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『不老不死の薬を作った少女』  作者: 根尾 彼方
9/12


 今日、私は100年以上の時を経て外へ出る。まず行ってみたいところは、故郷の温泉だった。


 「どこを目指すか決めているの?」


 彼に私が聞いてきた。


 「故郷の温泉、父が残した温泉はまだあるのかな」


 「……どうだろう、まずは地上に出て現実を見るのが早いと思うよ。」


 彼は意味深に言うと、彼の代わりになる「彼」に自分のカードを首からかけさせた。私も「私」の首にカードをかける。



 「彼」と「私」は静かに頷いてくれた。

 「後は任された。」


 「彼」はそう言う。「私」は猫を抱えて笑顔で手を振ってくれた。


 「私」にそんな表情ができるようになったことは最初から見ると大きな進歩だった。

 

 猫をひとなでした。猫は「私」の腕の中で気持ちよさそうにしている。この子は連れて行けないと、彼から聞いていた。覚悟はしていたから、大丈夫だが少し寂しく感じる。猫にとっては、全くそんなことないんだろうけれど。




 この施設に入ってから一度も自分は開けていない扉に手をかける。


 ぐっと力を入れると簡単に開いた。



 ガチャ



 研究所の穏やかな雰囲気とは違い、無機質な廊下がまっすぐに伸びている。道なりに進むと、突き当たりにまた扉があって、彼が認証コードを入れてくれた。


 ウィーーーン


 機械音と共に開く。


 「よし、外へ出るから防護服と防護マスクしてくださいね。」


 彼はさも当たり前のように、棚の中から宇宙服のようなものを取り出して渡してくる。

 「サイズは特注で作ったから多分大丈夫だと思います。」


 「へ?えぇ。」


 状況が飲み込めないが、促されるままに装着した。


 確かにぴったりだ。


 「さて、地上に行きますよ」


 ここはやはり地下だったのか。

 たまに工事が入っていたけれど、100年以上も建て替えることなくいたのは、そもそも地上になかったから中からの補強の必要しかなかったのだと知った。


 昇降機と書かれた光る丸の中に立つ。

 すると、光が回りだし、「上昇中」の文字が浮かび上がる。

 全く揺れずに上昇していく。



 「地上階です」


 機械的なアナウンスが流れた。


 円の外へ出て数歩歩くととあたりが明るくなった。


 厚い銀の扉に彼が手をかざすと、扉の横から風がぶおおおっと吹き出して、ゆっくりと扉が開いた。


 見たことのない、景色。


 コンクリートは砂に覆われ、

 あたりは大気汚染で視界が霞んでいる。


 「地上はね、この100年以上の時を超えて普通の人間には厳しい環境になったんですよ。」


 私は、言葉が出ない。


 「国の要望は、軍の為かと思いましたか?」


 「うん」



 「最初は確かにそうだったと思います。しかし、現在では先の第6次世界大戦にて空気中に多くの有害物質が撒かれました。その濃度が下がらないため、適応できる人間が必要になったのです。」


 「私が、守りたかった人間っていう生物はもうほとんどいない、のね?」

 あたりを見回して彼に問う。


 「地上にはいませんが、地下施設は発展しています。この国には第1〜10居住地区まであります。人口はかなり減り、選民思想の強い社会になりました。」


 彼はどこかあてがあるのか、歩きながら私に説明してくれる。


 「博士は、現在神として崇められています。お恥ずかしながら僕は神の使いとされています。」


 「か、神!?」


 「この世界で人間が老いることのない社会にしたのは博士ですし、僕はこの劣悪な環境でも動ける労働力の提供をしました。クローンに人権はありません。この環境の中で、彼らは環境を少しでもよくするため使い捨てられていくのです。」


 彼の目はすごく寂しそうだった。


 殺すために人を生み出す作業をしていた彼はどんな気持ちでいたのだろう。


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