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森と海の王国 (雨蛙は苔の中へ)  作者: 森野うぐいす
第三章 ≪西域の王国≫
39/52

夜空と孤独

その遺跡は階段状になっていた。地下の底まで真っ直ぐに下る階段ではなく、らせん状の階段でもなかった。


階段は()()()()()で、ある程度下ると一つの階層があり、階段は今度は逆向きに下るようになっている。


そして下っていくと踊り場があり、そこで再び逆向きに下るようになっていた。下るとまた一つの階層があった。


それぞれの階層にはいくつかの扉があり中には部屋があるようであった。そのそれぞれ部屋で古代の人々は暮らしていたのかもしれない。


ただ、このような()()()()()様式の建築はこの時代には珍しいものであった。



階段をある程度下ると、その()()があった。それは空間の割れ目であった。


「ああ、これだろう。あの王が言っていた何かってのは。」


シロはその割れ目に触れると、その中に吸い込まれていった。クロも慌てて割れ目に触れ、シロに続いた。


割れ目の中は異空間となっていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「これは。」クロがつぶやいた。


「これは、余が君たちと出会った最初の夜の光景だ。」


シロはただ「うむ。」と言った。


これは何だ?これはこの異空間は俺が創ったものか?...それにしては...。


「クロ、これがお前の ' 王の試練 ' なのか?」


「うーん、なんだか ' 試練 ' という感じではないね。むしろこの空間は居心地がいい。不思議とあたたかい気持ちになる......ああ、星ってすごく綺麗なものなんだね。......余は王宮では常にそばに誰かがおった。常にだ。いつも誰かがそばにいた。だが、余はいつも寂しかった。」


「この星空も孤独な感じがするけれどもな。」


「シロ、'寂しい' というのと ' 孤独 ' というのは別物のようだ。」


そしてしかし、そろそろ ' 王の試練 ' の時間は終わりと告げようとしていた。


「ああ、クロ、お前に貸したその衣を返せ。」とシロは言い、空間に指で ' ()()()()()() ' を描いた。


すると、そこに絵筆と絵の具が現れた。


「えっ、この衣、返さなきゃいけないの?」


シロはクロの衣を剥ぎ取ると、絵の具でその布切れの真ん中あたりに『玄界灘』と書いた。


「お前を助ける呪文を書いてやったよ。」


「呪文?」


「はは、冗談だ。異界の言葉で俺の名前を書いた。これは『ゲンカイナダ』と読むのだ。これを見る度に俺を思い出すのだぞ!」とシロは言い、剥ぎ取った衣をまた渡した。


クロが衣を纏うと、ちょうど背中のあたりに『玄界灘』と書かれているのが見えた。


「シロ、もしかして、もうお別れなの?...シロ、余は...僕はもっと君たちと一緒に...。」


一緒に旅したかった。一緒に冒険したかった。一緒に遊びたかった。


クロの体は、みるみるうちに透明になっていく。


「シロ...シロ...いや、ナダよ...ナダよ...ナダよ...嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ!、僕はもっと一緒に......。僕はもっと......。」


クロは必死にあらがおうとしたが、彼の体はどんどん透明になり消えた。


彼は、元の世界に戻ったのかもしれないし、また他の別の世界に転送されたのかもしれない。



シロはまた、ただ「うむ。」とだけ言った。


それにしても、この空間は()()()()()()()()だ。


とシロが思った瞬間、その異空間は崩壊を始めた。


「あ、壊れちゃうの?」とシロはつぶやいたが、その空間はどんどん崩壊し、シロもその崩壊に巻き込まれた。


シロの力であれば、その崩壊を止めることも崩壊から逃れることもできたが、そのどちらもしなかった。彼は無駄に力を使うことあまり好まなかったからである。


ともかく、彼も異空間の崩壊に巻き込まれ、シロもまたどこか異なる世界へと消えていった。


≪登場人物紹介≫

・シロ ・・・ 本当の名をゲンカイ・ナダという。白蛇と呼ばれることがある。

・クロ ・・・ 本当の名をクロ・ト・ジュノーという。ジュノー王国の王子。


・灘よう子 ・・・ 東京で探偵をやっている。

・鴨木紗栄子 ・・・ 灘よう子に仕事を依頼する。

・鴨木邦正 ・・・ 鴨木紗栄子の伯父。植物学者。

・黒戸樹 ・・・ 鴨木紗栄子の夫だった人物。

・蒼井瑠香 ・・・ 医者。


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