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『不老不死の薬を作った少女』  作者: 根尾 彼方
2/12

少女


 「ねぇ、私はどうすれば良かったのかしら」


 猫に問いかけても答えがないのは分かってる。それでも聞いてしまうのは、私の家族がこの子しかいないから。


 私の作った不老不死の薬は、万能ではない。この薬の効果は不可逆的だ。

 老いて死なないだけで、ほかの原因では簡単に死ぬ。


 例えば父と母は、私の発見によって苦しんだ人に殺された。私を殺せばよかったのに、なんて、後の祭りだし、できない事だっただろう。私はその時にはもう、核でも落とさなければ死なないだろう施設に閉じ込められていたから。


 今の私の生活は政府によって100年あまりの間管理されている。

 私は、人に影響を与えた。


 私をこの施設に連れて来る時「あなたを守るためです」と、私に言った男の目は、何十年経った今でも覚えているくらいドス黒いものだった。

 その男に意識を奪われて、気がついたらこの施設にいて、精神的に厳しい時もあった。


 窓から朝日が差し込む。

 もちろん本物の太陽光ではない。

 窓の外の庭も、空も、鳥も。全てがホログラムで作られた幻だ。

 ここがどこかさえ眠らされて連れてこられた私には分からない。


 武装した兵士がたまに巡回しに来る事と、国の研究員の男性が1人いるだけだ。

 国の研究員の人も歳が私と同じくらいで止まっている。とても見目がよく優しいので最初の方は戸惑った。彼は自分の研究もしながら、私の世話と研究の手伝いを仕事としているらしい。



 私は彼に毎日、不老不死の薬を私が服用したのを確認される。

 彼は助手として研究を手伝ってくれもする。今している研究は、「人間を不死にする」研究だ。歳を止めるだけでなく、病気で死ぬ事を無くす研究。

 外傷などに強い個体や人が住めないような劣悪な環境でも生きていかれる個体も国から求められ研究の中には入っているが、それ自体に興味が無いのであまり研究が進まない。「人を外敵から守るため」って、あからさまに軍用ではないか。人の敵は人だと思う。私は人を救うために研究をしている。それは、外見の時を止める前から変わらない。


 ちなみに、彼の研究はクローン。私が半ば放棄している研究を代わりにやっているようだ。

 優秀で、環境適応の高い個体を何体も作り上げていると聞く。放棄した分押し付けてしまっているようで申し訳ない気もする。



 私は身近な人を救いたくて薬を作った。しかし、人を救う事は出来ないのかもしれない。

 「不老不死の薬」を作ったことによって逆に争いが起こりそのせいで人が死んだとも聞く。私のやっている事は正しいのか、自問自答し不安になり、それでも出来ることをやろうと前を向く。そんな毎日だった。



 猫は私の悩みや不安、決意でさえもあくびで流す。だからこそ、大好きだし、癒される。


 やはり、猫が膝でくつろいでいる朝は最高だ。


 「おはようございます、博士」

 聞きなれた声がする。彼が出勤した。彼は住み込みで働いていて、私の部屋に私が起きて一定時間すると入ってくる。


 「おはよう」


 「朝ごはんは食べましたか?」


 私が起きてから動いてない事を知っているだろうに、彼は聞いてくる。

 私が勝手にベットとトイレがついた寝室以外へ許された時間外に行くと、彼に通報されるシステムがある。最初の方、何か研究していないと落ち着かなくて、時間を問わず研究室で研究をしていたら体調を崩した。あの時は、大げさに彼が騒いで、大変だった。


 しっかり休む事をルール付けされ、このようなシステムが出来上がったのだ。


 この部屋には机もない。机がないと集中できない私にとっては、休む場所以外に使えない。


 だが、リビングには食卓という名の机がある。そのため、休む場所として認められなかった。



 「パンケーキ」


 「それは、博士が食べたいものですね?」


 やっぱり、分かってるじゃないか。


 「うん」



 食事スペースに移動すると、猫もついてきて一緒に席につく。この猫は猫とは思えないような動きをする。布団は顔出して寝るし、椅子は自分の場所を取っていて必ずそこに座る。可愛い。


 席につき、台所に立つ彼を伺う。今日も変わらず元気そうだしどこか楽しそうだ。


 私と毎日顔をあわせなきゃならないの辛くないのかな。


 ふとそう思うが、100年以上もの間続けているのだから辛くはないと判断する。


 彼がフカフカのホットケーキにバターとイチゴやブルーベリーなどのフルーツが食べやすい大きさに切られて乗っているお皿を持ってきた。


 あまりにも美味しそうで目を細める。


 「いただきます」


 そう言って、食べ出すと彼は「フッ」と笑った。


 「美味しいですか?」


 「えぇ、もちろん」

 そう、彼の作るご飯はどれも美味しい。これでやる気が補充される。

 ぺろっと食べ切るのにたいした時間はいらなかった。

 「はやっ、いですね。相変わらず」


 「ごくん。ごちそうさま」


 満足した。さて、今日は助手としてのお願いがある。

 「167番のマウス、ばらして、臓器の切片作っておいてくれる?」


 「わかりました」


 彼は彼で研究しているので、あまり無理はさせられないとはわかっているが現状として猫の手でも借りたいところだった。






 私には政治はよく分からないし、私がこの施設に入った時には世界3位だった私の国が、世界1位の国土と国内総生産を誇っている事も知識としてしか知らない。それも制限のかけられた情報から得られた知識。


 その過程で幾万の血が流れ、傷つき苦しんだ人がいたか。それは、想像することしかできない。



 100年も経てば世界は変わる、その通りだ。

 100年経っても、私は変わらない。


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