第百八十八話 ゴツい料理人
漁港を離れて少し走ったところで車を停めた。
あまり早く宿に行っても仕方ないので、先に高倉さんに連絡をすることにした。
「ゆーちゃん、おなかがすいたから、はやくおはなしをおわらせるの」
「さっき連絡したばかりなんだから、あんまり早く行ってもご飯ができてないぞ。ここからすぐに着いちゃうんだし」
「・・そうよみーちゃん。少しは我慢しなさい」
くぅ〜・・
ちーちゃんがそう嗜めると同時に、可愛らしい音がちーちゃんのお腹から聞こえた。
「ちーちゃんもおなかぺこぺこなの」
みーちゃんにそう突っ込まれて恥ずかしそうに両手で顔を覆うちーちゃん。
そんなに気にするな。みんな腹ペコなんだし。
とりあえず俺は高倉さんに連絡するべく、スマホを取り出して履歴から発信した。
プルルルル――
『もしもし、高倉です』
1コールで電話に出る高倉さん。
もしかしてずっとスマホを持って連絡を待っていたのだろうか?
「本城です。こっちは万事解決しましたよ」
『そうか! それを聞いてやっと安心できたよ』
まあ高倉さんとしてはもともと気にしてた問題だ。
宮本さんに俺を紹介したのに俺が異世界に行ってる間は連絡が取れず、ギルド近くには自衛隊のヘリが駐機してるわで色々と心労があったのだろう。
ようやく肩の荷が下ろせた気分なんだろう。
「とりあえず今は水神社はお祭り騒ぎなんで、俺達は逃げ出してきました」
『水神社復活の立役者がいないのもどうかと思うが、君等も疲れているだろうしね。それは仕方ないさ』
「騒ぎが落ち着いたら宮本さんから連絡が行くと思います」
『わかった。君達はそのままそちらに残るのかね?』
「そうですね。可能なら明日から探索に入るつもりです」
『ダンジョン自体はもう大丈夫だとは思うが、くれぐれも気を付けて行きなさい。みんな揃って元気に戻ってくるんだよ』
「わかりました。美味いお土産を買って帰りますので待っていてください」
俺は通話を終えてスマホをポケットに戻す。
これで水神社問題は一区切り付いただろう。後の雑事はギルドの方でやってくれ。
今日は英気を養って明日からの探索に備えよう。温泉が俺を待ってるぜ。
腹ペコのちみっ子達とおっさんを乗せたハイエースは再び宿を目指して走り始めた。
『こんにちわー!』
あれからすぐに福寿荘に着いた。ダンジョンから近いのも高評価な宿だ。
玄関を開けて宿の人をを呼び出す。
「おう、よく来たな」
奥から出てきたのは俺よりも年上、高倉さん世代のおっさんだ。
てっきり女将さんが出てくるものだと思っていたのだが・・
「この前来たときは会わなかったな。俺はあいつの旦那で料理人をしてる康介ってんだ。よろしくな」
「お世話になります。今日は女将さんはいないんですか?」
「あいつは水神社を見に行ったよ。お前さんたちが何とかしてくれただろ? さっき電話しといたからすぐに戻ってくるよ」
女将さんもあそこにいたのか。流石に気が付かなかったな。
この旦那の康介さんは料理人と言ったが、とても日焼けしていてガタイが良くむしろ漁師だと言ったほうが納得できる見た目だ。
もしかすると昔はそうだったのかもしれないな。
「みーちゃんはおなかがすいたの!」
「僕もお腹ペコペコだよ」
挨拶をしてるんだからお黙りなさいちみっ子達よ。
とはいえこの人が料理人なら俺達の対応をしてちゃ料理が作れないよな。
「おお、すまねぇなお嬢ちゃん達。先に部屋に案内するからもうちょっと――お、ちょうどよく戻ってきたな」
康介さんが俺達を部屋に案内しようとすると、建物横の駐車場に車が入ってきた音がした。
おそらく水神社から女将さんが戻ってきたのだろう。
すぐに見知った女性が玄関に入ってくる。
「あんたたちよく来たわね! アンタ、今日は大宴会よ!」
入ってくるなりテンション爆上がりの女将さんが康介さんにそう言った。
女将さんは現地で水神社の復活を見てきた分、喜びが爆発しているのだろう。
「落ち着けって。お客さんにみっともない姿を見せるんじゃねぇよ」
「何がお客さんだい! この人達は水神社の大恩人よ。全力でおもてなししなきゃバチが当たるわよ!」
当たらんて。
俺も康介さんも女将さんのテンションの高さにドン引きだ・・
何故かちみっ子達は当然のように喜んでいるが。
「アンタは急いで豪勢な料理を作ってくるんだよ! えっと本城さんだったわよね。部屋に案内するから、前回と同じように料理が出来るまで風呂にでも入って待ってておくれ」
女将さんは康介さんを奥へと押しやると、俺達を玄関から上がらせて部屋へと案内してくれた。
部屋の場所は前回と同じで、わかりやすくて助かる。
「本城さんはお酒はイケる口かい?」
「ええ、前回は次の日のために飲めませんでしたが今日は飲もうかと」
「わかったわ。食事のときは期待して待ってなさい」
そう言って女将さんは足早に部屋を離れていった。
別に普通に飯を食わせてくれればいいんだけどなぁ・・
「・・とりあえず女将さんの言う通り温泉に入って時間を潰しましょう」
「そうだな。それもここの楽しみの一つだしな」
そうして俺達はゆっくりと温泉で疲れを癒やした。
もちろん約二週間ぶりの風呂は格別だったと言っておこう。




