第47話:新たな力へ
うちのパーティナンバーワン大食いセラとためを張るくらいの飯を食った。
「なかなかやるな、ユウ」
「もう食えません・・・・」
濃い味付けの肉料理が多く、かなり満足できた。
セラはまだまだいける様子だが、目の前には10枚以上の皿が積まれている。
僕はもう満腹だ
皇太子は僕らから離れたところで護衛であるひげの強面のおじさんと僕のボンクラ師匠とで、なにやら真剣な表情で密談している。
食後の休憩の間、ルーリアからこれまでのいきさつを聞いた。
「ふーん、亡霊騎士団のメンツがねぇ・・・・世の中狭いもんだなー。セラの師匠やら、ルーリアの親父さん、僕の師匠とかつながりがあったんだなー・・・」
思わず感心してしまう。
これは偶然なのか、それとも何かの導きなのか・・・・
そんなことを考え、ぼっーっと椅子に座っていると
「あーっ!!」
という叫び声が食堂の入口から聞こえた。
入口には小柄な少女と軽装の男前が立っていた。
チコとアルだ。
「ユーーーウさーーーーーーーん!」
チコが助走をつけて僕の胸に飛び込んで・・・いや、腹にヘッドバッドをかました。
「ごふぅ・・・・チコ・・・中身が出ちゃうよ」
さっき食ったものが全部出そうだった
「ご無事でなによりですぅ・・・じんばいじだんでじゅよ~」
最後のほうは、涙と鼻水でぐちゅぐちゅになりつつ言ったので、めちゃくちゃだ。
チコの後をアルがゆっくりと歩いて近づいてきた。
「よっ・・・無事で何より」
「ああ・・・悪い。心配掛けたな」
「別に俺は心配してねーよ」
またまたー心配してたくせにー
「してねーよ!!」
まるでツンデレのようである。男がしてもキモイだけ
二人とも無事でよかった。
ふと何か後ろに気配を感じたような気がする
「ん?・・・・うわあ!?」
後ろにはいつの間にか小柄な少女が立っていた。
背丈はチコよりはあるが、中学生程度の年齢にしか見えない。
和風な服装、いわゆる忍び装束的なものを着ている。
そして目を引くのが、短めの黒髪の中にある耳だ。
犬耳?どうやら人狼族のようだ。
しかし、こんな近くまでこられるまで気づかなかったのは驚きだ。
気配の消し方が尋常ではない。
「こんにちは」
小さな声であいさつされた。
「はぁ・・・こんにちは」
「犬上 レン」
「ん・・・?あ、名前ね。僕はユウ、よろしく」
「ん」
な、なんだこのなつかない猫みたいな少女は
いや、人狼だからなつかない狼?
「あ、レンさん。ユウさんにあいさつにきたんです?」
僕の服でしっかりと涙と鼻水を拭いたチコがいった。
後で着替えよ・・・
チコの言葉にコクコクとレンがうなずいた
「ユウさん。レンさんが私達を助けてくれたんです!!」
へぇー・・・こんな小さな子が・・
「そっか。ありがとうな。僕の仲間、助けてくれて」
そう言いつつ、頭をなでてみる。
さらさらとした髪の感触が気持ちいい。
レンは一切表情に変化を起こしていないので、どう感じているのかわからない。
怒ってるの?
「ユウさん、レンさんは喜んでます」
チコがそう言ってレンの後ろを指差した。
黒い毛のふさふさ尻尾がパタパタと揺れている。
家の近所に住んでいた友人の飼い犬を思い出した。
あー喜んでるときこんな感じだったかな。
「よう、レン来たか」
「うん、来た」
それまで皇太子やらと話していたおっさんがレンを見つけ声をかけた。
「来たってなんか約束してたの?」
「ああ、まあな。ユウ着替えて、外に出ろ」
「へ?着替えるって」
「模擬戦をする。準備しろ。お前にイイこと教えてやる」
おっさんはにやりと笑った。
この2年間何度も見た、師匠としての顔だ。
~~~~~~
「ちょっと、ちょっと・・・ユウさんは病み上がりですよ~」
「異界人に病み上がりもクソもあるか。あいつだってそうだったろうが。それに時間がない。」
むーっとノーラさんは不満そうに黙りこんだ。
ここは鉱山都市ザガルバフの一角、訓練場だ。
この都市の砂狼族の戦士たちが訓練を行う場所だ。
砂を武器とする砂狼族のため、訓練場は砂地と岩場が多い。
いきなりの模擬戦ということで、僕を看護していたノーラさんが異議を訴えたのだが、おっさんにあっさりと却下されていた。
あいつって誰だろ?
と思いつつ、自分の装備を再確認する。
戦闘用の黒い軽装甲服と左腰に刀『銀月華』、太ももに付けてある革製ホルダーには投擲用のダガー。
手にはエーテルを状態変換する簡易詠唱杖搭載の格闘グローブ。
すべてチコお手製の一点物だ。
おっさんがこちらを向き、厳しい口調で言う
「ユウ、今回はレンとやってもらう。手加減はなしだ。なめた態度でやってると、一瞬で終わるぞ。」
「はーい。あのさ、模擬戦構わないんだけど、なんでこんなにいきなりなんだ?」
「さっき言ったろ。時間がない。また俺は出張だ。」
出張?
どっかいくのか?
「まあな。そんなわけだから、急ぎでいろいろ教えてやる。」
それはありがたい。
相手はレンか・・・・僕はレンが戦っているところを直接見たことがない。
多少、チコから聞いたがあまり参考にならなかった。
だって・・・
「ヒュってあらわれて、シュパパパパっと攻撃して、ビュババと戦ってましたです!」
・・・・・・うん、わからない。
でも必死で説明する姿がかわいかったので許す!!
レンはいわゆる忍び装束的な服装で、腰の後ろに忍者刀をつけている。
忍びと呼ばれていることと、パッと見ての武装から、完全なスピード型。
手数と意表をつく攻撃で攻めてくるはず。
「準備はいいか」
「いつでも」
「うん」
僕は腰を落とし、刀の柄に手を置く。
対してレンはそのまま直立態勢で構えるそぶりを見せない。
相手の手の内が読めない以上、様子を見たほうがいいかもしれないが、腹の内を読み合うのは嫌いだ。
先手をうつ!!
「それでは・・・・・・はじめ!!」
居合の要領で突進攻撃をしかけ・・・・・!?
ギインッ!!
ヒヤリとした。
とっさに刀を抜く動作を中断し、納刀状態のままの刀で首筋に向かうはずだった刃を受け止めた。
速い!?
尋常じゃない。
受け止めた勢いで後退しつつ抜刀。
また背筋が凍るような感覚。
なんだ!?
すでに振り上げられているレンの忍者刀を受け止める。
「くっ・・・・なんだ!?」
さっきからレンの動きは速いだけじゃない。いつの間にかレンが移動している。
捉えきれていないわけじゃない。
何と言えばいいのか・・・まるで何かずらされている様な感覚。
何合か打ち合い、レンがこちらの攻撃を受け止めた勢いを利用して後ろに下がる。
この打ち合いの間にも、何度かヒヤリとする攻撃があった。
「どうだユウ。なんか気になることでもあるか」
「いや、なんか、わからんけど・・・・」
おっさんの質問に要領を得ない返答をしてしまう。
「何度か気づかないうちに、攻撃されてただろ?」
そうだ。気づいたらレンの忍者刀が迫ってきているので、何度かビックリした。
「これはな、『錯線』って技だ。簡単に言うとタイミングを故意にずらすだけなんだけどな。」
タイミングをずらす?
どういうこと?
「お前に限らず、人間だれしも相手の動きを予測して動いている。この腕の振りならこれぐらいの速度でパンチが来る、この歩幅ならこれぐらいの速さで近づいてくる、ってな感じでな。これは己が意識するまでもなく行っているものだ。だから、そのタイミングをずらすとどうなる?」
予測がはずれる。
なるほど。
「ユウ、今日からお前はレンに毎日この『錯線』を見せてもらえ。そしてできるようになれ」
「えーっと見るだけでか・・・できるかなぁ・・・・おっさんが教えたかった技ってこれのこと?」
「ん?あー、まあ、これはついでだ。」
ついで?どういうこと?
「レン。んじゃあ、悪いが頼んだぞ。」
「ん。頼まれた」
そしておっさんはふらっと訓練場から出て行った。
こうして、訓練が始まった。