就活生、キレる。
「かおるちゃんってバカだよねー」
「お前アホちゃうの?」
「バカに馬鹿って言って何があかんねん」
「どのツラ下げて来とんや、アホか?」
「体力バカにはお似合いじゃん」
「アホがアホの顔して来よったで」
…………ッ!
『馬鹿』と言われた事で、不意に今まで私の事を馬鹿にしてきた奴らの顔と言葉が頭に過った。
(どいつもこいつもどいつもこいつもどいつもこいつも)
一つ一つ思い出すに連れて、私の怒りのボルテージも上昇していく。
(アホバカアホバカアホって言いよってッ!)
今日は面接だという事で色々と我慢していた事もあり、私の怒りはすぐに頂点に達した。
「私はそんなアホちゃうわぁーーーッ!」
私は我を忘れて叫んだ。すると同時に就活用にポニーテールに括っていたヘアゴムが切れ、髪がサラサラと解けていく。
長い黒髪の間からは面接でバレないように隠していた赤色のメッシュが現れる。
「あ? なんだ? やるってのか。女だからって手加げ……」
スイッチが入ってしまった私は何もかも関係ない。お兄さんが構えをとったのを確認した瞬間、私は間髪入れず踏み込み、左顎に掌底をいれる。
寸止めなんて生ぬるい事はしない。もちろん掌底が顎にクリーンヒットした彼は膝から崩れ落ちた。
「あ、兄貴!?」
一瞬の出来事に取り巻きの男は何が起こったか理解できず、私とお兄さんを交互に確認する。そして取り巻きはお兄さんに駆け寄り、意識がない事を確認すると私へと振り返った。
数秒遅れて、ようやく私が倒した事を理解し取り巻きは逆上した。
「調子にの……」
取り巻きが私に敵意を向けた瞬間、私は回し蹴りを繰り出した。敵意を向けただけの取り巻きは、奇襲にも近い一撃を防御も出来ず顔面で受ける事となった。勿論それはクリーンヒットし、話半ばで彼もまた昏倒する。
「もう少し骨があると思ったんやけどなー」
私は首や肩を回しながら、倒れた二人に目線を移す。
死んではいない。
多少手加減もしたし、脳震盪を起こして気絶しているだけだろう。まあ数分もすれば起き上がれる。
「ったく。無駄にきぃ使ったやんけ。面接ちゃうんやったら、最初から言えやボケ」
私は予備に持っていたヘアゴムで解けた髪を纏めながら、誰に聞かせるでもない愚痴をひたすら呟いた。
ゴゥーー〜〜ッ。
突然、地響きのような音が路地裏に響く。勿論、音の正体はわかっている。……私の腹の虫だ。
「ちょっと運動したら、腹減ったな。よしッ取り敢えず飯でも食うか」
『腹が減っては戦は出来ぬ』、先人の教えはちゃんと理にかなっているのだ。戦は終えた後だが細かい事は気にしない!
私は振り返り元来た道に戻るように、路地裏を後にした。
【今回の撃破した敵】
チンピラ(中) Lv.3
チンピラ(小) Lv.1