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異界の旅路  作者: Posuto
44/53

第43話:亡霊騎士団

ゴオッ!!


という音が鳴るほどの強烈な炎が、セラの目の前に現れた。

そして、ローグの龍声ドラゴンヴォイスとぶつかり合った。


炎がはじけ飛び、衝撃を相殺した。


一瞬、本当にユウが助けてくれたのだと思った。

だが、違う・・・・・この炎は・・・


 「誰だ・・・そこにいるのは・・・」


ローグの声が木々の間に響く。

林の奥からこちらに歩いてくる影がある。


誰なんだ?なぜ私を・・・・・・えっ!?

見覚えがあった。

と言うより、知り合いだ。


奥から現れたのは、給仕服にヘッドドレスというメイド姿。

そして炎のような赤毛。


ミリス F.D. ガイエン

私が監禁生活を送っていた時の世話係だった人だ。


どうしてここに?

それに何でメイドの格好のままなんだ?

そーいえば、私はミリスのメイドの格好以外見たことがない。


 「お久しぶりです。お嬢様。」


恭しく礼をする。

こんな時だというのに、いつものようにやたら丁寧なふるまい。

相変わらずだ。


突然の再開に驚きを隠せない。


 「君は確か・・・・ガイエン先生の娘さんだったか・・・・お久しぶりです。」


私同様驚いた様子のローグ言う。

ガイエン先生とは、私とローグの龍式拳殺術ドラゴニックアーツの師でありミリスの父ジョフ F.D. ガイエンのことだ。


 「ええ、お久しぶりです。ローグ様。バカな父がお世話になっております。」


「バカな」の部分に力を入れて言った。

ジョフは優秀な格闘家で、炎龍としては破格の強さを持つ。

龍族内部での地位も高い。

だがその性格は大雑把だ。

良く言えばユーモアのあるおじさん、悪く言えばバカ丸出しのエロ親父である。

真面目でいつも冷静なミリスとは、まるで正反対の性格だ。

そのためミリスはジョフの行動でよく怒っている。


それにしても、どうしていきなり現れたんだ?


 「お嬢様、私は助けに参ったのです。」


 「えっと、ありがとう・・・・」


??

助けてくれたのはありがたいが、疑問の方が大きい。


 「それは私と戦うということかな、ミリスさん?」


 「そうなりますね。」


 「あなたに戦う理由があるとは思えませんが・・・」


そうだ。私を助けることにミリスが得をすることなんてないはず。

ミリスは私の世話係だったにすぎない。


 「ガイエン家は、ライノス家に大きな恩があります。銀龍の政権争いにお嬢様が巻き込まれることを、先代ライノス家当主は望んでいなかった。それに、私は亡霊騎士団ファントムナイツの一員です。あなたを倒すには十分理由があります。」


え・・・・ミリスが亡霊騎士団!?

そーいえば、ミリスとジョフは戦争に参加したとか聞いたことがある。


それにしても銀龍の政権争いか・・・・・

それで狙われていたわけか・・・・。


ミリスの言葉にローグは構えた。


 「わかりました、相手をしましょう。ですが、いくらガイエン先生の御令嬢であっても私にかなうとは思えませんが?」


ミリスは直立姿勢で動じた様子がない。

確かにその通りだ。

銀龍でもトップクラスの実力を持つローグ。

ミリスは確かに強い。龍式拳殺術の使い手としては高レベル。


だが、ローグにはそれの上を行く龍式拳殺術と『対消滅アンチヴォイス』がある。

分が悪い。

私も加勢すれば何とかなる!


そう思い立ち上がろうとするが、力が入らない。

まだローグに当てられた内部破壊技の余波が残っている。


 「ミリス・・・私も」


 「お嬢様はそこでじっとしていてください。お任せを。」


だが・・・・

ミリスは焦っている様子がまるでない。


 「ローグ。私があなたにかなわない分かっています。私ひとりならですが。」


!?

ローグがいきなり横っ飛びで動いた。


ドゴンッ!!


ローグが先ほどまでいた場所に巨大な影が落ちた。

土煙が舞いあがる。


 「くっそー!!今のを避けやがるとは、噂通りやるようだな!!」


影が大声を出した。

土煙がはれると、そこには三メートル近い狼男がいた。

砂のような茶色い毛並みと、巨体。


だ、だれ?


 「俺は砂狼族サンドウルブズ一の戦士、コウ シュラーだ!銀龍、俺が相手になるぜぇ!!」


砂狼族って砂漠地帯にすんでいる人狼族ウルフォンだ。


ローグは一瞬驚いたようだがすぐに落ち着いた目になる。


 「二人か・・・・まあ、いいでしょう。」


 「はっ・・・・・すかした面してられんのも、今のうちだぜ!!」


コウと名乗った人狼は、腰に着けていた袋を手に取り中身をぶちまけた。

中身は砂だ。


砂があたりに散らばる。


これに何の意味があるんだ?


 「砂狼一族の秘伝、『砂の陣』を見せてやるよ!!」


その言葉と同時にコウはローグに向けて突進していく。


 「それでは、お嬢様。私も行ってまいります。しばしお待ちを。」


 「う、うん。気を付けてな・・・」


ミリスは頷き、メイド服をなびかせ、戦闘に参加しに行った。



〜〜〜〜〜〜



アルは地面に押し倒されながらも、必死に策を練っていた。


 (まずいな・・・・なんとかしないと)


特務戦術部の兵は増援を合わせて、視界に入るだけでも10人いる。


ルーリアは負傷で、意識がない。

チコはアルと同じく兵士に取り押さえられている。


 (こんな状態で何やってもおんなじか・・・・・ルーリアさんは大丈夫なのか?)


ルーリアはピクリとも動かない。

心配だ・・・


だが、なぜ殺さない?

俺とチコは拘束されているだけで、殺される気配がない。


兵士たちの会話を聞きとることができるが、言語が大陸標準語であるフェイタル語ではない。


できるだけ声量を落として、隣に転がっているチコに話しかける。


 「ちびっ子、大丈夫か?」


 「はい、私は・・・・でも、ルーリアさんが・・・・」


 「あの傷なら、死にはしないはずだけど・・・・」


 「黙っていろ。」


ドスの利いた声が上から降って来た。

近くにいた兵士がこちらを見下ろしている。

兜で顔が見えず、表情が分からないので余計に怖い。


 「ちびっ子、殺されはしないみたいだから、じっとしてろ。」


 「その通り。じっとしてて。」


え!?

今の誰の声だ!?


 「アルさん、今何か言いました?」


チコも目を白黒させて、僕のほうを見る。

当然俺の声じゃない。女性の声だ。


周りを見渡すが、兵士たち以外見えない。

しかし、兵士たちが警戒しだす様子もない。


 「あなた達にしか聞こえないようにしてる。動かないで。いい?」


言葉が途切れた瞬間、数人の兵士が一気に倒れた。

兵士の首筋には、珍しい形の刃物が食い込んでいる。


何が起こった!?


 「******!!」


アルの目の前に立っていた兵士が謎の言語で周りに何か言っている。

その背後に、上から影が落ちてきた。

そして、兵士の首をかき切った。


鮮血が吹き、兵士は崩れ落ちるように倒れた。


そこには、肌の露出の多い独特な雰囲気の服装をした少女が立っていた。

短めの黒髪とかわいらしい顔立ち、そして頭部には大きな耳、ふさふさのしっぽが揺れている。

人狼族ウルフォンだ。かなり若く見える。


手にはユウが持つ刀とよく似た武器を持っている。


 「・・・・まさか、ヤマトの忍びです?」


 「な、なんだそれ?」


チコの言葉に少女がコクコク頷く。

かろうじて聞き取れる小さな声で話す。


 「そう。しばらくじっとしてて。掃討する。」


少女は走って、戦闘に入った。


いつの間にか、黒い装束の人物が何人も現れて、戦闘を開始している。

不意打ちで襲いかかったからなのか、ほとんどの兵士は倒されている。


 「なあ、忍びって?」


 「ヤマトの国のスパイとか暗殺を受け持つ職業です。」


なるほど、隠密部隊ってわけか。

それで特務戦術部の兵士に気づかれずに近づけたのか。


ものの数分でほぼ殲滅、敵は撤退を始めている。


アルとチコは立ち上がり、周りの惨状を見て唖然としてしまっていた。


先ほどに少女がこちらにやって来た。


 「あなた達が連絡にあった異界人の仲間?」


 「あ、ああ・・・・それより、ルーリアさんの手当てを・・・」


 「ん。分かってる。」


少女の指示で黒装束の一人が治癒大氣術をルーリアに施す。


 「あんた達は・・・・?」


 「亡霊騎士団ファントムナイツ所属の犬上いぬがみ レン。よろしく」


少女はニコリともせず、自己紹介をした。

なんかとっつきにくい子だな・・・・


 「そ、そうだ!!ユウさんと、セラさんは無事なんですか?」


チコが少女に詰め寄る。


 「平気。どちらも腕利きが迎えに行った。」



〜〜〜〜〜〜



『イヴの眷属』を仕留めるべく振り下ろした魔剣を、突然割り込んできた男の持つ剣に受け止められた。


男は、不精髭にぼさぼさの白髪混じりの髪。

ダボダボで古びた旅人用の服装をしており、浮浪者だと言われれば納得してしまうような風体だ。


デュラハン ノルドラは、驚かされた。


単純に自分の攻撃が受け止められたこと、そして助けに入った男の顔が上官の顔にそっくりだったこと。

そして何より、いつ現れたのか分からなかったことに驚かされた。


 (こいついつの間に・・・・・それに今、目の前にいるのにもかかわらずこの違和感はなんだ?)


まるで目の前にいるが、いないようにも見える。

うまく認識できない。


 「貴様・・・・・『技喰らい』の竜宮 凶一郎だな。」


 「んお?初対面のはずだが?」


 「貴様の顔は、私の上官の竜宮 天次郎によく似ている。」


 「あー、なるほど。でも俺の方が天ちゃんよりも男前だね!!」


噂ではもっと冷血な人間ときいたが・・・・・

予想外だ。


そこで一瞬、凶一郎を見失った。


 「なにっ!?」


気づいた時には、数メートル離れて位置に『イヴの眷属』を寝かせている。

まただ・・・・移動していることは分かったが、認識できなかった。

どういう技法だ?


凶一郎は上空を見上げ、声をあげる。


 「おーい!!ノーラ、こいつの治癒を頼む!!」


 「はいはーい!!」


上空から声が帰って来た。


バサッバサッという大きな羽の音。

美しい金髪と白い羽を持つ有翼人エンジェルの女性だ。


だが、有翼人は共和国固有の種族でほとんど国外に出てこないはずだ。

なぜこんなところにいる?


有翼人の女性は『イヴの眷属』の傷を調べて、素っ頓狂な声をあげた。


 「うひゃあ!?こ、これは重傷ですよ!!」


 「わかってる。とにかく傷を塞いでくれ。死にはしないさ。」


 「わかりました〜。やってみます」


そして凶一郎がこちらを向いた。


 「さて・・・・悪いね、待たせた。こんな奴でも一応弟子でね。弟子をここまでフルボッコにされちゃあ、師匠としては黙ってすませるわけにはいかないんでね。相手してもらうぞ。」


 「望むところだ。貴様らを逃すつもりはない。」


バラバラになっている魔剣を呼び戻す。

四本の魔剣が瞬時に集まり、背中に回り込む。

そして、手に持っている『黒影』と『炎蛇』に入れ替える。


黒い魔剣と赤い魔剣が瞬時に入れ替わる。

これがこの『五連魔剣』の特性だ。

どの魔剣もお互いに繋がっているため、意識するだけで魔剣を入れ替えることができる。


凶一郎は構える様子すらない。剣を肩に担ぐようにして立っている。

その姿にはまったく覇気を感じられない。

念のため忠告しておく。


 「本気で来い。」


 「当然。フルボッコにしてやるよ。」


そう言った瞬間、すさまじい速度で凶一郎が動いた。

一瞬見失うほどの速さ。


おそらく先ほどの戦闘で『イヴの眷属』が使った高速移動術だろう。

だが、技のキレが違う。


側面からの突き。


 (だが、防げないほどの速度ではない!!)


先ほどのような、認識できない特別な技法ではない。

防ぐことは可能だ。

背中で浮かんでいた魔剣の一本で受け止める。

そして残りの三本で凶一郎の剣をねじるように抑え込む。


武器破壊 『連天破砕』


剣はねじ切られ、バラバラに砕け散った。


 「おっとっと・・・」


凶一郎は躊躇なく剣を手放していた。

そして、さらに間合いを縮め、格闘の間合いに。


凶一郎の右手には、いつの間にか巨大なエーテル塊が現れている。

とっさに手に持っていた魔剣を、凶一郎の右手と体の間に入れる。


ドンッ!!


弾かれて、後ろに飛ぶ。

だが、もろに食らうことにはならなかった。


 (奴の剣は破壊した・・・・・格闘主体の接近戦で来るだろうな)


魔剣を『蒼雷』に持ちかえ、接近戦に備える。


凶一郎は追撃はせず、その場に止まっている。

その手にはなぜか・・・・


!?


 「な、どういうことだ・・・・・・なぜ貴様が、私の魔剣を!?」


凶一郎の手には、デュラハンの翠の魔剣『翠風スイフゥ』が握られている。

魔剣は持ち主以外の者に触れられれば拒絶される。

そもそも、私の魔剣には私のエーテルが込められている。

扱うことはできないはずだ。


『翠風』を戻るように意識を集中させるが、まったく反応がない。

どういうことだ!?


凶一郎はあざけるように笑う。


 「なんだ?魔剣を操るのが自分にしかできないとでも思っていたのか?」


 「バカな!?私のエーテルを押しのけ、さらに剣に宿る精霊を支配したのか!?そんなことできるはずが・・・・」


まさか・・・・『喰われた』のか?

私の技が?


 「ごちそうさま」


ニヤリと凶一郎が笑った。


 「くっ!!」


残りの魔剣『蒼雷』、『炎蛇』を両手に持つ。


蒼魔剣技 『電刃』


『蒼雷』を振り雷撃をまとったエーテル衝撃波を撃ち出す。

続けて、


赤魔剣技 『炎功弾』


炎の弾丸を『炎蛇』の剣先から撃ちだす。


凶一郎は翠の魔剣を振り風の壁を作り出し、受け止める。


爆音。


煙が上がり、視界が遮られる。


その煙をぶち抜くように凶一郎が現れた。

『翠風』を体をねじるようにして大きく振りかぶる。


 (魔剣を返してもらうぞ!!)


二本の魔剣で交差するように受け止め、接触点からエーテルを徹す。

『翠風』の制御を奪う。


そこで違和感を感じた。凶一郎の気配が薄いような気がする。

まさかこれは!?


 「バカめ。それは囮だ」


後ろから声がした。

目の前にいた凶一郎は薄緑色のエーテルを残し、消え去った。


やはり分身か!!


背中に浮かぶ魔剣たちが反応。

凶一郎を切り刻もうと回転する。


しかし、凶一郎は魔剣たちの一撃を難なくかいくぐり、接近。

こちらが防御する暇もなく、脇腹辺りに拳が突き刺さった。


 「ぐごあっ!?」


その一撃は筋肉の鎧をものともせず、衝撃を体内に伝えた。

枯れ木を折るような音と共にあばら骨が数本砕け、血をはき出す。

凶一郎はすぐに距離をとる。


 「急所は外しておいた。すぐに治療すれば助かるぜ。」


 「ぐふっ・・・・なぜ・・・・」


何故そんな真似を?


 「俺の弟子がリベンジを望むと思ってな。あんたは殺さない。」


くっ・・・完敗だ。手加減された・・・おそらく半分ほども力を出していないだろう。

屈辱を感じながら、デュラハンは後退する。

内臓の損傷は体内エーテルを操作して、血液の流れを制御して応急処置。

これで何とか持つはずだ・・・


噂の『技喰らい』は、想像以上だった。

だが、今回は万全ではなかった。

『イヴの眷属』との戦闘での疲労とダメージがあった。


 「次だ。次会った時には!!」


 「次はない。次あんたと戦うのは、うちの弟子だ。忘れるな」


その言葉を背中に聞きつつ、デュラハンは足早に撤退を開始した。

飛空挺まで戻れば、治癒が可能だ。


デュラハンの頭の中では、標的はすでに『イヴの眷属』から竜宮 凶一郎に切り替わっていた。


また、会えるはずだ。また心躍る戦いをすることができる!

負けた屈辱を大きく上回る期待感があふれていた。


 「くっくっく・・・・・ああ、楽しみだ!!」


デュラハンは飛空挺へと向かう。



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