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異界の旅路  作者: Posuto
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第8話:歌い手とファン

 「なぜ、私を助けた!?」


銀髪の少女に近づいてみると、そう言われた。

彼女は、仁王立ちで、こちらにきつい視線を送っている・・・・素っ裸で。

さすがに、顔をそらした。


 「なんで顔をそらすっ!聞いているのか!」


どうやら自分の状況をすっかり忘れているようだ。


 「えと・・・君、裸・・・・」


何とか伝えてみる。


 「あっ・・・・・!!」


気づいたようだ。

僕は、自分のコートを脱いで、渡してあげる。


 「うっ・・・・すまない・・・・」


コートを着たのを確認すると、僕は彼女を見た。

コートから生足が見える。チラリズムがいいね!!


 「ど、どこを見ている!!さっきの質問に答えろ!!」


なぜ助けたのか、だったか?

正直、自分にもよくわからない。

僕が原因で捕まったことに責任を感じた・・・・だけではない。

いろいろ、ごちゃごちゃした感情があるが、言葉で伝えられる理由は、これだけだ。


 「ほら・・君、僕のほう見てただろ。その隙を突かれて捕まったみたいだったから、責任感じてね。」


 「それだけの理由で、あんな危ないことをしたのか!?」


そう言うと、怒っているようだった少女は、急に声のトーンを落とした。


 「助けてもらっても、私は君に何も与えるものがない。私を助けたとしても、不幸になるだけだ・・・」


なんか急に落ち込んだぞ。


 「別に、見返りを望んで助けたわけじゃないよ。助けたいと思ったから助けたんだ。」


 「私は、龍族だぞ!!怖くはないのかっ!?」


 「もっと怖い人を知ってるよ。」


僕は、ホルス村のララさんを思い出した。あの人は怒るとすごい怖い。おもっきりつねってくるのだ。

あれは痛い!!


 「あとほら、君の歌、良かったから。ファンが助けた、ということだよ。」


 「歌?何を言っている!!私の歌は、滅びを呼ぶ歌だぞ!」


 「歌ったら絶対に、龍魔法ドラグラフが発動するの?」


 「いや、そういう訳ではないが・・・・・」


 「じゃあ、今度また聞かせてくれ!そのときにまた評価しよう!」


彼女は口を開け、呆れた顔をしている。

そして、小さく笑った。


 「君は、変な奴だな・・・・」


初めて笑った顔を見たが、やっぱりかわいいな。

と思っていると、彼女は前のめりになり、倒れかかった。


僕はかろうじて受け止めた。


 「大丈夫!?」


 「ああ、すまん・・・」


 「雨宿りできる場所まで移動しよう。ここを離れたほうが、良いし・・・」


彼女をおぶって、移動しようとする。


 「待ってくれ。あっちに私の荷物があるんだ。」


近くの木の根元を指さす。

彼女のカバンを回収して、自分のリュックも回収する。

おぶっているので、体の前にリュックを引っかけた。


 「重いか?」


 「いや、ぜんぜん。」


本当だ。女の人って軽いんだな。


 「ありがとう。」


 「ん?」


 「助けてくれたことも、歌を褒めてくれたことも。父上以外に褒められたのは、初めてだ・・・・」


そう言って、寝息を立て始めた。

僕は、できるだけ振動を与えないように注意しつつ、歩きだした。






朝だ。

目を開ける。

昨日はあれから、雨宿りできそうな小さな洞窟を見つけ、そこで一晩明かした。

彼女はずっと眠ったままだ。疲れていたのだろう。


洞窟の外に出ると、もう雨があがっていた。空のレイラインが、くっきり見える。

僕は近くの川で、顔を洗い、水筒に水を汲んだ。


帰って来てみると、銀髪の少女が、丁度起きてきた。


 「おはよう。もう平気?」


 「おはよう。もう平気だ。世話になったな。」


汲んできた水を、手持ちの予備のコップに入れ、渡す。


 「ありがとう。」


 「どういたしまして。」


僕も水を入れて、座る。

しばらく、黙って水を飲んでいると、


 「改めて、礼をいう。昨日は、助かった。ありがとう。」


と、彼女は言った。


 「うん。あっ・・自己紹介してなかったよね。僕は、ユウ。ユウ キリシマ。よろしく!」


 「私は、セラだ。ご存知の通り龍族だ。よろしく。」


握手を交わした。

セラに、気になっていたことを聞いてみる。


 「結局、あいつらなんだったの?特殊部隊っぽかったけど・・・・」


 「おそらくは、龍魔法を研究する組織だろう。君が真っ二つにした男が、それらしいことを言っていた。」


あの、リーダー格の男のことか。


 (龍魔法を研究する組織か・・・・・・・・ん?)


セラは、僕のコートを着て、膝を立てて座っている。

彼女は、コートの下に何もつけていない。

僕の位置からは、中が見えそうで見えない。

なんという素晴らしきアングル!!!!!!!!!!


 「ユウ?どうし・・・どこを見てるんだ!!変態!!」


 「ゴッフゥッ・・・・・・!!」


セラのもっていたコップが、すごいスピードで僕の頬に突きささった。

僕は、体を回転させながら、吹っ飛んだ。


 「君は、本当に油断も隙もないな!!」


 (あいたたた・・・・。なんという怪力。恐ろしい・・・・)


僕は、しばらくして起き上がって聞いた。(ふらついています)


 「ふくのかへはないほ?」(「服の替えはないの?」口がうまく動いていない)


 「下着はあるが、服はなぁ・・・・・」


僕もさすがに服は・・・・・


 (あるじゃないか!!あの服が!!)





 「これでいいのか?ずいぶん重い服だな?」


彼女に渡した服は、僕がこの世界に来た時に着ていた、高校の制服だ。

故郷のたった一つの思い出の品で、違う世界から来たという、物的証拠だ。

さすがに捨てられず、旅に持ってきていた。


 「この首輪みたいなのは何だ?」


僕の高校の制服は、ブレザーにネクタイだ。セラが言っている、首輪というのはネクタイのことだ。

それにしても・・・・・男子生徒の制服を女の子が着ると、なんか、こう、イイヨネ!!

しかも、銀髪碧眼の美少女!!


 「なんだ、その顔は・・・・・・?」


セラは、呆れ顔で僕を見ている。

そのまなざしに、覚えがあった。

おっさんが変な事をした時の、僕のまなざしそっくりだ。

そのことに気づき、自分がすっかりおっさんに毒されていることがわかり、少しへこんだ。


気を取り直して、セラに聞く。


 「セラは、これからどうする?僕は、首都ペルートに行くんだけど・・・・・」


 「私は、人探しをしているんだ。ユウは、この人を知っているか?」


そう言って、写真を取り出し、僕に見せた。

そこには、豪華な暖炉とその前でイスに座って微笑んでいる、金髪の女性が写っていた。


 「いや、知らない。」


 「そうか・・・まあ、そんな簡単に見つかると思ってないしな。」


そう言って、少し悲しさをにじませた顔で、写真を見ている。


 「じゃあ、一緒に首都まで行こうよ!首都には人が集まるから、情報は多いだろ?」


セラは驚いている。


 「私と一緒にいたら、また危ない目にあうぞ!やめておけ。私は一人でいたほうがいい。」


 「ダイジョーブだって!それにほら、歌をまだ聞かせてもらってないし・・・・」


 「じゃあこの場で歌う!それでいいな!」


まったく強情だ。それでは奥の手を。


 「その服、大事なものなんだけどな〜〜〜」


 「ぐっ・・・・・・!」


 「君にあげるわけにはいかないし、脱いでもらおーかな〜。」


ふっふっふっ。くやしがってる。くやしがってる。


 「本当にいいのか!?どうなっても責任は取れないぞ!!」


 「いいよ。これは、僕が自分で決めたことだよ。」


セラは、しばらく僕を睨んでいたが、諦めたようだ。


 「首都までだ。首都までだからな。」


 「はい、はい。」






こうして、僕に旅の同行者ができた。




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