02 体の限界
ラーシの内部では現在、壮絶な戦いが繰り広げられていた。本来ならば、野生化した魔族が暴れ、ラーシの魔核を破壊し、死ぬのだが、母からもらったネックレスの5つの宝石、上位妖精5体の力でラーシの魔核が破壊されていない。だが、共食い、融合で力を増してきた魔族は、上位魔族まで上がっていた。上位妖精達は最後の力で、自身の魔核をシールドに変えて、ラーシの魔核を覆った……。
ラーシの魔核に亀裂が入っていた。ラーシは血を吐いて、息が苦しい。血が喉に詰まり、吐いては体力を回復しを繰り返し、大量の血が地面に流れ落ちていた。
ラーシ内部の魔族達は野生化から徐々に意識を取り戻し、数名の魔物が上位魔族になっていた。知能も発達し、そしてラーシが死ねば、自分達も死ぬ運命なのが分かっていた。
この頃には村人全員がフェンリルロードとの戦いに望み、噛み殺され、食べられていた。棟梁はこれを予想していた、統率者、つまり上位魔族がいない集団では全滅する事を……。
棟梁は最後に、自分の紋章を子供の額に当て、レベルを上げた。最後の力を振り絞り、フェンリルロードに決戦をする為と、子供の中にいる仲間に全員が死亡した事を知らせる為に……。
ラーシ内で野生化した棟梁を、上位魔族達が押さえ付ける。徐々に意識を取り戻した棟梁から、村人の全員が死んだ事を、知る事になった。
時間は無い。魔核が真っ二つになれば、自分達も死ぬ事になる。
「この子は、もう限界に近いぞ。血が止まらない」
「この子に全てを預けよう。この子が地上に出られる事を祈って……」
決断は早かった。
キング達と棟梁が融合、統率魔族になり、子供の魔核に吸い込まれていった。
亀裂は元に戻り、ラーシはハイバンパイアロードになった。
名前 ラーシ・カトレ・オーツ
種族 ハイバンパイアロード『亜種』
LV 3
体力 38693468
魔力 95739126
筋力 2424168
防御力 37529191
俊敏性 3928599
魔法攻撃 4309880
魔法防御 8357276
スキル
魔力回復MAX、自動治癒MAX、血属性MAX、超音波属性MAX、鑑定MAX、転移属性MAX、隠密属性MAX、空間属性MAX、時間属性MAX
ラーシは気絶していた。出血が酷く、自動治癒だけでは助からない状態だ。
だが、ラーシはハイバンパイアロードになった事で、自動治癒の回復速度が上がり、呼吸も穏やかになって行った。
気が付いたラーシは、自分のステータスに驚いた、しかも亜種だ。だがこれから進化するのだ。ハイバンパイアロードが一番最上級のバンパイアだが、それ以上があるとは思えない。
ラーシは夢の中で、棟梁の思いを聞いていた。又、最下層の村人全員のスキルの情報も、魔核に刻まれた。
これから、どうする?
母様に会うためには、地上に出るしかない。が、大分様変わりしてしまった。母様に会っても僕だとは思わないだろう。手の甲には黄金の王冠紋章が刻印されている。王冠にコウモリが2匹、止まっている紋章だ。そしてラーシの目は赤く、牙が長く、髪が白色になってしまった。又、背が伸びて大人になってしまったようだ。視界が全然違う。
まずは棟梁の願いであるロードと戦い、上層階へ行く事にした。
村人の泥の足跡が残っていて跡を追い、そこにロードはいた。
村人は誰一人、立っている者はいなかった。一番良さそうな剣を拾い上げ、フェンリルロードと向き合う。フェンリルロードはラーシの10倍は大きい、額に1本長い角があり、足の爪も長く、爪に血が付いている事から攻撃手段の1つと分かる。
フェンリルロードとの闘いは……激闘とはいかなかった。
ハイバンパイアロードのラーシにとってフェンリルロードは敵ではなかった。
フェンリルロードの爪の攻撃と口から炎を放射する攻撃が厄介だったが、『隠密』で背後を取るのは簡単だ。まず剣で後ろ足の腱を切り割いて、動けなくした。
「ぐお~~~~~~」
そしてとどめは、超音波攻撃でフェンリルロードの頭をっ吹っ飛ばした……それだけだった。少しレベルが上がったようだ。
なぜだか、静寂が好きになり、断末魔とか悲鳴とかが苦手らしいのだ。五月蠅い音に敏感になり、すぐ殺したくなるのは仕方がない事なのだろうか? それがハイバンパイアロードになった代償なのか。
とりあえず、フェンリルロードを食した。血がうまい。残った肉と血は空間収納ボックスに入れておいた。空間収納ボックスは空間属性のスキルであり、空間から物の出し入れが出来る便利スキルだ。
フェンリルロードを倒すとその場に扉が現れた。これが、15階層への扉だった。15階層に行くと、15階層よりはましなようだ。コウモリを飛ばして、辺りを偵察した結果。掘建て小屋があり、家の隣脇には何かを植えている小さな畑があり、家も密集しておらず、孤立しているのが分かった。
下の土は泥ではないが、湿った土で歩きにくい。
ここは、どうしようか? 情報がほしい。
一番近くの家の扉をドンドンと鳴らす。家の人が僕を見た途端、扉を閉めた。ゴブリンのようだった。
この容姿が悪いのか? 知らない魔族を遠ざける種族なのか?
う~ん。上空に2匹のコウモリ飛ばし、町か都市があれば行ってみたいのだが。
分かったのは、この層は魔族が非常に少ないと言う事だ。又、この層のロードの場所が分かった。
オークロードのようだ。
何も情報が手に入りそうもないので、オークロードと戦い14階層に行く決心をした。
オークロードは14階層の平原の中央にはいた。僕を見つけると、がむしゃらに突っ込んで来た。
「グワーーーー」
オークロードは棍棒をめちゃくちゃに振りまくり、迫って来た。
『隠密』でフェンリルロードのように、後ろに回り込み、剣で足の腱を切り裂いた。
「ぎゃ~~~~~」
そして止めは、超音波攻撃でオークロードの頭をっ吹っ飛ばした。
今はこの戦い方しか出来ない。情報があっても実践で使えるか分からないのだ。
んっ!! オークロードは自動回復スキルがあるようだ、頭が再生されてきている。もこもこと筋肉が膨れ上がり元の頭に戻って行く様子が分かる。
どうすれば……。自動回復があるのであれば、魔核があるはずだ。だがどこに魔核があるのか分からない。がむしゃらにオークロードの体を剣で刺して行った。
「ぎゃ~~~~~、ぎゃ~~~~~、ぎゃ~~~~~」
何度も、剣で体を刺した。『カキ――ン』。
何かに剣がぶつかったぞ。ここだ、渾身の力を振り絞り、剣を突き刺した。
「バリ」
「グワーーーーー……」
オークロードは動かなくなり、ズドーンと仰向けに倒れた。
オークロードの魔核は鳩尾の上あたりにあった。知識があるのとないのでは雲泥の差があるぞ。
はっきり言って、フェンリルロードと同じで、直ぐ死んでしまった為、強いのか弱いのか分からない。
次の階層にスキルの情報があるか期待しよう。スキルの情報は分かっても使い方が全然分からないのだ。本はないのか? 情報がほしい。そして、本から基礎を学び、訓練をしないと1階層に辿り着けないと、思った。
14階層で、又、2匹のコウモリを使い、空に飛ばした。今度は10家程の集落を発見した。
村まで来てみたが、僕を見た途端、みんな家に逃げ込んでしまった。
集落の脇のは畑があり、そこで食べ物を収穫しているみたいだ。家自体は16階層と同じで、泥と枯れ木を混ぜ込み作られていた。
僕の何が悪いのか、さっぱり分からなかった。
また、2匹のコウモリを使い、空に飛ばした。
次に見つけた村は子供に変身して、村に入ってみた。
黒のズボンに黒のワイシャツ、黒のマントの恰好だ。
おっ!! 今度は大丈夫そうだぞ。ちらっとこちらを見るが、何事もなく仕事に励んでいる。
「あのう、道に迷ってしまったんですが。ここって何階層なんですか?」
ドワーフの女性に聞いてみた。
「おかしな事を聞く子供だね。ここは、14階層だよ」
そして分かった事は、ロードはその階層の中心に、いる事を教えてもらった。
一番強いロードはフェンリルロードだと言っていた。
あれが、一番強いロードか。
各階層を旅しながら、地上を目指すか。即ロードを倒して、地上を目指すか。
今は母様に直ぐに会いたいとは思っていない。また崖から突き落とされる事になるからだ。
レベル上げに専念しようと決心した。