第十一話 夢は現実に
仕事の休憩時間にスマホで書きましたが、ぜんぜんはかどらない。
やっぱりキーボードのほうがいい。
シロタイツとの戦闘から20分ほどたった。
みんなからの祝福の言葉や、飲みきれないほど大量のポーションをご祝儀にもらった。
おかげで傷はすべて塞がり、しばらく休んだので体力も戻ってきた。
「ゆーさん。これ」
レンが座り込んでいる俺に何かを持ってきた。
見慣れた刃と、見慣れないブーツだ。
「ここのボスが装備品をドロップするなんて初めて聞きましたよ」
「俺もだ」
刃は当然俺の愛刀だ。俺はまた武器を失ってしまった。
そしてブーツの方はシロタイツの消滅時に現れたので、ドロップアイテムで間違いないだろう。
装備品は装備することで、ステータスウインドウで性能を確認できる。後で見てみよう。
周囲のみんなも興味があるみたいだが、今はそれよりもやるべきことがある。
「そろそろ出発しよう。ポータルを開放して地上に戻るぞ」
「今日はこれから祝勝会ですね。みんな! 今日は僕の奢りだから、参加できる人はじゃんじゃん飲んでくれ!」
百人近いのに景気のいいことだ。
てか、この人数入れる居酒屋があるのかな?
とりあえずレンの言葉にみんな地下6階のポータルに向かって歩き出した。
俺以外はここをクリアしている連中だ。迷いなく進んでいく。
俺とレンは集団の一番後ろについて下に降りる階段に向かう。
ふと、後ろを振り返る。
何もないボス部屋。その中央で、
シロタイツ・マッチョがこちらにサムズアップしてた気がした。
俺はそのまま階段の方に向き直り、右手を挙げてそれに答えた。
ポータルを抜けるとちゃんと地下一階だった。
初めて使うものだからドキドキしたが、問題などなかった。
すぐそばに地上への階段があり、外の太陽光が入り込んでいる。
ポータルを抜けた冒険者達は、次々に階段を上り外に出て行っている。
道行く人は驚いてるかもしれない。
これだけの数の冒険者が一斉にダンジョンから出てくる光景は、そうそう見れないだろう。
俺も階段を上りゲートを抜けた。
元木さんが笑顔で出迎えてくれる。
「ただいま、元木さん」
「おかえりなさい。約束を守ってくれたね」
「ちょっとヤバかったですが、なんとか」
「結果的に五体満足なのだから、いいんだよ。それにこんなに沢山の冒険者達が笑顔で出て来てくれて、今日はとても良い日だ」
確かに前を進んでいた冒険者達は、笑顔で元木さんに挨拶していた。
ダンジョンから出てくる冒険者は大体疲れた表情をしているものだ。
笑顔で出てくるのはレアアイテムなどを手に入れた奴らか、ボスを倒した奴らくらいだ。
俺も今まではきっとそんな顔をしてただろう。
これからは笑顔で挨拶を心がけよう。
みんなとりあえず『桜木亭』に入っていく。
冒険者達は興奮しているのか、中が騒がしい。
とりあえず俺とレンも中に入る。
「さあ、我らの英雄の登場だ!」
中に入った途端腕をひっぱられ、エントランスの中央に連れてこられる。
何故か桜木亭の職員達や、一般のお客さん達も遠巻きにあつまっている。
俺の腕を取った男、パーティ『尾久橋五中』のリーダーの木下 龍二が聴衆に俺を紹介するように、後ろから俺の両肩に手を置き、前に突き出す。
この人は身長190cmくらいあり、熊みたいにデカい。
俺より年上のベテランで、レン達同様最前線の攻略勢だ。
「龍二さん、痛いって」
「おお、すまん。力が入りすぎた」
そう言って力を抜くが、両肩からは掴んだままだ。
「さっき話したとおりこの本城 豊が、地下5階のボスをソロで倒すという偉業をやってのけた。何年かかっても諦めずに成し遂げた彼は、まさに漢の中の漢だ」
「恥ずかしい・・」
あまりの羞恥プレイに、思わず俯いて両手で顔を隠す。
「さあ豊も挨拶せんか」
「これ以上の辱めを!?」
神はしんだ。
仏だって死んでるかもしれない。
どっちも俺を助けてくれないんだもの。
「え、えーと、只今ご紹介に預かりました本城です」
「豊、何でそんなにカチコチなんだ?」
アンタのせいだよ!
人前に出て『俺が英雄の本城でーす』なんて、どんな神経してれば言えるんだ・・
レンの方を見ると、気の毒そうな顔をしている。
自分が同じ事されたら、そら恐ろしいだろうもんよ。
それでも場を収めるには何か話すしかない。
「龍二さんの言ったとおり、ソロでのボス討伐に成功しました。けど、かなりの紙一重でした。ポーションを使い切り、武器も失い、素手での殴り合いになり、いつ倒れてもおかしくない状況でした」
みんなが、固唾をのんで聞いてくれる。
俺はあの戦いを思い出しながら、みんなに伝えたい事を話す。
「そんな俺を支えてくれたのは、戦いの前にここにいる多くの冒険者達からもらった応援と想いや、元木さんとの約束。一度は冒険者を引退する事も考えましたが、やはり冒険者でありたいという想い。そのどれもが俺を奮い立たせてくれました」
走馬燈のように脳裏に浮かぶこの14年。
知らず知らず沢山の仲間に応援してもらいながら、ここまで来れた。
冒険者生活はこれからも続くが、ここは大きな到達点だ。
だからこれだけは言いたい。
「この勝利は俺だけでなく、夢を見た冒険者達すべての勝利だ!」




