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『不老不死の薬を作った少女』  作者: 根尾 彼方
4/12

少女

 「病理切片できましたよ」


 彼が夕方頃に話しかけてきた。


 「ありがとう」


 もう長いこと一緒にいるから、彼の見目のいい顔にも慣れた。優しすぎることに恐怖した事も過去の事だ。



 心細くなると彼を呼びたくなる。

 でも、それは過ぎたこと。

 「今の私」はこの施設に私を入れた男のせいで、信頼も信用もするから、裏切られる。そう考えるようになっていた。その男は、私の研究において一番のパトロンで、夢を語り合った仲だったのだ。



 体は昔のままでも、精神は老いていく。






 彼の作ってくれた何枚かの病理切片を見る。

 ウィルス性の異常が見られた臓器が綺麗に治っている。

 これでデータは1通りのそろった。


 さっそく結果を論文にまとめる。


 世に出したらまた私は人を苦しめるのかもしれない。

 だけど私は今苦しんでいる人を救いたい。


 今よりも大きな苦しみに変わるなら、それも取り除く努力をする。それが、永遠を人類に教えた私に課せられた義務だと思う。


 彼がそっと紅茶と一口サイズに切ったフルーツを差し出してくる。


 「もう書き上がりそうですね、早いなぁ」


 彼はこんなふうに言うけど、私が書き上げた論文の添削を数時間もかからず完璧にやりきる彼も相当すごいと思う。


 「そうかなぁ……」


 「そうですよ?一旦おやすみしませんか?」


 美味しそうな紅茶の香りがする。


 「うむー」


 そう言って出されたものをゆっくり食していく。


 「書き上がったら見て~」


 「もちろんです」


 もぐもぐする。りんごが美味しい。


 「明日は私お休みだっけ?」

 「はい、何かしたいこととかありますか?」


 休みなんて適当にとっていいのたが、休みは不安になるから決められた日以外休まない。彼は私が不安になることを見越してその日も出勤してくる。彼がいれば気がまぎれるのは事実だった。

 その存在に頼りすぎてないか不安になることもあるが。


 その事を訪ねた時


 「深く考えないで、楽しいことしませんか?」


 と、返してくれた。その単純な一言で、なぜか心がとても軽くなったのを今でも覚えている。


 クローンでも置いておけばいいのに、クローンは細かいところが違うと言って本人がいつもいる。


 「んー、弓引きたい」


 「わかりました。肩の調子はどうです?」


 肩が凝っていると痛めやすい。


 「大丈夫そう。でも一応14㌔の方使う」

 16位まで引けるのだが、2週間ぶりなので少し弱い弓を使う事にした。


 弓は、この施設に入ってから何かほかの事に集中してみたいと思って始めた。「やってみたいなぁ」と、呟いたら数ヵ月後にできるようになっていたので驚いた。


 他に水泳もできるようになっている。

 水泳は休みの日以外もやっていて、実はむきむきだったりする。体を適度に動かした方が心が安定する。人は簡単に裏切るけど筋肉は裏切らない。



 「承知しました。僕も引きますかね~」


 「いいね、のんびりやろう」


 私はフルーツを食べ終わって紅茶の香りを楽しむ。

 



 最後に紅茶を一気に飲み干してまた論文を書き始め、論文作成作業を再開した。


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