第46話:目覚め
「ショボーン・・・・・・」
「ユーウ、そろそろ立ち直ったらー?」
「ズーン・・・・」
「はぁ・・・・そんなにショックなの?」
精神世界の白い空間。
僕は白い空間に座りこんでいじけている。
イヴが僕の隣にいる。
「そりゃあまあ・・・・あんなにおもっきり負けるとは思わなかったしなー」
「仕方ないよ。状況が悪かったし、相手が強すぎたね」
まあ、確かに。
おっさんを抜けば、あそこまで強い相手に出会ったのは初めてだ。
セラ達のことが気になって勝負を急ぎすぎたし、技量の差は歴然だった。
経験もおそらくデュラハンの方がずっとあっただろう。
「まあ、落ち込んでても仕方ない。次はどうにかする!!」
「そうそう!!その意気!!へこたれたらだめよー。それに、ユウの体はバージョンアップされてるから次はもっと楽になるよ」
ん?
バージョンアップ?
「ユウの体は『昇華』をすればするほどユウの体内エーテル『異界』に適応していくんだよ」
それでバージョンアップってことか。
そういえば、初めて『昇華』を使った頃ぐらいからエーテル出力が上がった気がしてたけどそういうことか・・・・
「さあさあ、ユウ。起きて、次に備えなさい。今回は助かったけど、次はうまくいくか分からないんだから。」
おっしゃる通り。
じゃあ起きるぞ!!
〜〜〜〜〜〜
目を開けると、扇風機のようなものが見えた。
天井に空調用のファンが見える。
右側に視界を移動させると、窓からさんさんと輝く太陽が見える。
暑いな・・・・・
「んっ・・・・」
起き上がると、左側のベッドの横にある椅子に誰かがいた。
「・・・・・いたのか」
「・・・おっさんはそんなに存在感がないかね?」
しょんぼりした様子のおっさんがそこにいた。
約二か月ぶりか?
久しぶりにみたが、相変わらずのうさんくさい中年おやじっぷりだ。
「体はどうよ?」
「ん?なんか倒れる前より快調な気がする」
イヴの言ってたバージョンアップかな?
体の調子がいい。
「どれぐらい寝てた?」
「結構。だいたい一週間ぐらいか・・・・まあ、無事で何よりだ」
「うん・・・・・あっ!うちの仲間は無事か?」
「ああ。亡霊騎士団が救助した。安心しろ」
「そうか・・・・よかった・・・」
ホッとした。
そしてしばらくの間、沈黙が続く。
「なあ、おっさん。なんで勝手に出て行ったんだよ?」
ずっと聞きたかったことだ。
「んん・・・・・この戦いにお前は関わるべきじゃないと思ったからさ」
渋い顔をしておっさんが言った。
「この戦い・・・?」
「そう。俺と天次郎の兄弟喧嘩にだ」
兄弟喧嘩って・・・・
まあ、敵の総大将がおっさんの弟らしいから、そう言えなくもない。
それなら事情を話して、一緒に連れて行ってくれればよかったのに・・・
「怒るなよー。カスロアは中立だから大丈夫だと思ったんだけどなー。ユウラの奴に乗せられて、こんなとこまでノコノコと・・・お前はあの村でなにも知らず生きていくことが幸せだったろうに。」
少し不満そうな顔をして言った。
おっさんがそんな顔してもキモイだけだぞー
「別に乗せられたわけじゃないけどな。戦争を止めるって言うから協力しようと思っただけだよ」
「どうしてそこまでする?お前にとってこの世界は、異郷の地だ。戦争なんかにかかわる必要がないだろう?」
「まあそうなんだけどね・・・・・この世界のことは結構気に入ってるし、大切な人たちがいる。それが理由じゃダメかな?」
おっさんは黙りこんだ。
そしてため息をつく。
「はぁ・・・・・お前もあいつと同じこと言うんだな・・・・」
何か言ったようだが、僕には聞き取れなかった。
「ん?何か言った?」
「いいや!そういえばお前、あそこまでの相手と戦ったのは初めてか?」
強引に話題を変えて来たな・・・・
なんだ、急に?
相手と言うのは先日のデュラハンのことだろう。
「まあね。惨敗だった」
「敗因は何だと思う?」
敗因か・・・・やっぱり勝負を急ぎすぎたことかな?
「バーカ。もっと他にもあるだろ」
イラッ
久しぶりにこのくそオヤジにバカにされたな
「他か・・・・技量とか、経験とか?」
「そんなもん当たり前だろ。お前が逃げられない状況を作り、なおかつ精神的に追い込むことで有利な立場にたつ。ここまでされたら戦闘経験の浅いお前じゃ敵わんのは、当たり前だ。それじゃなくて他にあるだろー」
相変わらずムカツク物言いだ。
それにしても、何だろ?
「お前、体内エーテルが増幅するとかいう『昇華』ってやつを使ったろ?」
「うん。使ったけど・・・・それがどうしたの?」
昇華のことまで知ってんのか、この人・・・
「んで、調子に乗っていつもは使わないような大技を使ったりしただろ?」
「ぬ・・・・・そんなのなんで分かるんだよ?」
あまりにも言われた通りなので、反発したくなる。
「んなもん戦闘痕を見たらわかる。『韋駄天』とか『陽炎陣』とか無駄に連発しただろ」
ぐっと詰まってしまった。
確かに『昇華』によって増幅されたエーテルを用いて、大技を使った。
「エーテルの増幅ってのは便利だが、増幅されたエーテルをお前は扱いきれてない。だから、技にキレが無くなるんだ。エーテルに振り回されて、技の本来の姿を逸脱している。いつも言ってるだろー。技は適切な場で、適切な時に出せって」
全くその通りだ、と感じた。
あの時のことを思い出し、実感する。
「使うなと言ってるんじゃないぞ。使いこなせと言ってるんだ。じゃないと次、奴に会った時に勝てんぞ」
「はい・・・・・・って、あれ、次?デュラハン生きてるのか?」
「生きてるけど、なんで?」
いやそりゃ、あんたがここにいるんだから
「いや、てっきりおっさんが始末したもんだと」
「いやいや、お前がリベンジするために逃がしたんだぜ」
おっさんは感謝しろって感じで胸を張った。
その言葉に違和感を覚えた。
おっさんってそんな気遣いをするタイプだったか?
殺すと決めたらばっちり殺すタイプだ
疑いの目でおっさんを見る。
じーーーーーー
「な、なんだよその目は?」
「で・・・・本当は?」
「あー・・・・ほんとはちょっと殺しきれなかったというか・・・・先に武器壊されちゃって、マズイなーと思って、『お前は殺さない、感謝しな、キラーン』とかハッタリかけたら逃げてくれた」
なんじゃそら。
「いや、だって魔剣を五本持ってる奴相手に、素手はちょっとキツイでしょ?」
いや、聞かれても。
実はやればできたんじゃないの?
「できなくはないけど、しんどいだろー」
え・・・・できんのか・・・・このおっさんほんとキモイな。
「あれ、すごーいとか、さすがーとかないの?ほめてほめてー」
おいまじでキモイぞ中年オヤジ。
〜〜〜〜〜〜
コンコンとノックの音。
「どーぞー」
僕が返事をすると、女の人が入って来た。
大きくて白い翼を背中に持つ、金髪の女性だ。
金髪は腰のあたりまであり、さながらほんとの天使のようだ。
たしか、大陸の西側に多くいる有翼人という種族だ
僕の視線に気がつくと、ニコニコと笑顔になり近づいてきた。
「よかったー。もう起きられるんですね〜」
誰だろこの人?
それにしても・・・・・
僕の視線は女性のある一部分で固定された。
胸だ。とても、すばらしい大きさ・・・・巨いや爆・・・
歩くたびに揺れる光景は、すばら・・・・はっ!?
横を見るとおっさんも僕と同じとこを見ている。
いかん!こんなエロオヤジと同じ行動をしていては!
視線を強引に外す
有翼人は背中に大きな羽がある。
そのため服装は、背中が開いていて、首からつりさげるような服を着ている。
その服装が女性のスタイルの良さを強調している。
接近してきたことで思わず
「でけぇ・・・・・」
「はい?」
「いえっ!!なんでもありません!!」
おもわず口に出てしまった。
おっさんを見ると、こちらを見てニヤニヤしている。
くっ・・・・何となく負けた気分だ。
で、このスタイル抜群の女性は誰だ?
「自己紹介がまだでしたねー。私、ノーラ ローランと申します。よろしくー」
若干、間延びした口調で自己紹介された。
「は、はいよろしく・・・ユウです」
にこやかに手を差し出してきたので、握手する。
しっとりとした柔らかい手だった。
「ユウ、その人に感謝しとけよ。お前の治療はノーラが行った。お前が生きてられんのもこの人のおかげだ」
「おーげさですよー、凶さん」
「ほんっとに、ありがとうございました!!」
ベットの上で土下座してみた。
「そこまでしなくていーですよ~」
あわてた姿がまたかわいらしい。
ノーラさんは診察を始める。
空中に魔方陣が出現し、僕の体を精査しているようだ。
ノーラさんは医者なのかな?
「んー、本職は違うけどねー」
「本職?」
「うん。本職は空戦詠唱師ってのかな」
空戦・・・・まあ、有翼人だから当然か
それにしても、その大きな胸は空戦には邪魔ではないですか?その・・空力的な問題で
と疑問を持ったが、当然口には出さない。
「うん。ばっちり健康体だねー。さすが異界人。回復が早いねー。もう歩くこともできる?」
僕はベットから降りてみる。
ちょっとふらついたが、特に異常は感じられない。
むしろ快調だ。体が軽い。
今はとにかく腹が減った。
何か食いたいな。
「それじゃあ食堂に行こー。たぶんセラちゃんたちもいるはずだから」
というわけで食堂へと向かうこととなった。
〜〜〜〜〜〜
おっさんを伴って食堂に来た。
食堂は、南国の雰囲気を感じさせる天井の大型扇風機が見える広い空間だった。
食欲を誘ういい匂いがする。
人はまばらだが、奥が少し騒がしい。
「ルーリア!デートはどこに行きたいんだい?」
「私は行くとは、一言も言ってません!!そもそも今、食事中です。静かにしてください殿下」
「じゃあ、セラちゃん!!僕と一緒に楽しい観光でもどうだい?長いことここにいるから、案内できるよ!」
「・・・・仮にも狙われてる身なんですから、じっとしていてください」
セラとルーリア、そしてさっきからやたらと二人に声をかけている男がテーブルを囲んでいる。
なんだあのチャラい系の男は・・・
まあ声かけてみよ。
「セラ、ルーリア、おはよー・・・っておはようは変か?こんにちは?今何時だ」
セラとルーリアがこちらを向いて固まった。
あれ?どうした?
そして、急に椅子を吹き飛ばす勢いで二人同時に立ち上がり、こちらにダッシュで近づいてきた。
「もう大丈夫なのか!?」
「もう大丈夫なんですの!?」
わぁ・・・そんなに驚かなくても。
近い近い・・・
「まあ驚くのも、無理ないわな。お前一週間ぶっ倒れてたんだからな。」
驚いている僕の隣で、けらけら笑いながらおっさんが言った。
体が快調すぎて忘れてたけど、そーいえば一週間も倒れてたんだ
「まったく・・・けろっとした顔で出てきて・・・心配したんだぞ・・・このボケ、あほ、女の敵」
セラが若干涙声で言った。
この際暴言は聞き流す・・・・・お、女の敵?
「あー・・・ごめん。心配掛けた」
「うるさい、ボケ・・・・」
目元を服の裾でゴシゴシしながらセラが言った。
涙ぐんでしまったことが恥ずかしかったようだ。
「やあ、君がユウ君だね。」
急に話しに入ってきたチャライ系。
「えーと・・・どちらさま?」
「よくぞ聞いてくれた!!ここしばらくの逃亡生活で自己紹介する機会がなくなって、残念に思っていたところなんだ!!僕はこの大陸で最も美しく、最も高貴な存在であり、・・・・」
意味のわからん華麗な身振り手振りで動き回るチャラ男
「この方はシグルド帝国皇太子ラブリフ R シグルド殿下になります」
ルーリアがチャラ男の自己紹介をぶっちぎって言った。
「ひどい!ルーリア、私の楽しみを奪うなんてひどい」
わぁー・・・・テンション高いなこの人。
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皇太子がなんでこんなところにいるの?という当然の疑問に
「亡命中だからだよ。今や帝国は龍宮天次郎と、彼の傀儡となった父上が支配しているからね。僕の居場所は無かったのさ。だから今は亡霊騎士団やこの都市の人々に助けてもらっている。」
皇太子は特に悲観する様子もなく言った。
この人は見かけ以上に多くの苦難をくぐりぬけてきているのだろう。
「わりぃな・・・・皇太子のぼっちゃん。俺の弟が迷惑かける」
おっさんが申し訳なさそうに言った。
「そんな顔しないでくれ、凶一郎。いや、今はガウス ランドールと名乗っているんだったか。僕はそれほど悲観していないよ。ガウス、君やここにいるセラやルーリア、それに異界の戦鬼たる彼が僕の味方となってくれている。その事実だけで大きな希望が持てるさ」
そう言って穏やかな表情でおっさんを見、僕を見た。
その姿はさっきまで騒いでいたチャラ男とは別人のようだ。
「改めて、よろしく。異界の戦鬼よ。君の存在は大きな希望だ。」
そう言って手を差し出した。
「そこまで期待されても困るんだけど・・・・まあ戦争を止めるのには協力するさ」
あまりにも期待されるその言葉に恥ずかしくなり、ぶっきらぼうな口調で言ってしまった。
「それで充分だ」
そして、しっかりと握手を交わした。