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『不老不死の薬を作った少女』  作者: 根尾 彼方
3/12

少年

 僕の職業は100年以上変わっていない。

 博士の世話と助手。

 それに、自分の研究であるクローン研究。


 この100年間、博士の発見によって今まで考えられないような世界へと変わった。


 人は老いない。

 クローンを培養槽の中で急速成長させていくらでも生み出せるようになった。


 しかし、人は老いず人のクローンが生成できても記憶は次第に薄れる。


 博士は多分僕の事を全く覚えてないと思う。


 小学校でずっと同じクラスで君を見ていた僕のことなんて。


 その時から彼女は、孤高の人だった。最低限学校に来る以外は、家にこもっていた。友達と呼べる人はいなかったように思う。

 僕は運動がちょっと人より出来て、見目が良かったからモテはしたけど、僕が憧れている彼女の目には全くうつらなかった。


 彼女に振り向いて欲しくて、必死に勉強した。彼女が出している論文は共通語で書かれ当時の僕には難しかったが、全部読んだ。彼女が論文の参考文献として記載しているものも全て。


 そして、18歳になった時、新薬臨床試験の募集がかかる。募集年齢にぎりぎり達していたので、飛びつくように応募した。


 僕は「同意します」にチェックをつけて、署名したのを今でも鮮明に覚えている。


 あの時から、僕の体は成長していない。

 多少の傷跡とか、少し目が悪くなって眼鏡をかけるようになったくらいしか変化はない。




 彼女の研究をよく理解している点と、数年たって実験手法などを充分に身につけられている点、そしてクローン研究を評価され、彼女のために国が行った臨時職員試験に通ることが出来た。

 1万倍を超える激戦の中良く受かったと思う。


 当時から国はあまり情報を知る人を多くしたくなかったらしく、試験の合格者定員は1名だった。

 試験には食事を作る事や、身の回りの世話の項目も含まれていた。

 両親が共働きで妹の世話をしていた僕にはなんの苦でもなかったが、かなりの人数がこれで落とされたらしい。


 彼女の世話をして、実験を共にする。

 それに選ばれて、彼女に自己紹介した時、多分彼女は初めて僕を認識してくれた。


 「よろしくお願いします。」

 そう言うとすぐ目をそらされてしまったけど、その一言を僕のために言ってくれた事にとても感動した。

 憧れの人の自分が認識された嬉しさだった。








 僕が務め出してから少しした時、彼女が倒れた。過労だった。


 国の偉い人から散々注意を受けた。


 それまで、施設に連れてこられてから、僕が来るまで、どんな生活をしていたのか、教えてもらえなかったが、僕が来た後よりひどい生活だった事だけは分かった。


 次第に憧れが、振り向いて欲しいという思いが「好意」に変わっていった事は分かっていたが、100年以上たった今でも心の中に秘めている。


 関われて、彼女から声をかけてもらえる「今」が、永遠に続きますように。


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