第十八話 真実とためらい
本日はここまで。
みーちゃんみたいな娘が欲しい・・
大精霊様が人間の願いから生まれる。そしてダンジョンを造る。
こんなことを世界に発表してもロマンチストと笑われて終わりになる。
俺だって聞いた相手が水の精霊であるみーちゃんでなかったら、一笑に付していただろう。
「たくさんのにんげんがね、『おはなしみたいなぼうけんがしたい』とおねがいしたから、だいせいれいさまがうまれて、だんじょんをつくったの」
俺が生まれた32年前、その頃はラノベの創成期ともいえる時代。またアニメも、いまだに多くのファンを持つ名作が多く放送されていた頃。
本を読み、アニメを見て自分もこうなりたいと願った子供も大人もたくさんいただろう。
だからこそ『ファースト』は日本で誕生したのかもしれない。
また『ファースト』に挑む冒険者を見て、自分も冒険者になりたいと思う人が増えて、ダンジョンの数が増えていったことも考えられる。
歴史には起源がある。
ダンジョンは決して何の理由もなく現れたのではなかった。
多くの人の夢が形になったものがダンジョンなのだ。素敵。
でだ、
「このダンジョンが特別なのはどうして?」
この話が残っている。
何故ここだけ近くにあるダンジョン、おそらくは『ファースト』の大精霊様が造ったのか?
「ちかくのだんじょんにきてた、たくさんのぼうけんしゃたちがねがっていたの。『おにいさんがひとりでぼすをたおせますように』って。だいせいれいさまはそのおねがいをきいて、ここにおにいさんのためのだんじょんをつくったの」
俺はまたもや泣きそうになってしまった。
俺は今回も、知らず知らずに多くの冒険者の想いに支えられていたんだ。
みんなはこのダンジョンの事を知らない。それでも彼らの想いは大精霊様を動かし、このダンジョンを生み出させた。
そのおかげで俺は今でも冒険者でいられるんだ。
こんなに嬉しいことはない。
ならば、俺はこれからもソロでボスに挑み続けよう。
想いに応えるために、冒険者たちの夢を実現させ続けよう。
「ありがとうみーちゃん。とてもよくわかったよ」
「えへんなの。みーちゃんはなんでもしってるの」
胸を張って自慢げに言うみーちゃんが実に可愛らしい。
さて改めて地下6階に向かいましょう。
奥にある階段に向かって二人で歩いていく。
階段のそばにはワープポータルがある。これでショートカットが出来るようになる。
ぶっちゃけ上の階層は、はぐれマッチョが出ない時点で俺にとってはミスリル以外に需要がない。
そういった意味でもポータルの存在は助かる。
「では、地下6階に向けて」
「れっつごーなの」
二人で仲良く降りていく。
・・これ召喚魔法の意味ってあるのか?
いや、きっとみーちゃんが迷子になった時とかに活躍するさ!
「ところでみーちゃんは足は速い?」
「せいれいだからおそらにはうけるけど、はしるのははやくないの」
空に浮ける方がすごいけどね。
しかしそうすると、はぐれウィーズルを追いかける時が問題だ。みーちゃんが置き去りになってしまう。早くも迷子問題が!?
「そうなると、おんぶするか肩車か・・車・・」
なんとなく引っ張っているキャリーカートを見る。
今はポーションしか入ってないし、みーちゃん一人なら余裕で積める容量はある。
頑丈に作ってあるのでみーちゃんが乗っても、神速で走っても大丈夫だとは思う。
「みーちゃん、はぐれウィーズルを追いかける時はこれに乗ろうか。そうすればみーちゃんも一緒に行けるし」
「のりたいの! たのしそうなの!」
確かに楽しそうだ・・乗る方はね。
とりあえず地下6階まで下りて、みーちゃんを乗せてみる。
「ぱい〇だーおんなの!」
何故そんなことを知っているのか疑問だが、すっぽりとカートに入り、胸から上だけが出ている状態でなんとも収まりがいい。
しかしこの絵面は・・
なんとなく引いているカートを両手で押して歩いてみる。
「みーちゃーん」
「ちゃーんなの」
やっぱ引かなきゃだめだ。
とりあえずはぐれウィーズルが見つかるまでは歩いていく。
乗っているみーちゃんはとても楽しそうで何よりだ。
しばらくすると、大きいイタチを発見した。はぐれウィーズルだ。
そして奴は目が合った瞬間、逃げ出した。
「みーちゃん、行くぞ!『神速!』」
「きゃっほーなの!」
キャリーカートを引きながら爆走する。
まだ慣れてないせいで曲がり角では苦戦したが、カートだけは壁にぶつけないように頑張った。
追うこと一分ほど。約5mまで追いついた。
「みーちゃんもてつだうの!」
そう言ってみーちゃんが水魔法で、はぐれウィーズルを水の檻に閉じ込めた。
はぐれマッチョほどの力がないこいつらには、檻を壊すことは出来ないようだ。
「いまのうちなの!」
「よし、やるぞ! やるぞ。やるぞ・・」
はぐれウィーズルを倒そうと拳を振り上げる・・が。
こっちを見てフルフル震える姿を見ると決心がつかない。
「まっちょもうぃーずるも、おなじまものなの。みんなじゃがいもだとおもうの」
みーちゃんそういう事じゃないんだ。
俺は可愛い動物が好きだ。
猫や犬はもちろん、ハトやフクロウといったものも好きだ。
ちょっと前までのつらかった時期には、ペットの動画を見て癒されていた。
そしてこの猫サイズのイタチも可愛い。
葛藤しすぎて血の涙が出そうだ。




