第6話:銀龍の龍魔法
目的地である、カスリアの首都ペルートに向かう前に、
この世界の地理について、少し思い出してみる。
この世界は、大きな一つの大陸からなっている。
この大陸には、三つの大国が存在する。
大陸北の大国、エルフの国 ルーンラルド
大陸西の大国、共和制国家 スルグス共和国
大陸東の大国、帝政国家 シグルド帝国
この共和国と帝国の仲が悪いらしい。何度も戦争をしているそうだ。
そして、この三国によって、大陸の中央で囲まれている国が、
クランド、フェブトプ、カスロアである。
僕が拾われたのは、このクランド王国と北のルーンラルドの国境付近の森だ。
なので僕は、クランドにいることになる。
この囲まれた三国にも、特徴があり、
クランドは、共和国に接していて、その属国である
フェブトプは、帝国に接していて、その属国である
カスロアは、帝国と共和国のどちらのも接していて、中立を貫いてるそうだ。
僕が向かうカスリアの首都ペルートは、中立であるがゆえに、二大国から人が集まり、
学術都市として栄えているそうだ。
帝国からさらに東には、島国ヤマトがあり、ここの言語の、ヤマト語は日本語によく似ているそうだ。
興味があったのだが、おっさんが、詳しく教えてくれなかった。
僕が知っているのは、これぐらいの情報だけだ。
もっといろいろ知っておきたかったのだが、おっさんの地理の授業はいつも脱線して
「この地方の特産品の、カルムの実は、メチャクチャうめぇぞ!!」
とか
「この町であった、カリーナちゃんは、かわいかったな〜〜〜」
とか、話し出すので、ウザ過ぎてあまり聞いていなかった。
まあ、仕方ないだろー
家を出て5日、僕はようやく国境を越え、カスロアに入った。
今日は、朝から雨だ。コートについているフードをかぶり、歩く。
エーテルによる身体機能強化と疲労回復促進効果により、あまり疲れを感じず
速いペースで旅を進められている。
首都に続く街道を歩いていたが、地図によると、近くの森を抜ければショートカットできそうだ。
(あんまり疲れてないし、森を抜けていこかなー?)
そう考えて、森の中を進んでいった。
しばらく進んでから、リュックを木の根もとに下ろし、小休止をとった。
(雨やまないなー・・・・ん?)
微かな大氣エーテルの乱れを感じた。
戦闘の余波のような・・・・・
ドゴンッ!!
爆発音と振動が来た。
「なんだ!?」
微かだったエーテルの乱れは、今では大規模戦闘が行われているかのような状況になっている。
状況を把握するため、近くにある木に登った。
木のてっぺんまで登ると、驚きの光景があった。
「龍だ・・・銀色の・・・」
500メートルほど先の上空に、美しい銀色の鱗を持つ龍が翼を広げ、浮かんでいた。
地面に敵意を向けていることから、何かと闘っているようだ。
銀龍が口を開いた。すると、歌のような綺麗な旋律が聞こえてきた。
(歌・・・・?まさか、龍魔法!!)
おっさんの一般常識授業によると、
龍族には、謎が多く、排他的な一族であり、あまり他種族に干渉しようとしない傾向がある。
そのため、どこに住んでいるのかも知られていない。
しかし、龍族のみが使う秘術、龍魔法については有名である。
人間やほかの種族が大氣術を使う場合、
詠唱杖と呼ばれる、魔道具が必要となる。
詠唱杖は、体内エーテルを術式に変換し、
増幅して大氣エーテルに伝え、魔法が発動させる。
これなしに、大氣術を使うことは、
かなり高位の詠唱師でなければ無理だ。
だが、龍族は、何も使うことなく、強力な魔法を使うことが可能である。
その秘密は、龍族特有の声帯と歌であると言われているが、詳しいことは分かっていないそうだ。
(この歌がそうなのか・・・・?とても心地良い歌なのに・・・)
と、思っていると、銀龍の周りに巨大な魔法陣が発生した。
それと同時に、龍の視線の先、半径100メートルほどの地域が
黒い光に包まれた。
眩しさに目をそむけた。気付いた時には、黒い光が輝いた地域の
木々はほとんどが無くなっていた。
「これほどの威力なのか・・・・」
驚いて放心していると、銀龍がこちらを見た。
目が合った。
龍の眼は碧く、敵意に満ちていた。
しかし、僕は恐怖を全く感じづ、なぜか目が離せなかった。
しばらく見つめあっていると、龍の眼から敵意が消えた・・・
ヒュンッ!!
という、空気を切り裂く音と共に、銀龍の浮かんでいた、下の森から赤く輝く鎖が、一本飛び出してきた。
その鎖が、龍の首に巻きつくと、下から次々と鎖が現れ、翼や体に巻きつき、龍を地面に引きづりおろした。
ドスンッ!!
(落とされた!?)
なぜか、僕の心の中に怒りがわいた。
僕は、木のてっぺんから飛び、身体強化によって地面を踏み抜きつつ、着地。
脚力強化による、高速移動で銀龍の落ちた方向に急いだ。
落ちた地点の近づいてみると、何人かの人の気配があることに気づいた。
脚力強化をやめ、気付かれないように、静かに近づいた。
そこには、無数の死体があった。どの死体も、黒く炭化している。
龍魔法の直撃を受けたのだろう。
そして銀龍は、鎖によって地面に縫いとめられていた。
その銀龍の周りを囲むようにして、五人の詠唱師が魔法陣を展開している。
おそらく、あの鎖は、特殊な大氣術なのだろう。
倒れた龍の前に、リーダー格であろう詠唱師が立っている。
そのリーダーを守るように、生き残りの三人の兵士がいる。
身氣術を使う、氣闘士だろう。
(妙だな・・・・)
どの詠唱師、氣闘士を見ても黒い装備で、国を特定できる紋章などが見られない。
リーダー格の男と、詠唱師の会話が聞こえてきた。
「*******?」
「*********」
理解できない言語だ。これは・・・・
そこで思い当たった。
(暗号言語!?じゃあ、こいつらは、どこかの国の特殊部隊か!?)
おっさんに聞いたことがある。
暗号言語とは、特殊部隊など隠密任務を行う者たちが用いる、
その部隊のみでしか通じない、人造言語だ。
(さすがに特殊部隊に喧嘩は売れないな・・・あれ?)
倒れていた龍の体が輝きだした。
そして、大氣エーテルが龍に向って流れ込み、ポンッ!という音と共に小さく爆発した。
(なんだ、なんだ!?)
龍はいなくなっていた。その代わりに鎖には、銀髪の女の子が捕まっていた。
素っ裸で・・・・
(えぇぇー!あ、そうか。人型になれるんだっけ。
なんで素っ裸?・・って見ちゃいかん、見ちゃいかん)
まあ、見てるけど・・・
しかし、どうすべきか?
おそらく彼女は、生け捕りにされるのだろう。
腹が立つ。なぜかわからないが、腹が立つ。
そもそも、彼女が捕まったのは、僕に注意を向けていたからだろう。
僕が原因だ。でも・・・
(特殊部隊相手に何ができる・・・・)
逃げたほうがいい。見なかったことにすれば・・・・
僕は周りを見た。
雨はやんでいない。地面はぬかるんでいる。少しだが霧もでてきた。
やつらは、龍との戦闘で疲弊している。
僕は、覚悟を決めた。