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憑かれる彼女は疲れる幼馴染の袖をひく

作者: ささめ

ごちゃごちゃしています。夜のテンションで書きました。感想など、よかったらお願いします!



(ひぃィィィ・・・!いるよ!まだいるよ!後ろにいるよ!)



梔詠(くちなしよみ)は、心の中で絶叫した。



(諦めてよ!私死にたくないもん!お願いだから消えておくれよ!)



必死に覚えた般若心経をぶつぶつ唱えてみるし、ポマードを連呼してみたし、清め塩だって携帯中だ。


だというのに一体全体どういうわけだろう。

詠の背後に陣取った人ならざる物は、余裕の笑みを見せているではないか。つまりはぜんぜん効いていない。



(般若心経うろ覚えだからいけないの?!ポマード持ってないから駄目なの?!清め塩が昨日安かったスーパーの食塩だからいけないの?!塩には変わりないじゃん!)



ひたひたと濡れた裸足の足音が、煽るようについてくる。

走り出したいが、走ればもっと危険なことは、今までの経験で嫌というほど知っている。


このまま憑かれていたら、確実に死ぬ。

ただ、詠に霊を救う(祓う)術の持ち合わせはない。


首に、濡れた腕が纏わりついた。


その冷たさに総毛立つ。


振り返ってはいけない。


なのに、悪寒と首を徐々に絞めていくその腕は、無視をするには存在が大きすぎた。


苦しい息の下、詠はうずくまる。

人気のない道だ。このままなら詠は死んでしまうかもしれない。


必死に音にならない言葉を紡ぐ。



 () () ()



たった三音の、詠の救世主。

どこにいても、どんなに離れていても、()は詠を見つけてくれる。



「・・・・・・懲りないのな、お前。」



絶対零度の声音と、淀んだ瞳が、詠に向けられた。



「しーくん!」



「あーあ・・・・・・。こんなにくっつけて。頼むから祓う俺の身にもなってくれよ。」



艶やかな黒髪と、切れ長の目、瞳は死んでいる。

目と雰囲気だけで言えば、どちらかといえば祓われる側だ。



「え・・・?浮気されて自殺した・・・・・・?んなの知らねぇよ。」



詠に憑く霊に、淡々と話しかけていく。



「・・・・・・他人様に迷惑かけちゃあいけませんって親に教えてもらわなかったのか?・・・・・・?無念だって?・・・・・・はあ?だからって首絞めるか?人殺しだぞ?・・・・・・そんなつもりなかった?つもりはなくても罪には問われるさ。・・・・・・ごめんなさい?俺じゃなくてこいつに言え。」



詠は霊に、そろぉと視線を移した。










静は詠と霊を見つめて、ため息をついた。


詠と静は幼馴染だ。小学校低学年の頃からの付き合いで、当時から相当な数の霊に憑かれていた。


昔の静は、その頃『視る』ことしかできず、毎日憑きに来る霊に幼い精神をぼろぼろにされた。

誰にも見えないのに、確かにそこにある恐怖。迫り来る死の予感。

静は周りに助けを求めることをやめた。

自分のことは自分で片を付ける。そう決めた。

幼稚園児には難しい本を読み漁り、霊を殺す(祓う)術を身に付けた。目に映る霊全てを祓ってまわったこともある。

静にとって、霊は忌み嫌う対象だった。


小学校に上がり、日も浅い頃だった。やたらと霊を身にまとった少女ー詠ーと出会った。


ーーあなたも、れいがみえるの?


その言葉に、身体を熱が巡ったように感じた。


ーーおなじだね


その笑顔にどれだけ静が救われたか、詠はきっと知らない。


詠は、何度も死にそうな目にあったことがある。それでも、静に殺させる(祓わせる)ことをさせようとはしなかった。


いつか、静は詠に聞いたことがあった。

どうして自分に霊を殺させ(祓わせ)ないのか、と。

詠はつい先ほど、事故死した霊に突き飛ばされて死にかけたにも関わらず、不思議そうな顔をしていた。


ーーしーくんは、ひとを殺せるの?


血の気が引いた。

霊を祓うことは殺すことなのだとずっと思っていたのに、改めて言葉にされると衝撃が大きかった。


ーーれいはひとだよ、しーくん。たとえことばがとどかなくても、はらうどうぐでけしてしまえても、あのひとたちはひとでしかないんだよ。


わたしは、しーくんにひとをころしてほしくないよ、と。そう締めくくられた言葉で、静は変わった。


言葉に祓いの気を含めて、霊体に直接、肉声でなく信号として意志を伝えるようにした。そうして初めて、霊が特殊ではあるが言葉を交わせる存在なのだと知った。


静の業ばかりを重ねる生き方を変えてくれたのは詠だ。

それに報いたいと思うのに。

詠が静を呼ぶのは、やっぱりぎりぎりになってからだ。

もしかしたら間に合わないかもしれないのに、ぎりぎりまで我慢してしまうのは霊に憑かれがちな彼女の性根が原因なのかもしれない。

それでも、危機に瀕して静が助けに現れたとき、どんなに危険なときでもひどく嬉しそうにする、その一瞬で、怒る気がそがれてしまう。



『私・・・・・・ゴメンナサイ・・・。助ケテ、ホシカッタノ。貴女ニハ私ガ見エルカラ・・・。助ケテクレルト思ッテシマッタノ。ゴメンナサイ・・・・・・、ゴメンナサイ・・・・・・、取リ返シノツカナイコトヲ、シソウダッタノネ・・・・・・。』



霊と人とは、根本的に違う。

霊は死者だ。人だ。それと同時に人では在り得ない(変われない)ものだ。

どれだけ世界が変わっても、人が変わっても、霊は変わらない。変われない。



「もう、いいよ。あなたが咎を負わずに在れて、よかった。」



静は意図的に祓いの力を言葉に乗せることで霊に干渉できる。

凪いだ水面に落とした石のように。


ただ、詠は意図せずそれができる。

詠の言葉は温かい。

霊はそれに惹かれてしまうのだろう。

霊だって理性がないわけではない。少し語りかければきちんと理解してくれる。

ただ、詠は霊に追われると恐怖で一言も喋れなくなってしまうため、宝の持ち腐れともいえる。



「成仏してくれるか?」



霊が詠に謝ったことを確認して問いかける。

合意の上の除霊と、霊の意思に沿わない除霊とでは霊体の受けるダメージが大きいからだ。



『私ハ、マタ同ジコトヲスル。ワカッテイルワ。アナタタチノ言葉ダカラ届イタンダッテコト。・・・・・・オ願イ、シテイイカシラ?』











優しい光が一瞬この世との別れを惜しむように滞空した後、空に消えた。



「・・・・・・あー疲れた。」



静がため息をつく。霊を祓うのは、詠が考えている以上に大変なことらしく、除霊し終えた静はいつもしばらく動かない。



「しーくん、頑張って立って。ファミレスでパフェ奢るから。」



「ほんと、ぎりぎりになって呼ぶんじゃねえよ。もう少し余裕があるうちにして。肝が冷えるわ。」



「だって、そのまま霊がいなくなったら、来てくれたとき申し訳ないし。」



「いなくなったらいなくなったでいいだろう?万が一、いや、億が一、俺がおまえの危機に間に合わなかったらどうするんだ?さすがの俺でも、北海道あたりから、瀕死のSOSが届いても瞬間移動とかできないからな?」



(それは、助けを求めたらどこからでも駆けつけてくれるってことでしょう?)


詠は、そんな優しくて世話焼きな静のことが好きだ。



「大丈夫だよ。しーくんなら来てくれるって信じてるから。」



「そんなに過度の信頼を寄せられたって応えられません。」


いつでも、静が、詠のことを助けてくれた。

どれだけ泣いて伸ばしても、『普通(見えない周りの人)』には届かなかった手を、静だけが取ってくれた。

幼い頃、出会ってからずっと、手を繋いでいてくれた。

今は、その手を握ることがなんだか恥ずかしくてできないけれど。



「ねえしーくん。」



「うん?」



詠は静の服の袖を軽く引いた。



「大好きだよ。」



「はいはい。ほら、ファミレス行こう。」



「うん!」



袖を握ったまま、詠は歩き出す。それに引っ張られるようにして静も歩く。






いつか二人の手が再び繋がれることを願って。

最後まで読んでくださりありがとうございました!

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