歯車
ちょっとした違和感が始まりだったような気がする。
いつもの日常が少しズレるような、そんな感覚。何事もなく進む社会生活。寝て起きて仕事に行って疲れて帰って寝る。噛み続けたガムのように味もなく、唯惰性で続いていくだけの日々。休みの日には趣味の釣りに興じ、休みの終わりを悟って日々を呪う。あぁ、釣りばっかりができるこんな毎日が続けばいいのにと幾度思ったことか。思うだけだったか。
いつも通り寝て起きて、仕事に行く準備をする。カバンを持って家を出て駅に向かういつもの光景。無味乾燥な毎日、だった。
「なんで、駅がないの……」
いつも通りそこにあるはずの最寄駅がなかった。いや、意味がわからなかった。周りを見渡してもさも当然のように歩いている人々。なんで誰も不思議に思ってないんだ。おかしい、確実におかしい筈なのに。独り世界に置き去りにされている様な焦燥感にかられる。自分がおかしいのか、はたまた周りがおかしいのか皆目見当も付かない。近くの同じ様なスーツを着た男性に堪らず声をかける。
「突然すいません。ここに京都に向かう湖西線の駅があった筈なのですがご存知ではないでしょうか?」
「湖西線?いえ、知りませんが。駅でしたら地下にあるのが常識だと思うのですが……」
「すみません、有難うございます。ここは日本で間違いないですよね?自分が知ってる日本とは微妙に異なる様なのですが。」
スーツの男性が少し考えてハッとした顔をするのが見えた。
「もしかしてですが、貴方は漂流者の方ではないでしょうか?」
「漂流者とは…何の事を指すのでしょうか?」
「時々なのですが少し異なった世界より来られた人を指す言葉なのですが、ご存知ありませんか?」
「いえ、聞いた事も無いですね。」
「2000年に恐怖の大王が北極に落ちたことはご存知ですか?」
「いえ、それも聞いた事がありません。恐怖の大王は騒がれていただけで何も着なかったじゃ無いですか。」
ボタンを掛け違えた様な問答が続き、違和感は次第に大きくなるばかりだ。その男性は答えを得た様に頷くと言った。
「間違いなく漂流者の方の様だ。ついって来てください。最寄の交番まで一緒に行って事情を説明しましょう。」
そう言うとスーツの男性は歩きだし交番まで連れて行ってくれた。そこからはスムーズにことは進んだが時間を大きく消費した。交番での説明から始まり場所を変え警察署での説明。そうするとスーツを着た駅前で親切にしてくれたあの男性が来た。言われるがままに着いて行き、物々しい車に乗り、着いたのは
「市役所?」