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『不老不死の薬を作った少女』  作者: 根尾 彼方
6/12


 彼がいつもと違う雰囲気で「嬉しい」なんて言うから、動揺してしまった。


 ここ100年以上で私は科学の発展に大きな功績を残せたことは確かだが、人類の持続可能な発展について考える事は疎かにしてきた。元々、研究を始めるきっかけになったのは曾祖父さんが老化と共に弱っていく様子に耐えられなかったからだった。身近な人を救いたい思いからここまで来たわけだが、私が多くの人を傷つけたのも事実だ。


 研究にしか目を向けてこなかったからこうなったのかもしれない。人の現状をこの目で見ない事も大きな原因の一つと考えた。


 私は外に出たい。

 困っている人を苦しんでいる人をこの目で見ないで、助ける事に何の価値が有るのだろう初心に戻ることにした。

 何があったわけではない。

 それでも、私自身が考えて出した答えだった。


 彼が研究しているクローンは初期よりもかなり発達している。クローンに私を教えればうまくやってくれる事だろう。


 それにしても、彼が一緒に来てくれるというのは嬉しい事だ。


 彼はここに住み込みで働いてはいるが、私と違って外に出て仕事をする事もある。

 彼と旅をしたら楽しそうだし、今の現状の案内をしてもらうため彼のクローンでも借りていこうと思っていたのだが……

 それから少しして、彼は一体の「私」を連れてきた。



 「この個体を博士に仕上げようと思います。ウィルス耐性を上げて、個体の肉体強化もしてありますが、博士です」


 「私」の目には何も写っていないように見えた。


 「よろしく、私。」


 そう言うとややこちらに目を向けて、オウム返しのように同じ言葉を発した。やや無機質な声ではあったが……


 この個体に「私」を教えこめば外へ出れる。そういう交渉を彼がしてくれたらしい。

 彼も同じように新しい自分へ教えこみを行うようだ。


 この個体は、「私」を学習して「私」にない動きをする。人を育てるのは難しいなぁと思う。「私」がどのようにして「私」になっていくのか、興味深い。


 「私」は基本的に父から大きな影響を得ていた。だから、今度は私が「私」の父になるのだ。研究に没頭する背中を見て小さい頃思った事、きっと「私」も同じように感じるのだろう。


 それでも、私が育てた「私」は父が育てた私と違った。


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