガン見してるな。
「騒がしくて済まないね。この人達は近所の人でね、さっき追加でお酒や食材を買いに行ったときに本城さん達のことを話したら一言お礼が言いたいって集まってきたのよ」
「なるほど、そいういことですか」
そう言われて見渡すと若そうな人は数人で、殆どがおっさんやおばちゃんだ。
ご近所付き合いの人達が集まった感じか。
「折角の料理が冷めちまうだろ。さっさと乾杯するぞ」
調理が終わっている康介さんもここにいて乾杯を促してくる。
康介さんが俺のグラスにビールを、女将さんはちみっ子達のグラスにオレンジジュースを注いでくれる。
そして周りの面々も互いに飲み物を注いでグラスを手に持った。
「みんなグラスは持ったね。では水神社を救ってくれた本城さん達に乾杯!」
『乾杯!』
みんなでグラスを掲げて中身を飲み干した。
風呂上がりのビールは最高だな。乾いた体に染み渡る。
ちみっ子達は飲み干すと同時にフードファイターへと変貌した。そんなにがっつかなくても沢山料理はある・・
いや、ありすぎじゃね? 明らかにここにいる人達が満足できるくらいの量があるぞ。
「たくさん食べとくれよ。ここに来た人達も夕飯用の料理を持って集まったから、いろいろ試しておくれ」
「それでこんなにあるのか。バイキングみたいで面白いな」
「そんな大したものじゃないよ。ここらで普通に食べてる家庭料理が集まってるだけさ。本来はお客さんの前に出すものでもないわよ」
そんな事はない。確かに目の前の舟盛りや地魚を使った康介さんの料理もいいが、その土地の家庭料理というのもここでしか食べられないものだ。
ちみっ子達も他のテーブルにある料理を自分の皿に取ってきては席に戻って食べている。普通に夕食バイキングだな。
また俺にはここに集まった人達からお礼を言われながら、次々と酒を注がれ続ける。
気持ちはありがたいが料理も食べたいんだよな・・
注がれる酒もビール、焼酎、日本酒、ウイスキーとチャンポンなのも困る。
それでも笑顔でグラスに注がれては断れない。まあ、嬉しい気持ちはわかるのでこの程度のアルハラは我慢しよう。
「・・全然知らない料理が多くて面白いわね」
「ウチじゃこういった家庭料理はあまり作らないからな。俺も食べたことのない料理もたくさんだ」
油麩を浸かった煮物やホヤの酢の物、呉汁なんかも初めて口にする。
東北は味の濃い料理が多く酒が進んでしまう。
そしてグラスが空くたびに間髪を入れずに次の酒が注がれる。料理よりも酒のほうが胃に溜まってるな・・
ここに集まった人達も、持ち寄った料理を肴にどんちゃん騒ぎを起こしている。
笑って飲んで、泣いて飲んで、みんな昔の石巻の思い出を口にして料理を口にする。
ここにいた人達は皆震災を体験してるのだろう。だからこそ水神社の復活にこれだけ歓喜の声をあげられるのだ。
道中いろいろあったが、異世界に行ってまで水神社を救えて良かったと思う。
「もうおなかいっぱいなの・・」
「これ以上食べられないよ・・」
「・・でもデザートがあるならいただくわよ」
ちみっ子達のお腹はパンパンになっている。それでもデザートは食べれるのは別腹があるようにしか思えんな。
康介さんが食後のデザート用のずんだ餅を出してくれて、ちみっ子達はそれを美味しそうに食べる。
俺が言うのも何だが、見ていてちょっと胸焼けしてくるぞ・・
さすがにデザートを食べ終わると眠そうにしだしたので、一旦三人を部屋に連れ帰って寝かしつけた。
宿に集まってくれた人達はまだ解散していないので、俺はもう一度食堂へと戻った。
流石に俺まで抜けるのは申し訳ないしな。
これはヘタすると朝までコースかもしれない・・




