1.島の探索
「現状を嘆いても仕方ありませんわ、まずは今できる事をしないと」
島流し後の悪役令嬢に憑依するという御クソみたいな展開になっておりますが、それにグチグチと言っていてはこの無人島で生きては生けませんわ。
お父様の金言その一、悩む暇があるならとにかく行動!!
そのおかげでお父様は見事お母様のハートを射止める事が出来たのですわ!!
つまりわたくしも何かしなければ……とりあえずは、この島の把握をしなければいけませんわ。
飲み水や食料、それに寝床の確保をしなければいけませんわ。
……出来れば自生している御ハーブがあると嬉しいですわね。わたくし、御ハーブティーを毎日飲むのが日課になっておりますから。
まあ、そんな贅沢を言ってる暇は無いとは思いますけれども。
とりあえず、少し考えただけでも色々とやるべき事が有りますわ。
「さて、まずは……」
後ろを振り向けば、無人島の全容が視界の中に入りますわ。
面積は学校の校庭ぐらいの大きさぐらいで、平地型。
それでちょっとした熱帯系の植物が生えてるだけの林……。
飲み水や食料らしき物がこの島に無さそうな気がしますわね、これ。
そしてわたくしは、ある真実に気が付きましたわ。
「わたくし、そういえばサバイバルの心得なんて持って有りませんでしたわ」
今なら、無人島に物を一つだけ持ち込めるなら何を持っていくと訊かれましたら、こう答えるでしょう。
サバイバル教本、くださいですわ……。
◇
とりあえず服を脱ぎましたわ。
ぶっちゃけ、あっついですわ!! 気温、何度ですのここ!?
よく、無人島で薄着は毒虫などに刺されて危険だとか、直射日光で日焼けが酷くなるとか訊きますが、その前に熱中症とかで倒れてしまったら元も子もありませんわよ。
それにブラとショーツだけのあられもない姿になっておりますが、誰かに見られるわけでもありませんし。
まあ、もしもこんな姿を誰かに見られでもしたら、それは新たな島流し仲間が来たという事ですわね。
……だとしたら、性格がまともな様子で年の近い女性が来てくださいますと、嬉しいですわね。たぶん、ソシャゲの御クソガチャ並に低い確率だとは思いますが。
脱いだ服を折り畳んで、わたくしは立ち上がる。
この島を一周してみようと思いますわ。何か見つかると良いですわね。
◇
「セ、セメタリー……」
島をぐるっと一周して何も見つける事ができなかった私は、ならば島の中心、つまり林の中を見てみようと足を踏み入れたのですが。
たぶん島の中心部ですわね、そこにポツンとボロボロの西洋式の墓石がありましたわ。
えっ、なにこのホラーポイントの高い光景は。
薄暗い林の中、風化したのか刻まれた文字が読み取れない墓石。
恐る恐る近づいてみますと、どんどん空気が重くなっているような気がしますわ。
「……触らぬ神に祟りなし、ですわ」
Uターンです。戦略的撤退です。下手に関わって痛い目を見るのはホラー映画名物のパリピウェーイ系か乙女ゲームの悪役令嬢だけで充分ですわ。
足早に浜辺までたどり着いた私は、夕焼けに変わった空を見て胸をなでおろす。どうやら祟られるフラグを踏まないで済みましたわ。
それはそうと、お腹がすきましたわ。それに喉も乾いてきましたし……目を覚ましてから何も口にしていませんわ……。
ただ、なんでしょうか。一日中歩き詰めなのと慣れない環境のせいでしょうか。
凄い、眠いですわ。というより、あら? 視界が歪んで―――。
◇
やっと、人が来てくれた。
これで始められる、身勝手に押し付けるけど上手くやってね。
じゃないと彼女達が余りにも不憫で哀れになるから。
だから頑張ってね、名も知らない人。
◇
「はっ、意識失ってましたわ……青空が見える、朝ですわー」
慌てて起きますと、どうやら朝のようですわ。
つまり、まる一日眠っていたと。わたくし無防備すぎですわ……。
まあ過ぎた事は考えないようにしましょう。
さて、ではどうしましょうか。昨日の探索で浜辺には何も無い事は確認しましたので、やはり林の中の探索でしょうか。いい加減、食料とか水とか見つけないとわたくし死んでしまいますわ。
でも、気乗りしないですわー。ホラースポットが有りましたし、林の中に入りたくないですわー。
「こんな時にじいやが居てくれましたら、何とかなりそうですのに。
はぁ、じいやの淹れてくれる御ハーブティーが恋しいですわ」
わたくしが幼い頃から従えてくれる優しい執事。
それにお父様やお母様、わたくしと青春を共にする友達に会えないと思いますと無性に悲しい気持ちになってしまいますわ。
でも、泣きません。
お父様の金言その二、どんな時も気持ちだけは前に進め!!
後ろ向きな気持ちになっては、どんどん思考が負のスパイラルに陥りますわ。
だから、わたくしは前向きに生き残る事を考えますわ。もしかしたら、いつかお父様達に再開できるかもしれませんもの。
そうと決まれば、気乗りはしませんが再び林の中に入ってみましょう。
そうすれば海原からこちらに向けて進んで来る小船を見つける事が出来たように、何か見つける事が出来るかもしれないですからね。
………ふぁっ!?
小船が来てます生き残れるチャンス到来かもですわ!?
エクスキューズミーですわー!! 小船の方ー!! 助けてくださーい!!
食料と水ありますかー!! 御ハーブティーありますかー!!
なお、助けを求めるのに必死になって本人は今があられもない姿になっている事を失念している模様。