少年
彼女の論文が世に出すと、早く実用化しろと騒ぐ声がうるさい。僕が情報管理しているから、彼女はそんな事知るわけもなく、また朝から猫と戯れている。
僕はそれを笑ってみながら、食事は何を食べたいか聞く。
今のタスクはクローンに薬を投与し経過観察を行う事だ。
クローンに人権は無い。
まず、クローンをウィルス感染させ、その後薬の投与をし、経過観察する。それに反対する人もいるから、僕も彼女と同じようにこの施設から出れなくなってしまった。世の人たちがせかすからこうするしか無いのに、本当、皆自分勝手だ。
そうだな……彼女は檻に入れられた蝶、僕は自分から檻に入って羽化した蛾と言ったところだろうか。
三日前に発症し薬を投与していた個体が死んだ。
他は回復傾向に有るが……この個体は、「不老不死の薬」を投与した後にウィルス感染させた個体だった。その二日後、同様に「不老不死の薬」を投与した後にウィルス感染させた別の個体が死んだ。
ウィルス感染で死んだのか疑問に思ったため、健康な個体に「不老不死の薬」を投与して「今回作った薬」を投与すると、数日後に死んだ。
つまり、併用は不可という事がわかった。
今の世界では「不老不死の薬」を飲んでない人間の方が少ない。それこそ、次世代のまだ年齢を止めていない世代だけだろう。
博士に報告すると、
「併用不可か~」
と言うと宙を眺めた。
最近の彼女は「生きる」事に疲れてきているように思う。僕は彼女がいれば生きていける…けど。
彼女は宙を見つめたまま言った。
「私は……変化が欲しい。私のクローンにここを任せて世界を旅して、老いて死にたい。私は、私のクローンは何人もいるんだろう?」
ここまで真っ直ぐな彼女の目を見たこと無かったから、反射的に返事をしてしまった。
「わかりました。」
どうすればこの願いを叶えられるか考えてみる。何より、僕は彼女と一緒に旅をしてみたい。
「僕も一緒に行きます。ただ、準備が必要です。もう少し待てますか?」
「ここまで来たら10年単位で待てる、君と行けるなら、いつまででも待てるかもね」
「つっ……」
彼女が今まででそんな発言したことなから驚く。
「何?」
「いや、そう思って頂けて嬉しいなぁっと」
僕ははにかみながら答えたら、目をそらされてしまった。施設で初めてあった時と同じ反応をされてしまって悲しい。