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異界の旅路  作者: Posuto
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第48話:神の視界

 鉱山都市ザガルバフ。エレメント鉱石が多く産出される、世界有数の鉱山都市。

 砂狼族が治めるこの地は、帝国領内であるにも関わらず、自治都市として機能している。

 帝国が何故、自治を許すのかにはいくつか理由がある。


 1つは歴史的なもの。前大戦はこのザガルバフに帝国が進軍したことが引き金となった。

 2つ目は砂狼族のエレメント鉱石加工技術だ。ドワーフ並のその加工技術は、帝国にとって欠かせぬものであった。

 3つ目は、単純に帝国に攻め落とせなかっただけである。これまでの歴史上、ザガルバフは1度しか帝国にその領地に足を踏み入れさせていない。

それは、ザガルバフを覆う砂漠地帯とザガルバフ鉱山という天然の城塞があったからだ。

これは生半可な戦力では突破できない。


そう、生半可な戦力では・・・・



~~~~~~


 セラとルーリアは、訓練場が見渡せる休憩施設のテラスからユウとレンの訓練を見ていた。

この訓練も今日で3日目だ。


「もう3日目か・・・・あいつ大丈夫なのか・・?」


「あの様子ですと、むしろ体調がいいように見えますわね。」


 そうなのだ。

 ユウの訓練の様子を見ていると、扱うエーテルの量も増えているし、動きも以前より速くなっているように感じる。


 そのユウを圧倒しているレンという少女は、相当の使い手なのだろう。

 今もレンは何かをユウに投げつけているが、ユウは回避できていない。


ユウは訓練に励んでいる。体調も良い。何も文句はない

それでもセラは不満だった。

なぜかはよく自分でもわからないが、不満である。


「最近かまってくれないですものね、ユウ」


「べ、別にかまってほしいなんて思ってないぞ!」


「ふーん、そう」


そう言ってルーリアはクスクス笑った。

ぬぅ・・・・


確かにユウは最近訓練が多い。

そしてセラ自身も最近は、姉弟子であるミリス F.D. ガイエンから龍式拳殺術ドラゴニックアーツの訓練を受けている。

そのためここ数日は、挨拶ぐらいでちゃんと会話していない。


「ただ、話しておきたいことがあるだけだ」


ローグ。

ローグ S.D. ハイネル。

現在の銀龍宗主である私の叔父の右腕である男だ。

つまりは、銀龍一族が戦争を引き起こそうとしている者たちと、協力関係にあるということ。


「私の叔父は侵略派のトップだからな。協力していても不思議じゃない。」


「侵略派?どういう意味ですの?」


「龍族は基本的に他種族には干渉しないという考えの保守派と、そういった考えを捨てて、外へ侵略しようとする考えを持つ者たちがいる。侵略派はその名の通り後者にあたる。」


「ふーん・・・どこの世界にも過激な人はいるんですのね」


そして、侵略派の者たちにとって私は邪魔な存在だ。

前銀龍宗主の娘であり、そして保守派の最大権力である現金龍宗主の息子ピート G.D. レイールと婚約関係にある。


「は?こ、婚約?なんですの、それは?」


ルーリアは唖然としている。


「政略結婚というやつだ。銀龍の厄介者でも金龍と縁戚関係を結べれば役に立つとでも思われたんだろ」


「そんな知らない人との結婚、わたくしが許しませんわよ!!」


ルーリアは真っ赤になって怒っている。心配してくれているのは分かるので嬉しいのだが・・・


「な、なんだ急に?君は私の親か?」


「従姉ですわ!!」


いや、それはわかっているが。

それに別に知らない相手というわけではない。

ピートは私の数少ない友人の一人である。悪い奴ではない。


「じゃあ結婚してもいいと思っているんですの?」


「いや、そもそも私は龍族の国から逃げ出してきたんだ。もう関係ないさ」


とにかくこの戦いに龍族がかかわっているなら、同じ龍族として止めなければならないと思う。

母を見つけ、父上の遺言を渡すという旅の目的に一つやるべきことが増えた。


私がローグを、叔父上の暴走を止める。

きっともういない父上もそれを望むはずだから。



~~~~~~


見ろ、観ろ、視ろ。

もっとよくミロ。


「視て覚えろ」


訓練の時、よくおっさんに言われた。

あれはどういう意図があったのか・・・・



~~~~~~


棒手裏剣というものがある。

簡単に言うと先の尖った金属の棒だ。


これは投げれれる方から見るとかなり厄介である。

投げられる方から見ると、飛んでくる棒手裏剣はただの点にしか見えない。


避けるにしても、叩き落とすにしてもかなり技術が必要となる。


その上・・・


ヒュッ


黒い点が接近する。

首をひねる。頬を浅く裂き、棒手裏剣が通過した。


続けて左足を狙うもう一本。

それを回避すべく左足をひく。


回避・・・したはずの棒手裏剣か左太股に突き刺さった。


「ガッ・・・・・!?」


『錯線』だ。

予測錯誤により、避けたと勘違いさせられた。

ただでさえ避けにくい棒手裏剣に『錯線』まで使われると、もうどうにもできない。


訓練はレンの投擲する手裏剣を、叩き落とすか回避、後に接近しレンに一撃を加える、というものだ。


レンは無表情に次々と棒手裏剣を投擲する。

その一つ一つに『錯線』が使われており、軌道、速度が読みきれない。


左足の痛覚をエーテルの身体機能操作によって抑え込み、次の一本を見る。

捉えていたはずの棒手裏剣が掻き消えた。


「グアッ・・・・・」


次は右肩に突き刺さった。


もうすでに僕の体から5本の棒が生えている。

たまらず片膝をついた。


「つぅ・・・・いてぇ・・・」


「もう終わり?」


いつの間にか近くまで来ていたレンに言われた。

突き刺さった棒手裏剣を無理やり引き抜く。


「ぐっ・・・・・だぁっ!!」


痛覚を抑え込んでいてもこの感触は気持ち悪い。

カランと音を立てて血がついた棒手裏剣が地面に落ちる


「くそっ・・・・ぜんぜん見えない。見て覚えるなんて無理だぞ・・・・なぁレン、なんかコツとかないの?」


「ないことはない。でも教えない。」


えー!?

なんで?教えてよ!!

もう訓練3日目だが、この技を少しも見切ることができない。

レンの投げる棒手裏剣も5本中1本避けられればいい方だ。


「凶一郎がダメって言ってた」


あ・の・お・や・じぃーーーーー

どんだけ嫌がらせなんだ!!


「ユウ、あなたならできるはず」


「そんな断言されてもなぁー」


「あなたは凶一郎の弟子。だったら同じ特性をもっているはず。これは『錯線』を覚えるだけの訓練ではない。この訓練の意味をもっと考えて」


え?

どういう意味だ。特性?

訓練の意味?

わからない・・・・僕にはレンが何を言いたいのか分からない。


「そろそろ本気をだす。次は殺す気でやるから」


え・・・?

本気ですか?


レンは体をぐっ縮めて唸り声をあげる。

短めの黒髪が逆立ち、爪が伸び、犬歯が若干伸びる。


「グゥゥゥ・・・・・・ガアッ!!」


人狼化だ。

男性型は完全な人狼になるが、女性型は変化はそんなにないが身体能力が飛躍的に上がる。


「この状態では手加減はできないから」


その目は本気だった。


レンが目の前から掻き消えた。


気づいた時には、僕から10メートルほど離れた地点にいる。


「『錯線』と『韋駄天』の複合技、『不知火』。これができるようになれば、まずは合格」


これか!!

おっさんがいつも使っていた移動術は!!

高速移動術『韋駄天』を『錯線』でさらに予測錯誤させて、まるで魔法のように移動する。


僕はもっと強くならないといけない。

あいつに、あの魔剣使いに負けないように



~~~~~~



ドンッ!!


レンの人狼化した状態での蹴りがユウのわき腹に直撃した。


「グゴッ・・・・・!?」


ユウは10メートルほど吹き飛び、地面を転がる。

レンは追撃する。


転がっているユウを蹴り上げ、浮かす。

同時に自身も跳ぶ


鳳流忍体術 『旋風つむじ


体のひねりを利かせての連脚。

レンはコマのように回転しつつ蹴りを放つ。


ユウはなんとか防御はしているが・・・・


(まだ見切れていないみたい)


レンは攻撃を止めることなく思考した。

攻撃のいくつかに『錯線』を用いている。


まだ二人とも空中にいる。


ユウが反撃に刀を振り上げている。

その振りよりも速く、左腕をとり関節を決め、背負い投げに入る。


鳳流忍体術 『迅雷』


脳天から地面に叩き落とす。


バカッ!!


地面が陥没し、土煙が上がる。


「ゲ・・・・・ア・・・・」


ユウは頭部からおびただしい量の血を流している。

意識が飛びかけているため、目が虚ろだ。


まだ、まだ足りない。

もっと、もっと傷めつけなければ・・・


~~~~~~


ミリス F.D. ガイエンはセラを探して街中を歩いていた。

もうすぐ訓練の時間だ。


ミリスの姿はいつも通りメイド姿。

ザガルバフの人々にはあまり馴染みのない衣装なので、不思議そうに見ている者が何人もいる。

ミリスはその視線ををものともしていないが・・・・


セラのエーテルの匂いをたどってくると訓練場付近の休憩施設にたどりついた。


休憩施設の中はひんやりとしており、訓練を助けるために飲み物などがある。

中には管理者である男性が一人いたが、部屋の端っこでうずくまっている。


テラスの方からビリビリとエーテルの波動を感じる。

戦闘状態に近い圧力を感じるエーテルだ。

どうやら先ほどの男はこの圧にまいってしまっているようだ。


「ちょっと、セラ!落ち着きなさい!」


「何故止める!?あれは訓練といえどやりすぎだ!!」


焦りの声と怒りの声。


テラスに出てみるとセラがテラスの柵握りつぶし今にも飛び出していそうな状態であった。

ルーリアは止めるようにセラの服をつかんでいる。


訓練場を見るとレンに異界人がボコボコにされている。

レンの攻撃は時々、霞んで見える。


おそらく鳳流忍体術の秘伝『錯線』を使っている。

並みの者には見切れない。


異界人も見切れていない。今のところは・・・


異界人は順応性が極めて高いことは、以前の異界人を見て知っている。


前回の異界人であった彼女は、その順応性からあらゆる技、秘伝や奥義と呼ばれているものであっても教えられればすべて会得した。


そして最強と呼ばれていた竜宮凶一郎を唯一打ち負かした。

すさまじいカリスマを持って亡霊騎士団ファントムナイツ初代団長となった。


彼女のことがあるから凶一郎は、この異界人をかわいがっているのだろう。

自分の技を教え、戦いから遠ざけようとしたのだろう。

彼女の死は凶一郎のトラウマになっているはずだから。


今はそのことはいい。セラを止めるためミリスは背後からセラの膝裏を蹴った。


「うわっ!?」


いきなりの衝撃でセラは尻もちをついた。


「お嬢様、訓練の時間です」


こかしたことなど無かったかのようにミリスは声をかける。


「な、何だミリスか・・・・・ってそんなことよりも・・・」


「そんなことですか?私との訓練がそんなこと・・・・私は悲しい」


「そんな無表情で悲しいと言われても、信じられん。とにかく今はこの訓練をとめないと・・」


「お嬢様」


ミリスの少し口調が強くなった。


「な、なんだ?」


「お嬢様は知らないのです。異界人の怖さを・・・。ほら」


ミリスが訓練場を指差す。

セラは大慌てで立ち上がる。


「あ・・・・」


~~~~~~


頭が痛い。

さっきの投げ技が効いた。


レンの打撃と爪による斬撃で軽装甲服はところどころ破れ、ぼろぼろだ。

装甲板も吹き飛んでしまっている。


どうにか転がって距離をとる。


「ハァ・・・・・ハァ・・・・グェ・・・・」


息が苦しい。

体中が痛い。

右手の刀が重い。

頭部からの血が流れて右目が見えにくい。


ダメだ・・・まったく見切れない。


『錯線』を見切ることができない。


レンの姿がまた掻き消えた。


『不知火』だ。


すでに刀の間合いの内側。

人狼化によって強化された膂力による掌底が腹部に叩きこまれる。


「グフッ!?」


分かっている。くるのは分かっているのに捌けない。

たまらず膝をつくと、顎めがけて蹴りが来た。


ガッ!!


脳が揺れる。

体が中に浮く。

地面に仰向けに倒れた。

もう・・・動けない。


レンは空中で一回転し踵を斧のように振り下ろそうとしている。


ああ・・・ダメなのか。

結局僕は何もできない。セラのお母さんを見つけることも、元の世界に帰ることも・・


『見ろ』


おっさんの言葉。どういうことなんだよ・・・

最後までその意味が分から・・・・


あ?


エーテルの流れ。それはすべての力の流れ。

意志の流れ。

エーテルの粒子一つ一つにあらゆるものが詰まっている。


見る。


レンの体内のエーテル。技を使うために体内で練り上げられたエーテル。その流れ。


ああ・・・そうか。僕は知っている。この世界に来てはじめのころは、この流れを見ていた。

いつの間にか忘れていた・・・


だがまだ足りない。これではだめだ。

もっとだもっと深いところまで。

この技の意味、この技の生み出された意味、生み出したものの魂の内側すら視通す。


『錯線』とはすなわち、惑わしの術。

見切らせない。必ず殺す。必殺の心得。鳳忍軍秘伝体術。

鳳朱雀おおとりすざくによって編み出された不可視の技。


そうか、そうなんだ。

知った。僕は知ったぞ!!!!!!!!!!!!!!!!!


そうかこれが『技喰らい』

おっさんの見ている世界。


神の視界


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