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異界の旅路  作者: Posuto
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第51話:戦争の気配

 

ラブリフ皇太子が、手に持っていた映像結晶を掲げる。

すると結晶から光が発し、それは徐々に人の形となった。


金髪の壮年の男性だ。

頭には王冠を乗せた威圧感のある人物だ。

男性は豪奢な椅子に掛けている。


男性がその口を開いた。


 「わが名はジグルト帝国皇帝ラークライル R ジグルトである。」


こいつが帝国の君主か・・・

やはり一国の君主だけあって声に重みがある。


 「これより我が国は、世界統一をめざし進軍する。我が覇道を阻むものは薙ぎ払い、焼き尽くす。傘下に加わるというならば我が国の属国として迎えよう。」


皇太子が言った通りこれは全世界に向けた宣戦布告だ。


その後、降伏の条件や、属国となるために帝国に納めなければならなくなる金銭や、鉱石などの資源の説明があった。


 「世界は我が手の内で一つとなる。各国の君主には賢明な判断を期待する。」


そう締めくくり、映像は途切れた。


 「これが各国の首脳に届けられた。ここにもついさっきな。」


ラブリフ皇太子は、映像結晶を手でもてあそびながら言った。


会議室の空気が重い。

みんな難しい顔をしている。


 「さすがに今このタイミングってのは予想できなったな・・・・。こっちにもくるだろうな・・・」


首領フォイスは白いひげを撫でながら言った。


 「そうですね、対策を考えないといけませんね。」


ラブリフ皇太子と首領フォイスが今後のことについて話し始めた。

その姿をぼーっと見ていると、セラがこそっと声をかけてきた。


 「おい、ユウ。さっきのイヴの件、言っといたほうがいいんじゃないか?」


 「あ・・・・そか」


そうだった。もともとその情報を伝えるために来たんだった。


 「あのー・・・・すんません」


控えめに挙手してみる。


 「ん・・・ユウ君。何かな?」


ラブリフ皇太子が気づいてくれた。

会議室の視線が集まる。


あんまり見ないでほしい。


 「えーと・・・イヴからの情報なんですが・・・あ、イヴというのはですね・・」


 「大丈夫だ。イヴの存在についてここにいる者は理解している」


ラブリフ皇太子が僕の言葉を止めた。

あれ?そうなの?

どうやって説明するかすごい悩んだのに・・・


 「君には話してなかったかな。ここザガルバフは亡霊騎士団設立当初から活動拠点として使われていてね」


 「はあ・・・・」


それなんか関係あるのか?


 「君の前の異界人、イヴの眷属は亡霊騎士団の創設メンバーで初代団長だ。あ、君の師である竜宮凶一郎も創設メンバーだよ」


 「へ・・・・?」


すごい重要なことを聞いた気がする。

イブの眷属ってたしか魔剣使いの野郎が僕のことをそう呼んでいた。


僕より前の異界人って、おっさんが前に話していた戦争で死んだっていう人か?


 「じゃあみなさんイヴのことをご存じなんですか?」


 「直接知ってるっていうのは、古参メンバーだけだけどね。で、彼女が何か言っていたのかな?」


 「はい・・・ええと、たぶんさっきの宣戦布告に関連してると思うんですけど、2週間後に魔物の大群がこのザガルバフを攻めると・・・」


僕が『魔物』と言った瞬間、会議室に緊張が走った。


 「まさか・・・ラファエロ機関が制御術式を完成させたのか!?」


ラブリフ皇太子が、愕然として言った。


 「早すぎる・・情報ではまだ数年かかるという話だったはず。」


 「だが、イヴがそう言ったんだ。おそらく間違いないだろ・・・」


僕の横で犬上レンとコウ シュラーが唸った。


 「制御術式っていうのは、まさか魔物の魔物操者コンダクターによる遠隔制御術式です?」


チコがラブリフ皇太子に聞いた。


 「そうだ。10年前から父上の命でラファェロ機関が研究中だった・・・くそっ・・まさかこんなに早く実戦投入してくるとは・・・・」


 「ペルートでの魔物事件は、試験運用だったわけですね・・・むぅ・・・たしかに核に接続術式を埋め込んで、事象変換線フェノメノンポールからエーテル変換・・・・詠唱杖キャストスタッフへ送れば・・・でもそうすると・・・同化拒絶が起きちゃうし・・・」


チコさんが専門用語でブツブツ言い始めた。

何のことかよくわからない。


しかし、あのカスロアの首都での戦闘が今回の試験運用だったとは・・・


そこでパァァァンと何かが破裂するかの音が響き、全員が音の方を向いた。

首領フォイスだ。

どうやら手をおもっきり打ち合わせたようだ。


 「ぐちぐち言ってる場合じゃねぇだろうが!2週間ってわかってんだ。迎え撃ってやろうじゃねぇか!おら、お前らちんたらしてねぇで戦の準備だ!あと念のため斥候を送って、帝国の情報を収集しろ!」


怒鳴り散らしながら、会議室にいた砂狼の部下に指示を飛ばしていく。


 「そこのドワーフの娘っこ!」


 「ぴゃい!?」


チコが急に呼ばれてびっくりしている。


 「おめぇ確かワイザーの孫だったな。こっち来い。魔物対策の計画を練る。そこの詠唱師キャスターの兄ちゃんもだ。」


 「は?お、おれも?」


アルもなぜか呼ばれた。


 「てめぇらのことは、ユウラからの連絡で聞いてる。優秀らしいじゃねぇか。はっちり役にたってもらうからな!」


 「「ひぃ!?」」


二人はそろって首領フォイスに引きずられて会議室を出ていった。


 「ははは・・・・首領の言うとおりだね。今は嘆くときじゃない。対策を立て、準備する。僕たちは負けるわけにはいかないからね。」


ラブリフ皇太子は強い意志を秘めた瞳で会議室を見回した。


 「みな各自最善を尽くしてくれ。準備にとりかかろう。」


そうだ。

僕は、僕達はここで立ち止まるわけにはいかない。



~~~~~~~



 「ここで何をしている?」


帝国首都

特務戦術部の訓練所


魔剣使いデュラハン ノルドラは、次の大規模戦闘のため訓練中だった。

そこに普段ここにいるはずのない人物が現れた。


 「あら、ごあいさつね。私がここに来たらおかしい?」


 「あたりまえだ。研究員のお前がなぜここに来る必要がある?」


カーラと呼ばれる竜宮天次郎お気に入りの研究員だ。

魔物の制御術式完成に一役買ったらしい。


いつもは白衣に眼鏡をかけ、長い金髪を邪魔にならないよう括っている姿だが、今は眼鏡をはずし、括っている髪もほどいている。

来ている服も動きやすいもので、訓練用の戦闘服だ。


 「私もザガルバフに行くことにしたから」


 「なに?」


 「制御術式のデータ収集と、龍族のデータ収集。あっちには銀龍がいるんでしょう?あんたたちに龍族を傷つけられちゃ困るもの。」


 「そんなに銀龍のことを調べたければ、銀龍の協力者に頼んだらいいだろう。ここに何人かいるはずだ。」


ザガルバフには、銀龍のローグのほか、数名が同行することになっている。

現在も銀龍の当主は帝国首都に滞在している。


 「だめよ。あの子じゃないとだめなのよ・・・」


一瞬カーラの顔に普段では見られない寂しさのようなものが見えた。


 「さて・・・私、しばらくデスクワークばっかりだったから体がなまってるのよね~。」


カーラはすぐにいつもの微笑に戻り、訓練所に立てかけられている武具類からレイピアを引き抜いた。


 「お相手してくれるかしら?」


微笑みとともにレイピアを構えた。


ぞっとした。

カーラが発した殺気に反応、瞬時に魔剣を呼び出し、臨戦態勢となる


やはり、この女隠していた。

そして、その殺気と剣を構える姿から思い出した。かつてエーテル技術開発で多大な功績をあげ、さらには武により帝国最強とまでいわれた女騎士。

帝国に仕官する前、傭兵として世界を回っているときに戦場で戦っている姿を見た。

金髪を靡かせ、敵を蹂躙する鬼神。


 「殲滅騎士ジェノサイダーセリア ランドグリフか!?」


 「あら?そんな昔の名前よく知ってるわね。その名前かわいくないから嫌いなの。」


セリアランドクリフが前進する。

訓練場から爆音と、エーテルの波動がはじけた。



  

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