表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森と海の王国 (雨蛙は苔の中へ)  作者: 森野うぐいす
第三章 ≪西域の王国≫
38/52

汝自身

「この世界に ' 王の試練 ' の者がやってくることを、わしは待ちかねていた。」


まったく預言というものはあてにならぬ。


「' 西のドラゴン・大蛇ドラクレア ' ももう死んでしまったよ。」と西域の王と呼ばれる老王は言った。


預言ではドラクレアが死ぬ前にクロは来るはずだったのである。


「王様、ドラクレア様はもうお亡くなりに?」


「イチジよ、すべての時を見る者よ、ドラクレアが死んだことを知らぬのか?」


「はい。存じ上げませんでした。」


「そうか、まあドラクレアは人前に出ることを好まなかったからな。知らぬのも致し方のないことなのかもしれぬ。」


「ドラクレア様がいないとなりますと、この ' 王の試練 ' では神託を得ることができませんが。」


「神託なら俺が出してやろうか?」とシロは言った。


老王はシロのことは無視して、


「いや、そもそも、神託などというのは政治の道具でしかない。' 王の試練 ' を受ける者にとっては不要なものだ。」と言いクロを見た。


「お前がクロ・ト・ジュノーか。ジュノー王家の者を見るのも久しぶりだな......。と言ってもずいぶんと古い時代の者のようであるが。」


(いにしえ)のジュノー王家の者よ。わしは先王に『汝自身を知れ』と言われた。しかしこの歳になっても自分自身のことなど分からぬわ。」老王は言った。


「自分自身でございますか?」クロは聞き返した。


「そうだ、自分自身だ。大きくも見えるし、小さくも見える。(まこと)に分からぬな。何故わしはこの世に存在しておるのか。」


なぜ自分はこの世に存在しているのか?クロはそういったことを考えてみたことはなかった。クロは少年であり、哲学的なことに思いをめぐらす程にはまだ精神的に成熟はしていなかったのである。


「ああ、すまぬな。老人の繰り言であるよ。」西域の王はクロをすっと見てそう言った。


クロ・ト・ジュノーは歴史に暗黒王としてその名を残すことになる。もっとも今彼らがいるこの時代にはその歴史はとっくに忘れ去られていたのであるが。


しかし、この老王の言う『汝自身』を知ることができたなら、クロはもしかしたら暗黒王とはならなかったかもしれない。


「ところで、イチジよ、頼みがある。この国で僧侶として働いて欲しい。いまこの国に僧達を束ねることのできる者がおらぬ。」


「はい。その未来は存じ上げております。それがワタクシの運命なのでございましょう。お引き受けいたします。」とイチジは言った。



***



()()()()()()()()()()()()()()()()。なに階段を下っていくだけじゃ、恐れることはない。そこでお主は何かを見るであろう。」


その何かが ' 王の試練 ' だ。と ' 西域の王 ' は言った。


地下の遺跡の入り口まで、王とイチジはついて来てくれた。


「わしらはここまでじゃ、クロ王子、とそちらの白蛇しろへび殿、この階段を下っていきなされ。」


老王はクロとシロを見て言った。シロを見たときには心なしか忌々しそうな顔をしたように見えた。


≪登場人物紹介≫

・シロ ・・・ 本当の名をゲンカイ・ナダという。白蛇と呼ばれることがある。

・クロ ・・・ 本当の名をクロ・ト・ジュノーという。ジュノー王国の王子。

・アオ ・・・ 本当の名をアポトーシス・オルガという。〈死神〉と呼ばれることがある。

・ニジュウヨジ ・・・ オアシスにいたカモノハシ。アオの能力により少女の姿になっている。イチジの名を継いだ。


・灘よう子 ・・・ 東京で探偵をやっている。

・鴨木紗栄子 ・・・ 灘よう子に仕事を依頼する。

・鴨木邦正 ・・・ 鴨木紗栄子の伯父。植物学者。

・黒戸樹 ・・・ 鴨木紗栄子の夫だった人物。

・蒼井瑠香 ・・・ 医者。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ