第5話:別れと旅立ち
「ユウ!サントールの町まで行って、エロ本買って来い!」
ぼくは、朝食のパンを切っていたナイフに、一瞬でエーテルを徹し、投げた。
「ひぃっ!!」
おっさんは、飛びのいて避けた・・・・チッ!
「あぶないだろっ!」
よけたナイフは、後ろの壁に根元まで突き刺さっていた。
「あんたが変なこと言うからだろー。
で、何買ってくればいいの?」
サントールという町は、ここから徒歩で往復丸一日かかる距離にある、地方都市だ。
町への買い物は、エーテルによる、身体機能強化と疲労回復促進の
訓練に当たる。
具体的に言うと、丸一日かかる距離を、8時間で帰ってくるという訓練だ。
かなりしんどいが、今までに何度かしている訓練だ。
おっさんは拗ねた顔をしている。
「冗談だろーが・・・まったくー・・・
買って来てほしいのは、傷薬とかライフリートとか薬品系ね。」
その注文に、かすかな違和感を感じた。
ライフリートとは、エーテルを使う者、すなわち魔法使いたちが長旅で重宝する
体内エーテル回復剤だ。
まあ、おっさんが変なのは今に始まったことではないが、
最近は少し様子がおかしい。おそらく、先日届いた手紙が原因だろう。
手紙を読んだ後のおっさんは、普段見ることのない、深刻な顔をしていた。
「わかった。行ってくるよ。」
まあ考えても仕方がないので、行くことにしよう。
家に着いた時には、すでに夕方になっていた。
「ただいまー」
帰って来た時には、おっさんが夕食の準備をしていた。
「おう!おかえりーー」
変だ。
いつもなら
「エロ本は忘れてないだろうなっ!!ウキィー!!」
とか、言うんだが・・・・
夕食中も、やけにテンションが高い。
人の皿にある、チキンめがけて、フォークを刺そうとしてきた。
「そのチキンは、頂いたーーー!!」
「わたすかっ!!ボケェェ−ー!」
フォークによる、格闘戦が始まった。
今日1日ずっとおかしい、おっさんだった。
次の日、今日は僕が、狩りの当番なので朝から森に出向いた。
(春になって、狩りが楽になったなー)
小型の鳥を、二匹捕まえて帰って来た。
家に入ってみると、朝起きた時と変わらない状況だった。
(あれ?今日は、おっさんが朝食当番のはずだけど・・・
寝坊でもしてんのか?)
おっさんの部屋をノックしてみるが、返事がない。
扉を開けてみると、あり得ない光景が目の前に広がった。
部屋の中は、きれいに整頓され片づいていた。
おっさんの部屋はいつも、本や服が散乱している。
そのため、一週間に一回僕が掃除していたのだが・・・・
(どういうことだ。これ・・・・?)
部屋に入り、ベッドの上を見ると手紙があった。
『我が弟子、ユウ キリシマへ
まずはじめに、黙って出て行くことを謝ろう。
俺には、やるべきことができた。
君が、これからどうするかは自分で決めてくれ。
このまま、この家に住み続けてくれてもいい。
どこか違う場所に行くのもいい。
自分で決めるんだ。
もし君が、立ち止まることをやめ、歩きだすことを選ぶのなら、力を貸そう。
ベッドの下に地下室がある。そこを見てみるといい。
君との2年間は、悪くなかった。
願わくば、君にエーテルの加護があらんことを
ガウス ランドール』
読み終えた後、しばらく放心してしまった。
そして、置いて行かれたことと、黙ってい行かれたことに、腹が立った。
だが、おっさんの気持ちもわかった。
おっさんはかつて、関係のない戦いによって、異界人を死なせてしまっている。
もし、おっさんがここを出て行くと知れば、僕は付いて行こうとしただろう。
そうすると、僕を巻き込むことになるため、黙って出て行ったのだろう。
丸一日なにもせず、考えた。
決めた!
僕は、元の世界に帰る方法を探す!
留まることをやめ、歩きだすことを選ぶ!
まずは旅の支度だ。
ホルスの村に行き、雑貨屋で保存食を買い込んだ。
ついでに、世話になった村のみんなと、お別れをした。
雑貨屋の猫人お姉さん、ララさんに
別れをつげると、
「まあ、君みたいな若い子が、あんな隠居生活するのは不自然だったからね〜
餞別にこれをあげよう」
本を渡された。
「ネコミミパラダイスって・・・・エロ本じゃねぇか!!いらないよ!!」
なんでこんなの持ってんだよ・・・・
「ジョウダンなのに〜〜〜。まあ気をつけてね。いつでも帰ってきていいからね。
いってらっしゃい。」
「・・・・・・いってきます。」
泣きそうになったのは、ナイショだ。
おっさんのベッドをずらしてみると、地下室への扉があった。
地下室の中で、反応灯つけ、周りを照らしてみた。
そこには、大量の武器と薬品などの、旅で必要なもののほとんどがあった。
武器、防具はどれも古そうなものばかりだ。
そんな中、奥に吊ってある黒いコートは真新しく見える。
コートには、手紙がくっついていた。
『これを見ているということは、歩きだすことを決めたんだな。
このコートは、特注でつくらせたものだ。エーテルの徹りがよく、
徹すことで防御用の場が、一時的に展開する。並の鎧より数段頑丈だ。
感謝しろよ!
もし、君が帰る方法を探そうとしたなら、まずはカスリアの首都ペルートに行け。
学術都市として栄えている。そこで異界人について調べるといい。
君は、まだ若い。立ち止まらず、進み続けろよ!』
なんか、おっさんに、思考をすべて読まれている気がするな・・・
この前の、薬品の買い物もこのためか・・・・
感謝しつつ、地下室にあった大きめのリュックに用意したものを詰める。
武器は、おっさんにもらった、日本刀『銀月華』と、予備にエーテルの徹しやすい大型ナイフを一本、
あとは投擲用のダガーを数本持った。
後は、食糧や調理道具、薬品、衣類を最小限詰め完成だ。
リュックを背負い、家を出て、気合いを入れる。
「うおっし!!行くか!!」
カスリアは、僕が今いるクランド王国の隣国に当たる。
目的地はきまった。
カスリア 首都ペルートへ
僕の旅だったその日は、偶然にも、この世界にに来てちょうど二年目にあたる日だった。