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森と海の王国 (雨蛙は苔の中へ)  作者: 森野うぐいす
第三章 ≪西域の王国≫
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世界の異変

ニジュウヨジがその異変に気付いたのは翌朝のことであった。


彼女はいったいどうしたことなのだろうかと不思議に思った。


そして、もし世界に均衡をもたらす者がいるとしたらそれは何者であろうか、『神』であろうか『王』であろうか、それとも『ドラゴン』のような存在であろうか。そういったことについても思いをめぐらしてみた。


しかし、もちろん彼女にはその答えを得る術はなかったのではあるが。



その異変と関係があるのかないのか分からないが、大僧正はすぐにでも祈りの儀式を執り行いたいと言い、クロ王子とナダを呼んで来るようにニジュウヨジに命じた。


彼女が"カ・モギ"の家の中へ入って行くと、少年達三人はまだ寝ていた。


「ナダ様、ナダ様、起きて下さいませ。」ニジュウヨジはシロを揺り起こした。


「うう、何かおかしいぞ。」とシロが言った。


「はい。おかしいのでございます。」


「〈死神〉の気配が消えたな。オルガはどこかへ行ってしまったのか?」


「はい。アポトーシス・オルガ様がこの世界から消失致しました。これは困ったことなのです。」


「うむ、まあ別に困りはせんだろう。むしろ〈死神〉はおらん方が良いのではないか?」


「はい。しかし、困ったことなのです。あの方はワタクシを"ニンゲン"の姿にしたまま消えてしまったのです。ワタクシはカモノハシに戻れないのでございます。これは困ったことなのです。」と彼女は言った。


「そうか。まあ、いいんじゃないか?」とシロは他人事のように言った。


「ナダ様、ナダ様が何かしたのではございませんか?」ニジュウヨジは〈死神〉の消失はシロの仕業じゃないかと疑っているようだった。


「ん?俺は何もしとらんぞ。」とシロは言った。特にとぼけているようでもなかった。



「そうでした、大僧正様がすぐにでも祈りの儀式を行いたいと申しておりまして、クロ様とナダ様を連れてくるように言っておりますのです。」ニジュウヨジは思い出したように言った。


「何で俺まで祈りの儀式に参加しなきゃいけないんだ?」


「ああ、それは、それはきっと、大僧正様のお命がもう尽きようとしているからではと、そのように存じます。」


「そうか、あの爺さんももう長く生きたからな。俺に最後を見届けさせようと言うのか。」


「はい。どうかそのお役目をお願いしたく存じます。」とニジュウヨジは言った。


そして、彼女はクロ王子を起こした。


クロとシロはクロウに別れを告げると、地下の石棺へと向かった。



***


石棺の中は、かなり広い空間であるようだった。この中を一周するだけでも、半日から一日はかかるのではというくらいの広さであった。


驚くべきことはその広さよりも、この空間の中が『森』のようになっていることだった。『森』のようというより『森』そのものであった。そして、その木々はすべて ' ホウセイの木 ' であった。 ' ホウセイの木 ' は花をつけており、一輪一輪から ' 青白い光 ' が放出されていた。


' 青白い光 ' に包まれた石棺の中は幻想的な雰囲気を醸し出した空間となっていた。



森の中を進んでいくと、ちょうど中程のあたりに、真っ白にボウっと光るモノがあった。それは分かりやすく言うと"ヒトダマ"のようであった。


ニジュウヨジはその"ヒトダマ"に向かって、


「イチジ大僧正様」と呼びかけた。


「大僧正って、あれほとんど"ヒトダマ"だぞ。」とシロは言った。


「はい。ですので、申し上げました通り、大僧正様のお命は尽きようとしているのでございます。」とニジュウヨジは言った。


ニジュウヨジの呼びかけに応じるように、その"ヒトダマ"がこちらを向いたように感じられた。


≪登場人物紹介≫

・シロ ・・・ 本当の名をゲンカイ・ナダという。

・クロ ・・・ 本当の名をクロ・ト・ジュノーという。ジュノー王国の王子。

・アオ ・・・ 本当の名をアポトーシス・オルガという。〈死神〉と呼ばれることがある。

・ニジュウヨジ ・・・ オアシスにいたカモノハシ。アオの能力により少女の姿になっている。

・クロウ ・・・ 門番の少年。


・灘よう子 ・・・ 東京で探偵をやっている。

・鴨木紗栄子 ・・・ 灘よう子に仕事を依頼する。

・鴨木邦正 ・・・ 鴨木紗栄子の伯父。植物学者。

・黒戸樹 ・・・ 鴨木紗栄子の夫だった人物。

・蒼井瑠香 ・・・ 医者。


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