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脳筋乙女の異世界花道(改訂版)  作者: 藤沢正文
第1章 命短し走れよ乙女 〜己の拳で切り開け〜
8/22

元就活生、異世界に馴染み始める。



「まいどー」


 なんとかピンチを切り抜けた私は意気揚々と店を後にした。先程のお兄さんと取り巻きも私に続くように店から出てくる。


「なんでこんな事に……」

「兄貴ぃ……元気出して下さい」


 お兄さんは自分の財布であろう皮袋の中を眺めながら意気消沈している。


「どんだけ食ったらあの店で銀貨一枚になるんだよ……」

「えーとッなー。スープが3杯に黒いパンが5つ、あと肉を焼いたやつが3つやったかなー」

「「どんだけ食うんだよ……」」


 私の説明に二人はほぼ同時に溜息を吐いた。

 そんなに食べた覚えはないけど、確かに2回目の追加注文の時は店員(おばちゃん)も苦笑いしてた気がする。


「あ、そうや!」


 私が不意に声を上げると、二人はビクッと反応した。そして『まだ何かするつもりか?』と訝しげに私を見つめる。


「服屋さん知ってる? そんな高くないとこ」

「し、知ってはいるけどな」

「そんじゃ、連れてってッ!」


 詳しい事は話さす、私は再び二人に微笑んだ。



 ***



 お兄さんに連れてきてもらったお店で、私はすぐに店主に相談を始めた。勿論、彼らには店の前で待っているようにお願いしてある。


「おっちゃん。この服いくらぐらいになるー?」

「ふむ。見た所、上等な布を使った服ですな」

「当たり前やんッ! 私の大事な一張羅やからな!」


 店主(おっちゃん)の話に私は胸を張ってそう述べた。店主は先程からジロジロと服の至る所を観察している。


「……これなら、金貨2枚……いや3枚でどうかな?」

「ん〜私はあんま詳しないけど、もうちょっと高くならんかな?」

「これ以上は出せない」


 きっぱりとそう述べる店主に、私は嘆息し踵を返す。


「ほんじゃ、別の店で見てもらうわ」

「ちょ…それじゃあ、金貨4枚でどうじゃ!」

「毎度あり〜」


 慌てふためく店主の反応に私はにっこりと微笑む。値段交渉は関西人(わたしたち)十八番(おはこ)なのだ。


 なぜ一張羅(スーツ)を売ろうとしてるかというと、コレが目立ち過ぎる事とお金が必要だからだ。

 お兄さん達と歩いてる時もそうだったが、通行人に物凄く見られる。理由は明解で、真っ黒の衣服は葬儀の時に着る喪服だけらしく悪目立ちしていたらしい。

 更に言えば、取り巻きに『上等な服』と言われた事を思い出し、結構いい値段で売れるんじゃないかと考えたのだ。

 売れたお金でここに馴染む服を買って。ここが何処か調べて回ろうという寸法だ!


「かわりに新しい服を見繕って欲しいんやけど」

「それじゃったら、このエプロンドレスなどはどうじゃ?」


 そう言って、選んでくれたのがいかにも町娘っという感じの、ブラウンのワンピースに前掛けが縫い付けられた服だった。


「じゃあそれと、『短パン』とかある? 丈が短いズボンやねんけど…」

「半ズボンのことかい?」


 店主は何の為にと疑問に思っている様だったが、ちゃんと短パンを見繕ってくれた。


(普段スカート履かんから、パンチラ防止の為やねん…)


 その他にも革靴とビジネスバックの代わりに、こっちの革靴とショルダータイプの鞄を買った。


 結局、一張羅(スーツ)の他にも靴とシャツと鞄を買い取って貰ったので、買い取り金額はしめて金貨7枚になった。

 そこから、エプロンドレスとズボン、革靴、鞄や下着などの代金を差し引いて、金貨6枚と銀貨2枚が手元に残った。

 ヘアゴムの代わりの麻紐はサービスしてくれた。


「おまたー」


 店から出ると、チンピラ達は健気に私の事を待っていてくれていた。


「一体どれだけ……お前、さっきの服は?」

「売った。それでコレ(こお)た」


 彼らに買った服を見せびらかすように、私はその場でクルリと回って見せた。

 エプロンドレスのスカートがふわっと少しめくれて中が見えたが短パンを履いていたのでセーフだろう。それを見た取り巻きが物凄く残念そうな顔をしたので少し睨んでおいた。


「あとコレ」


 一通り買ったものを見せびらかした後、私はお兄さんの手を無理やり掴みその中に銀貨を一枚入れた。勿論、さっきの飲食代だ。奢って貰ったつもりはない。


「これで貸し借りなしな」

「え? いいのかよ」

「男がグタグタ言うなや」

「「はい!」」


 私が睨みを利かせると、二人は姿勢を正して返事をした。素直にいう事を聞く彼らを見ると後輩達を見ている様で少し微笑ましい。


「あ、そういやアンタらの名前は?」

「お、俺か? 俺はダラムだ」

「俺はヤヌック。兄貴の子分だい」


 体格のいいお兄さんがダラム、チビで小太りで目つきがエロいのがやヌックと言うらしい。


(ウチ)(カオル)や」


 この後どうしようかと考えた。


「そや、ダラム、ヤヌック。次は酒場まで案内してくれへん?」

「「はい?」」


 そう言えばここまで付き合ってくれた彼らへの礼がまだだった事を思い出したのだ。

 しかし、二人は首を傾げて返事をする。どうやら訳がわかっていないようだ。


「付き合ってくれたお礼や。(ウチ)の奢りで死ぬほど飲したるわぁ!」



【買い取り内訳】


リクルートスーツ 金貨4枚

ワイシャツ    金貨1枚 

革靴       金貨1枚

ビジネスバッグ  金貨1枚


エプロンドレス  −銀貨3枚

ズボン      −銀貨1枚

革靴       −銀貨1枚

鞄        −銀貨2枚

下着       −銀貨1枚

麻紐       おまけ


合計 金貨6枚、銀貨2枚



【現在の薫の所持金】


金貨6枚

銀貨1枚


日本円4,327円(使用不可)



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