第42話:再び登場!!
「くっ・・・・アルは大氣術の速射でわたくしの援護を!!チコはアルに誰一人近づけないように!!」
ルーリアは冷静に指示を飛ばす。
「お、おうっ!!」
「はいですっ!!」
アルは若干ひるんだ様子で、チコはやる気満々で。
まずいですわね・・・・セラは引き離され、ユウはデュラハンの相手で手一杯だ
そして、こちらの敵は5人。
それも全員、特務戦術部の所属だ。
チコとアルとわたくしでは少し荷が重いですわ。
5人の黒い鎧たちは、手信号でやり取りしながら、こちらに接近してくる。
全員、氣闘士だ。
「行きます!!」
翼脚甲を起動。地面を滑るように前進。
斧槍を振り、迎え撃つ。
5人は分散し、アル達を先に狙おうとする。
戦闘において詠唱師を先に潰すのはセオリーだ。
だが、やらせない!!
ハルギート流槍術 『大閃刃』
大きく斧槍を振ることで、大型の横一線のエーテル衝撃波を放つ。
集団の足もとを狙う。
黒い鎧の兵士たちは全員、小さく跳び、回避する。
ここだ!!
翼脚甲の最大出力で加速。
集団の中央の一人に狙いをつける。
まだ着地していない。
下段から斧槍を斬り上げる。
兵士はとっさに剣でガードし、金属同士の衝突音と火花。
だが勢いを殺すことができず、兵士の体は上空に跳ね上げられた。
空中こそが空戦騎士の主戦場!!
跳ね上げられた兵士と共にルーリアも翼脚甲を用いて飛ぶ。
ハルギート流槍術 『空乱列斬』
空中で何度も方向転換し、高速機動で相手を切り裂く。
その姿は、高速ターンの連続によって分身しているかのように見える。
兵士は何とかガードしていたが、空中では無駄なあがきだ。
ルーリアは手を緩めることなく連続で切り裂き、兵士をバラバラにした。
「まず一人!!」
他の4人は仲間が死んだことを気にした様子もなく、アル達のほうに向かっている。
基礎大氣術 『第一風法』
任意の空間を風の刃で切り刻む基礎の大氣術。
兵士たちの進行方向を予測して、二重詠唱によって連続起動。
だが、兵士たちも直撃はしない。
アルの視線から、タイミングを見計らい、回避行動をとっている。
さすがだ。
急いで、援護に回る。
上空からルーリアは斜め下に急降下。
ハルギート流槍術 『流星』
上空から流星のように地面に向けての降下攻撃。
重力加速と翼脚甲のエーテル反射加速をあわせた超加速を利用し、攻撃する。
あまりの速度に、視界が歪み、みるみる地面が近付く。
丁度、兵士がアルの大氣術を避けた瞬間を狙った。
ズシャッ!!
地面を削るように着地しながら、一人の兵士を後方から両断した。
上半身が血液をまき散らして、吹き飛ぶ。
「ふたりっ!!」
あと三人。
すでにアルの前に立つチコに肉薄している。
「守りますですっ!!」
チコは大きなハンマーを構える。
兵士三人は分散し、三方向に分かれる。
「わ、わ、わ、別々にこないでください〜!」
チコは慌てつつも、何かの薬品の小瓶をばらまいた。
地面で割れ薬品が飛び散った。
兵士たちは避けたが、一人が飛び散った薬品を踏んだ。
「!?」
足を取られ、兵士は驚く。
靴底の薬品は粘って、地面に縫いとめている。
さすがチコの薬品。意表を突く。
その隙にルーリアは接敵する。
斬撃を仕掛けようと斧槍を振り上げた瞬間、目の前に術式の刻まれた魔法球が出現した。
大氣術!?
魔法球の範囲が爆発した。
とっさに転がって避け、空中に逃げようとする。
しかし、
バキンッ
と、翼脚甲の浮力機関を破砕する音。
ピンポイントで浮力機関を破壊された。
バランスを崩す。
「狙撃!?」
魔法球はさらに大量に発生する。
爆発。
「くっ・・・・・がはぁっ!?」
大量の爆発が直撃した。
ルーリアの軽装鎧ははじけ飛び、体は地面に転がる。
「ルーリアさんっ!!」
「くそっ!!ちびっ子、もう少し頑張れ!!」
チコの悲痛な声とアルの焦る声。
ルーリアは衝撃で朦朧とした意識のまま、視界を巡らせる。
増援だ・・・・
いつの間にか5人の詠唱師が後方で、詠唱杖を構えている。
狙撃詠唱師までいる。
ここまで用意周到だとは・・・・
5人の氣闘士に集中しすぎた。
奴らの飛空挺から増援が来たのだ。
なんとか立ち上がろうとするが、力が入らない。
アルとチコは反撃していたが、接近されてはアルも詠唱できない。
二人とも押し倒され、拘束されている。
一人の兵士がルーリアに近づき、腹に蹴りを入れる。
「ぐふっ・・・・・ごほっ、ごほっ・・・」
「やってくれたな・・・・空戦騎士。だが、もう終りだ。」
そんな・・・・こんなところで・・・
わたくしはまだ・・・・
意識が薄れていく。
ごめんなさい、みんな。
〜〜〜〜〜〜
昇華によって体内エーテルが急増。
紅いエーテルが全身から吹き出し、視界を紅く染める。
体の中から力があふれてくる。
圧倒的な全能感に精神が高揚する。
「は、は、ははははは!!」
思わず笑いが出てくる。
最高の気分だ!!
これで目障りな魔剣使いを殺せる。
すべて、俺が・・・・・
!?
おっと、また錯乱してた!!
しかし、前回よりも精神の高ぶりがゆるい気がする。
そーいえばイヴが、僕の体が慣れたって言ってたか・・・・
さて、デュラハンに目をやると、こちらを見てうっすらと笑みを浮かべている。
「ほぅ・・・・・それが昇華した姿か・・・。楽しめそうだな」
「そりゃ良かった。じゃあ、さっさと終わらせるぞ。」
「できるのならな。」
殺ってやるよ。
増加した体内エーテルによって身体機能強化。
知覚が加速し、近くにある木から落ちてくる葉の落下速度が次第にゆっくりとなる。
いつもの三倍は速い。
アルベイン流 奥義 第五天『韋駄天』
超高速移動で閃光のように移動。
デュラハンの後方に回り込む。
これで終わりだ!!
デュラハンの首を切り落とすべく、刀を振る。
ギィインッ!!
デュラハンの背中に浮かぶ翠色の魔剣が受け止めた。
自動防御が『韋駄天』の速度についてくるのか!?
デュラハンの笑みが見える。
「翠風、吹き飛ばせ。」
翠の魔剣から強烈な風が巻き起こり、吹き飛ばされる。
「ぐうっ・・・・」
足を踏ん張り、地面を削りつつ止まる。
追撃するように、四本の浮遊する魔剣が一斉に襲いかかって来た。
アルベイン流 格闘術 五式 『剛体陣』
全身から体内エーテルを放射し、攻撃をはじく防御技だ。
「かあっ!!」
裂帛の気合いと共に体内エーテルが全身から吹き出し、4本の魔剣すべてを吹き飛ばす。
そして前進。今度は真正面から斬りかかる。
デュラハンも迎え撃つように仁王立ち。
激突。
刀と魔剣は強烈な火花を放つ。
轟音と共に大気が弾け、周りの木を揺らす。
鍔迫り合いに。
「ははは・・・・楽しいな!『イヴの眷属』よ!!」
「うるさい・・・・・黙れよ。」
「くくく・・・これほど骨のある相手は久しぶりだ。本気が出せるというのは素晴らしい。」
よほど上機嫌なのか、やたらとベラベラしゃべってきやがる。
うぜぇ野郎だ。
体内エーテルによって鋭敏になった知覚が、背後に気配を感じ取った。
先ほど吹き飛ばした4本の魔剣が戻って来たのだ。
「後ろばかりを気にしててはいかんな。唸れ、蒼雷」
デュラハンの手の中にある魔剣はいつの間にか赤から青に変わっている。
いつ持ちかえた!?
「なっ・・・・ぐうぅぅっ!?」
デュラハンの声に呼応するように、青い魔剣から雷撃が流れ出す。
鍔ぜり合っている刀を通して、全身に雷撃が回り、痺れる。
こんなもの!!
余りある体内エーテルを身体機能回復にまわし、瞬時に痺れをとる。
しかし、その一瞬の間に僕の手の刀は、デュラハンの魔剣に叩き落とされている。
前からはデュラハンが斬りかかり、後ろからは4本の魔剣が遠隔操剣術で襲いかかってくる。
そして僕の手には刀がない。
知覚をフルに使い、デュラハンの魔剣をぎりぎりで回避。
そして、両手でチコ特製の爆裂ダガーをコートの中から2本ずつ抜き出す。
ダガーに大量のエーテルを徹し、前後に投げる。
爆発。
前後ともに至近距離まで迫っていたが、躊躇せず爆発させた。
後ろの魔剣たちは爆風にあおられ、見当違いのほうに。
デュラハンは爆風をもろに受けた。
当然僕も爆風を受けた。
前後から。
「くっ・・・・」
口から血が流れる。
爆発の衝撃が内臓を傷つけたようだ。
増加した体内エーテルを総動員して防御したが、ダメージは大きい。
コートに守られてはいたが、体のそこかしこに火傷がある。
体内エーテルを用いて痛覚遮断と同時に治癒を開始。
爆煙の中からデュラハンが飛びだし、膝をついた。
デュラハンの着る黒い鎧は一部が破損し、赤いマントは破れている。
「っ・・・・・くくく、やってくれるな・・・・まさか至近距離で爆発させるとは。だが、私よりも貴様のほうがダメージが大きいんじゃないか?」
確かに。
前後から挟むように爆風を浴びた俺の方がダメージは大きいだろう。
「それがどうした?丁度いいハンデだ。」
「ふふ・・・そうか。」
デュラハンは立ち上がり、左手を突き出す。
すると飛び散っていた魔剣たちデュラハンのもとに集まる。
赤と翠の魔剣を手にとる。
二刀流か?
俺は落とした刀を拾い上げ、構える。
アルベイン流 奥義 第五天 『韋駄天』
高速接敵。
速さに惑わされることなるデュラハンは僕を見据える。
近距離での斬り合いが始まった。
いくつもの火花と轟音が鳴る。
暴風のようなデュラハンの二刀。
刀、拳、蹴り、とめまぐるしく攻撃方法を変化させ、対抗する。
ガチィンッ!!
両者の武器がはじけ、小さな間隙が生まれる。
ここだ!!
アルベイン流 戦刀術 五ノ太刀 『桜花連刃』
無数の斬撃を繰り出す高速剣術。
普段なら同時に6発が限界だが今なら!!
合計20の斬撃が瞬時に生み出される。
だが、デュラハンはひるむことなく、両手の魔剣で叩き落としていく。
さらに炎と風を同時に発生させ、炎をまとった風を作り反撃してきた。
バックステップで距離をとりつつ、刀を納刀。
炎風が眼前に迫る。
だが、焦りは全くない。それどころか・・・・
「これにも対応するのか・・・・。ははは・・・おもしろいな。」
いつの間にか俺の顔は笑みでいっぱいだった。
ケタケタと笑ってしまっていた。
そのことに気づいても、もう笑いを止めようと思わない。
どんどん精神が高揚し、知覚速度が加速する。
時が止まっているようだ。
居合の構え。腰を落とす。
アルベイン流 戦刀術 四ノ太刀 『斬鉄閃』
抜刀。
「うおらぁっ!!」
鞘から飛び出した刀が音速に近づき、ソニックブームが発生。
炎風を断ち切る。
増大した体内エーテルが身体機能を果てしなく向上させる。
アルベイン流 格闘術 八式 『陽炎陣』
体内エーテルを分化して、質量を持つ分身を作る。
今回は二つ作る。
昇華状態のため普段よりもずっとしっかりした分身だ。
合計三人の俺たちは、バラバラの方向から同時に攻めた。
デュラハンは魔剣を分散させて、同時に対応する。
いくつもの剣撃の音があたりに響き渡る。
分身はすぐに破壊された。
当然だ。俺が遠隔から操作しているようなものだから、反応速度は本体とは段違いだ。
だが、今ならデュラハンの手元にある赤い魔剣以外、周りに魔剣は一つもない。
好機だ!!
接近、そしてデュラハンから三歩ほど手前で地面を踏み抜いた。
飛び散った小石にエーテルを徹し、デュラハンの目の前で弾けさせる。
当然、この程度デュラハンのレベルなら気にも留めない。
だが、それと同時に俺は刀を全力で振り下ろした
全力でだ。体制が崩れるのもいとわず、全力で振り下ろした。
小石による牽制で少しばかり反応が遅れたデュラハンは、華麗な足捌きで回避。
ここだ!!かかったな!!
高速の斬撃が通りすぎた場所には、空気もエーテルも斬り裂かれ存在しない。
その真空に近くなった断層に、自分の持つ体内エーテルのほとんどを込めた蹴りを叩きこむ。
すると、蹴りによって叩きこまれた体内エーテルと、真空の断層に吸い込まれる大気エーテルが巨大な渦を作り出した。
「な・・・・にぃ!?」
デュラハンの顔に驚きが浮かぶ。
アルベイン流 奥義 第三天 『螺旋翔破』
大気エーテルと体内エーテルを利用して、蹴り足を中心に巨大な渦の衝撃波を作り出す。
巨大な渦はデュラハンをやすやすと飲み込み、周りの木々を飲み込み、地面を削り、吹き飛ばした。
「はぁ・・・はぁ・・・・やったか?」
地面には渦の通りすぎた傷跡が残り、土煙りで視界が悪い。
地面には3本の魔剣が落ちている。
動き出す気配がない。
虚空に目を向ける。
「イヴ・・・・いる?」
「いるよ。大丈夫?」
イヴが姿を現す。
「うん。昇華はまだ続く?」
「もう駄目。終わるよ。」
イヴの言葉を聞いたとたん、体をすさまじい倦怠感が襲った。
そして眠気。
思わず地面に膝をつく。
「くそっ・・・・セラ達を助けないといけないのに・・・・!!」
刀を杖代わりになんとか立ち上がり、元の街道のほうに歩きだす。
「ユウっ!!うしろっ!!」
イヴの焦った声が聞こえた。
「え?」
背中にドンという軽い衝撃を感じ、そして・・・・
僕の腹から黒い剣が生えた。
ノドの奥から何かが上がってくる。
「ごはっ・・・・・」
ビシャ
という音が鳴るほどの大量の血液。
ゾブッという音と共に黒い剣が引き抜かれた。
体がふらつく。
「う・・・あ・・・・?」
何が?
後ろをゆっくりと振り向く。
デュラハン・・・・
鎧のほとんどが吹き飛び、額からは大量の血を流し、顔が半分赤い。
あれを避けたのか?
「危なかったぞ、あの攻撃。見事だ。だが、この魔剣の力を知らずに、あの大技を使ったのは失策だったな。この『黒影』は影の中を移動することを可能とする。」
影の中・・・・?
なんだよそれ、反則だろ・・・・そんなの。
「ユウ、逃げてっ!!早く、走って!!」
イヴが必死に叫ぶ。
無理だよ・・・・
腹に空いた穴から自身の生命が流れ出て行っているのがわかる。
もう駄目だ・・・・
「なかなか楽しめたぞ、『イヴの眷属』。だが、我が魔剣の技すべてを使い尽くすほどでは無かった。その程度ではこの先に道はない。私が引導を渡してやろう。」
とどめをさすべく、デュラハンが黒い魔剣を振り上げる姿がゆっくり見える。
避ける・・・・・無理だ。
体が動かない。
嫌だ・・・・死にたくない!!
死にたくない一心から、デュラハンから逃げようとする。
しかし、体は言うことを聞かず、体は前のめりに倒れていく。
後ろから空気を切り裂いて、黒い魔剣が迫る。
終わりだ・・・・
ギィインッ
金属音。
魔剣の衝撃はやってこなかった。
そして倒れかかっていた僕は、誰かに受け止められていた。
「まったく・・・・・魔剣使いの相手はやめろと言ったろ?」
久しぶりに聞く声だ。
ああ・・・・なんてタイミングなんだ。
わざとじゃないかと疑ってしまうほど、かっこいいタイミング。
思わず涙が出てしまいそうだ。
「ほらほら、もう寝ときな。あとは任せなさいよ。」
気の抜けるような緊張感一つない声。
しかし、僕は圧倒的な安心感と共に意識を閉じていく。
かっこよすぎだぞ、おっさん・・・・・・