第十五話 我が家のダンジョンへ再び
今日も仕事の休憩中に書きました。
眠くて何度か舟をこいでます。
「よろしければお名前を伺ってもいいですか?」
カイザーナックルの支払いを済ませたあと、そう聞かれた。
「本城 豊です。『ファースト』で主に活動しています」
「私は柳 慎之介と申します。ちなみに祖父は義一郎といいます。本城さんの事は祖父が帰ってきたら伝えておきます」
「もし会うことがあったら、話に花が咲きそうだ。主にロマン武器の事で」
「きっと気が合いますよ。カイザーナックルを気に入ってくれたんですから」
カイザーナックルが壊れなくても、たまにはここに来てもいいかもしれない。
それともミスリルを持ち込んでじいさんに何か造ってもらうのも面白いかな。
いずれにせよじいさんには会いたいものだ。
「じゃあ、今日はこれで」
「はい、お買い上げありがとうございました」
再び暖簾をくぐって店を後にした。
とりあえず昼食を食べてから、さっそく我が家のダンジョンに潜ってカイザーナックルの性能評価を。
そしてついでに先の階層にも進んでみよう。何故はぐれマッチョしか出ないのか気にもなる。
いや、そもそもはぐれマッチョが出るのがおかしいんだ。
レアモンスターはその深度のボスに似たモンスターが現れる。
そして、ボスはすべてのダンジョンで同じ外見をした者はいない。
つまりはぐれマッチョは『ファースト』の地下1~5階までにしか現れないはずなのだ。
「うちのダンジョンは『ファースト』に何か関係のあるダンジョンだってことか‥?」
今までそんな関連性を持ったダンジョンなんて、聞いたことがなかった。
もしかすると俺のように、誕生したダンジョンの事を秘密にしている奴がいるのかもしれない。
推測の域を出ない。だからこその調査が必要だ。
関連があるのならシロタイツ・マッチョがいた地下5階、そこに何かあると思う。
ワクワクが止まらんな。
家に戻ってきた。
昼は焼き肉のランチバイキングに行ってきた。満腹です。
車を車庫に入れて、装備品を持って地下倉庫に向かう。
ちょうどいいので、倉庫の棚に大量にもらったポーションを並べておく。
合計31個。一つ五万円くらいするものを、ご祝儀だとこんなにたくさんくれた。
そのうち3つはキャリーカートに載せておく。回復手段はこれだけなので、忘れるわけにはいかない。
装備品を身に着け、いざダンジョンに突入だ。
ダンジョンに入ってしばらくして違和感を感じた。
マッピングをしながら進んでいるが、その作業がはかどっている。
つまり魔物、はぐれマッチョが全く現れない。
奴らが出てこないのなら、ここはただのミスリルだらけの洞窟でしかない。
「前回倒しすぎたからなのか?」
魔物なんて本来いくらでも湧いてくるものだ。もし逃げているにしても気配が全くない。
とにかく進んでいこう。進めばわかるかもしれん。
二時間後。
「まったく居ねぇ。どうなってる・・?」
マッピングしながら下り階段を探し、今は地下4階まで来たが・・
何もいない。アリ一匹すらいない。オレサミシイ。
これじゃただのウォークラリーだぞ。
さすがに緊張感がなくなる。本来ダンジョンで緊張感をなくすなんて危険な事だが、その危険がやってこないんだもの。
セーフエリアではないがちょっと一休みをしよう。現状はどこでもセーフエリアのようなものだし。
ペットボトルのお茶と、おやつに持ってきた豆大福を食う。頭を回すためにも甘いものは大事だ。
魔物が出なくてはカイザーナックルの出番もない。今のままでは腕に着けてる重りに過ぎない。
とりあえず地下5階までは行ってみる。ボス部屋があるかもしれないし、確認だけはしときたい。
もしそこにも何もなかったら、今日の探索は打ち切りだ。野営道具も用意していないから。
十分ほど休んで探索を再開する。
変わらず無人のダンジョンを進み続けていく。
こういう時話し相手もいないのはしんどい。
仕方ない。本来はご法度だがスマホを取り出し、音楽を流し始める。
通常こんなことをしては魔物を引き寄せることになってしまうが、今はむしろ来てほしいくらいだ。万一のことがあっても、他の冒険者はいないので迷惑も掛からない。
お気に入りの音楽を聴きながらマッピングを再開し、十分ほど後。
下層への階段を発見した。
後は地下5階でボス部屋を見つけるか、階段を見つけるかしたら撤収だ。
そう思いながら階段を下りていく。
そしてその思いは裏切られた。
階段を下りきった先は、体育館ほどの広さのドーム型の部屋だった。
さらにその中央には天蓋付きのベッドが鎮座している。
ピンク色のフリルのたくさんついた可愛らしいベッド。
ダンジョン内なのにそんなものがある。しばし呆けてしまった。
とりあえず近寄って確認しないと‥
あの可愛いベッドからシロタイツ・マッチョが出てきたらどうしよう。




