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森と海の王国 (雨蛙は苔の中へ)  作者: 森野うぐいす
第三章 ≪西域の王国≫
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新しい大僧正

イチジ大僧正と思われるその"ヒトダマ"は、


「この世界は ' 滅び ' へと向かっていたはずなのですが、' 世界の行き先 ' が変更になったようでございます。」と言った。


「そのようだな。オルガもいなくなったようだ。」


「クロウ・クーン・ジュノーが ' 太陽の石 ' を手にしたのでございます。」


それは、クロがクロウに渡した宝玉のことであったが、クロは特に反応を示さなかった。


シロは、


「へえ。そうなんだ。」と言った。


「世界に均衡をもたらす者が『人間の王』ということになった。そういうことかと存じます。」


「そうか。()()()()()()()()()()()。」とシロは言った。


「人間の歴史とはすなわち"戦争"そのものでございます。この世界はもう少し歴史を紡ぐことを選択したようでございます。」


「俺は、滅ぶなら滅ぶ方が良いかと思っていたが。」


「あちらに祭壇をしつらえてございます。」とイチジ大僧正は言った。



***



しばらく森の中を歩いた。木々はすべて ' ホウセイの木 ' であった。その花の放つ光によって辺りは今は青く照らされていたが、普段は石棺の中は真っ暗なはずだった。


途中、雨蛙が木の枝からピョコンと跳ねて、シロのひたいにくっつき、またピョコンと跳ねてどこかへ消えていった。


シロは雨蛙のことを少し見やったが、それは無視して、


「' ホウセイの木 ' ばかりだな。不思議な木だよな。」と言った。


「はい。' ホウセイの木 ' は生命型兵器でございます。' ニューロン・ノード' が非常に複雑であると"カ・モギ博士"はおっしゃっていました。博士ですら ' ホウセイの木 ' の生理的機序を解明しきれていないのでございます。」とニジュウヨジが言った。


「うむ。まあ、ただの木ではないだろうな。」


しばらく歩いた先に祭壇があった。祭壇と言っても、大きめの食卓のようなテーブルを青い布で覆っただけのものである。祭壇の上には数輪の ' ホウセイの木の花 ' が置かれていた。


「さて、さっそく祈りの儀式を執り行いたいところであるが、私にはもう儀式を行う力も残されておらぬのだ...。ニジュウヨジよ、お前がイチジの名を継ぐのだ。」


「大僧正様、ワタクシがでございますか。ワタクシはまだそのような...。」


「ニジュウヨジよ...本来は世界の終末を迎えることがそなたの使命であったのだがな。」


「ワタクシは...。」


「ニジュウヨジ...そなたの年齢でイチジの名を継ぐことはさぞ辛かろう。しかし、すまぬ、そなたしかいないのじゃ。」と大僧正は言う。


たしかにこの世界には、カモノハシ一族はもう、大僧正とニジュウヨジしかいないのである。大僧正はニジュウヨジに近づくとニジュウヨジの頭に手を伸ばした。もちろん、手と言っても手のように見える"白い光"のことであるが。


カモノハシ一族は、世界のすべての時間を見ることができるという。


大僧正の手がニジュウヨジに触れた瞬間、大僧正が見たこの世界のすべての時間がニジュウヨジの体の中に流れ込んできた。


この石棺が造られる前の時代のことも、この石棺が造られた時のことも、それ以後のことも、さらにこの先の未来のことも。


"大僧正様、これはこの世界は。この世界はいったい何なのですか。"


"ニジュウヨジ、いや新しいイチジよ、我らはただ時を見るだけじゃ。その意味を知ることはできない。"と大僧正は言った。


そして、その時、大僧正の命が尽きた。


≪登場人物紹介≫

・シロ ・・・ 本当の名をゲンカイ・ナダという。

・クロ ・・・ 本当の名をクロ・ト・ジュノーという。ジュノー王国の王子。

・アオ ・・・ 本当の名をアポトーシス・オルガという。〈死神〉と呼ばれることがある。

・ニジュウヨジ ・・・ オアシスにいたカモノハシ。アオの能力により少女の姿になっている。

・クロウ ・・・ 門番の少年。


・灘よう子 ・・・ 東京で探偵をやっている。

・鴨木紗栄子 ・・・ 灘よう子に仕事を依頼する。

・鴨木邦正 ・・・ 鴨木紗栄子の伯父。植物学者。

・黒戸樹 ・・・ 鴨木紗栄子の夫だった人物。

・蒼井瑠香 ・・・ 医者。


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