就活生、ピンチに陥る。
『百戦錬磨』『常勝無敗』とさえ言われた私が今かつてないピンチに陥っていた。た、確かに私の素行は普通の高校生にしては余りよろしくないものだとは自覚はしてる。
そーなんやけど、今の今まで警察のお世話になった事はない。そう、今の今までは、やけど……。
***
「あーやっぱり、外国の文字は読めんわ」
チンピラ達との一戦を終えて、私は先程の人通りが多い通りを歩いていた。腹が減った。ならば、飯を食う。その理由は単純明快だ。
しかし、どれが飯屋さんなのか、この国の文字が読めない私には見当がつかない。現物を見て決めようにも出店の店先にあるのは食材や雑貨ばかりで調理された食べ物は売られてなかった。
(ん?)
何やら私の鼻腔を刺激する、美味しそうな香りが漂ってきた。『この匂いを辿っていけば、飯に有り付ける。』直感でそう確信した私は、匂いがする方へとフラフラと歩いって行った。
しばらく歩いて到着した店の中からは先ほどの美味しそうな匂いが漂ってきている。店内を覗くと数人の客が美味しそうに料理を食べる姿が確認できた。
「いらっしゃい!」
恰幅の良い優しそうな女性店員が店を覗く私に気がつき、店の中から顔を出してくれた。
(よしッここで飯にするか!)
そう決めた店の中に入り空いている席に座り、店員にオススメの料理を注文したのだった。そして、比較的空いている時間だったのか注文した料理はすぐに運ばれてきた。
「はぁー。食った食ったー」
美味しいものをお腹いっぱいに食べれることは幸せだ。何か重要な事を忘れてる気がするけど、忘れるくらいの事だ。そんなに重要な事じゃなかったんだろう。
私は幸福の余韻に浸りながら、コップに注がれた水を飲んだ。
「おばちゃーん! おあいそー」
私は先程の従業員を呼び、お会計をお願いした。呼ばれた店員は一瞬何の事か理解出来ていなかったみたいだけど、『お会計だね』と金額を確認するため一旦カウンターへと戻っていた。
「これで足りる?」
そして、いそいそとやって来た彼女に私は財布から千円札を二枚取り出し、手渡した。すると愛想良く微笑んでいた店員の表情がみるみる曇って行く。
「なんだいこれは? お会計は銀貨一枚だよ」
「へ?」
一瞬、訳が分からず思考が停止した。
(は? 銀貨一枚?)
確かに私は結構な量を食べたと思う。けど、ファミレスでこれくらい食べたとしても、せいぜい二千円程度だろう。
あ、もしかすると足りなかったのかもしれない。そう思った私は財布からもう千円取り出して店員に手渡した。
「これで足りるかな?」
「だから、なんだいこの紙切れは? お代は銀貨一枚だよ。別に銅貨しか持ってないなら、それで払ってもらってもいいよ」
千円が紙切れ?
この店員は何を言ってるのだろう。みんなが知ってるパーマのおっちゃんが描かれた千円札。コンビニでも使えるし、自販機でも使える。日本中のどこでも……あッ!
…………。
私はようやく重大な事に気がついた。
「ごめん、おばちゃん。私、この国のお金……持ってないわ」
ここが外国だった事をすっかり忘れていた。
「え? あんた銀貨も銅貨も持って無いのかい!?」
「……うん。日本のお金しか持ってない……」
そう。私は生まれて初めて、無銭飲食してしまったのだ。
【お会計内訳】
スープ 銅貨1枚 ×3
黒パン 黒貨2枚 ×5
肉のグリル 銅貨2枚 ×3
合計 銀貨一枚(銅貨10枚)