第百八十六話 水神社再起動
先程までのざわめきがピタッと止まった。
俺達も見物客も光るダンジョンを固唾をのんで見守る。
音もなく夕焼けの港で光るダンジョンは神秘的でさえある。
「そろそろきえるの」
静まり返った港にみーちゃんの声だけが響いた。
するとみーちゃんの言った通り、ダンジョンを覆っていた光が徐々に弱くなっていく。
十秒ほどかけて光が消えると、今度は入口を塞いでいた黄色いテープもスッと消え去った。
「・・これはもう入っても大丈夫ということかね?」
封鎖が解けても誰もが固まっている中で、宮本さんが俺達にそう訪ねてきた。
とはいえ俺には答えられないのでちみっ子達の方に視線を送る。
「・・大丈夫よ。入ってみましょう」
ちーちゃんの言葉を皮切りに再び周囲にざわめきが戻ってくる。
無事ちーちゃんのオッケーが出たので、今度は俺達に加えて宮本さんと如月さんとヤスも伴って入場することとなった。
どうやらこれでダンジョンも復活したようなので、中に入ったら隙を見てアイテムボックスから車を出しておこう。
俺達を先頭に再びゲートを通って水神社に入場していく。
スロープを降りていく俺達の背に、我慢ができないのかヤスが声をかけてきた。
「本当にもう大丈夫なんだよな?」
「・・それを確認しに行くのでしょ。でも問題ないとは思うわ」
封鎖が解けた水神社は先程と特に変わった様子が見られないからか、ヤスだけじゃなく宮本さんと如月さんも少々不安そうな感じを出している。
確かにちゃんと事情を知っている俺達でもなければ、封鎖前と何が違うのかわからないだろう。ってか俺にも違いはわからない。
それでもちーちゃんが問題ないと言うのだから大丈夫に決まってる。
そのまま進んだ一行は先程来た地下一階に到着した。
「じゃあかくにんしてくるの」
「わかった。よろしくな」
先程と同様にちみっ子達の姿が消えて野郎四人が取り残された。
俺以外の三人は少しでも復活したという確証が欲しいのか、辺りを見て回っている。
この隙にスロープの裏側に回って車を出しておくとしよう。
「戻ったよ〜」
数分後、ふーちゃんの元気な声が後ろから聞こえた。
振り返ると笑顔のちみっ子達が帰還していた。
・・君たち毎度後ろに現れるのね。正面に現れて驚かせないようにしてくれてるのかな?
ちみっ子達が帰ってきたのに気付いた三人もこちらへと集まってくる。
「かんぜんふっかつなの!」
「・・みーちゃんの言う通りもう心配ないわ」
だよね。これでまだ問題ありだったら俺は焼肉を食って温泉に入ってあったかい布団で眠るという現実逃避に走るぞ。
・・いや、大団円でも同じ事をするかも。
「何度も念押しをするようで申し訳ないが、本当に大丈夫なんだね?」
ちみっ子達の言葉を信じたいが、不安が勝ってしまうのだろう。
そんな宮本さんの言葉にちーちゃんが応える。
「・・スタンピードももう起きないし、見ての通りクラーゲンももういないわ」
ちーちゃんがそう言うと三人の首がぐるんと沖合の方へと向いた。あんたら首を痛めてないか?
件のクラーゲンは先程俺に挨拶をして消えていったままで、海には何もおらず凪いだ水面が揺れているだけだ。どうやら今まで三人は気付いていなかったようだが・・
「どのダンジョンもいずれは消滅するよ。ここだってそれは同じだけど、少なくとも今生きている人間が死んだ後もここは残るよ」
ふーちゃんがしっかりと言い切ったことでようやく確信が持てたのか、如月さんがガッツポーズをしている。
宮本さんとヤスもようやく安心できたようで穏やかな表情となった。
「やすにでんごんがあるの」
「ふぇ?」
喜びを噛み締めていたところ、唐突にみーちゃんに名前を呼ばれたヤスは間抜けな声で反応した。
この状況で自分が呼ばれるなんて思わなかったのだろう。
「・・ダンジョンがあなたに感謝の気持を伝えて欲しいって。あなただけが最後まで諦めずに頑張ってくれて嬉しかったそうよ」
「・・そうか」
ヤスはそう呟くと後ろを振り向き肩を震わせた。
きっとヤスに限らず全ての関係者達が諦めたくはなかっただろう。
それでもダンジョン復活を実際に考えて行動に移したのはヤスだけだった。
結果を見ればヤスの持ってきたリソースはほぼ意味をなしてはいなかっただろう。
それでも俺達とは違う答えを一人で見つけ出して行動に移した。そしてその想いはしっかりと大精霊様に伝わっていたのだ。
俺としてはコイツにはロクな印象がなかったのだが、誰よりも水神社を大事にしている気持ちは認めるさ。
如月さんもヤスのそんな姿を見てもらい泣きしている。
彼もきっと気持ちの整理などつけられずに今日まで過ごしていたことだろう。
「本城君、それに精霊ちゃん達も本当にありがとう。私達は生涯この恩を忘れないよ。四人の像と共に記念碑を建てようじゃないか」
「やったーなの!」
「・・可愛く造ってね」
「これで僕も有名人だ!」
宮本さんの感謝の言葉とともに発せられた提案に喜ぶちみっ子達。
そこまで言ってもらえると頑張ったかいもあるってもんだ。
「えっと、マジでやめてください」
当然速攻で断った。




