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異界の旅路  作者: Posuto
42/53

第41話:狂戦士

 「あなたの穢れた血は、銀龍に不幸しかもたらさない。」


 「う・・・・・だ、だまれ・・・」


ローグの言葉にセラは弱々しく反論する。

カチンときた。

言いかえしてやろうと思った瞬間、


 「では、行きます。覚悟してください、姫様。」


ローグが消えた。

見失った。


ドンッ!!


 「うあっ!?」


ローグはいきなりセラの目の前に現れ、大きな打撃音をたててなぎ払うように蹴り飛ばした。

セラはなんとか防御態勢に入ったが、踏ん張りきれず、街道横の林の木をなぎ倒して、吹き飛んだ。


ローグは追撃するように林に入って行った。


 「セラ!!」


とっさにセラを追おうとする。


 「貴様の相手は私だ。『イヴの眷属』。」


背筋が凍るような冷たい声が聞こえる。

黒い髪と鋭い赤い瞳、20代程度の冷たい風貌の男だ。

黒い鎧と赤いマントのがっしりした体が道を塞ぐ。


 「どけっ!!」


強行突破しようとしたが、思いとどまった。

無理だ・・・・・そんな力押しが通用する相手ではない。


なんだかおっさんと対峙している時と似た感覚がある。

何をしても、簡単に対処されてしまいそうな・・・・・そんな感覚。


 「私は特務戦術部『猟犬ハウンド隊』隊長、デュラハン ノルドラ。」


紅い瞳が僕を射抜く。

ルーリアが息をのんだ。


 「!?・・・ユウ、その男は危険ですわ!帝国騎士団で一二を争う剣士として、名を聞いたことがあります!!」


 「うえっ・・・・面倒な奴が出て来たな・・・・・」


こいつだけじゃなく、あと5人黒い鎧の兵士がいる。

増援がいないとは限らない。

勝てるか・・・?

急がないと、セラが危ない。


先ほどから林の中から大きな打撃音が聞こえる。

セラとローグの戦闘の音だ。


 「さあ、始めるぞ『イヴの眷属』。・・・・・『召喚コーリング』。」


そう言ってデュラハンは右手を前に出した。

すると、空中に5つの魔法陣が現れた。

その魔法陣を突き破るようにして5色の大剣が出現した。

一つ一つの造形はほぼ変わらない、赤、青、翠、黒、白の五色だ。


赤い色の大剣を掴む。

残りの4本の大剣はデュラハンの背中に回り込み、浮かんでいる。


なんだ・・・・この剣は?


 「魔剣です!!この人は魔剣使いです!!」


チコが目を見開いている。

魔剣ってたしか・・・・・



〜〜〜〜〜〜



 「魔剣ってのはな、魔道具の上位だと思えばいい。」


 「そんな大雑把な説明でいいのか・・・・・」


おっさんの説明に呆れていしまった。

外での戦闘訓練中に魔道具について聞いている時、魔剣の話が出た。


 「実際どんな違いがあるの?」


 「ん〜・・・詠唱杖キャストスタッフなしで大氣術スペルが使えたり、武器自体にすげぇ付加効果があるとか・・・・まあ、いろいろ。」


 「なにそれ・・・・反則もんじゃないか。」


 「まあ実際、魔剣使う奴と戦うことなんてまず無いぞ。」


ん?そんなに便利なら使う奴は多いんじゃないのか?


 「希少価値が高いんだよ。魔剣ってやつは・・・・」


 「なんで?作れないの?」


 「作れるのが魔道具。作れないのが魔剣だ。」


作れない?じゃあどうやって魔剣はどうやって現れるんだ?


 「高濃度の大気エーテルが集まる場所では、まれにエーテル自体が意識を持つことがある。それが精霊だ。で、その精霊が宿った武具が魔剣って呼ばれてんの。そもそも魔剣ってのは一つのカテゴリー名だ。別に剣じゃなくても、精霊が宿ってればどんな武具でも魔剣って呼ばれる。」


 「え・・・・・精霊?」


 「そうそう。意識を持ったエーテル体だ。つまりは魔剣には意志があり、使い手を選ぶってことになるのよ。」


使い手を選ぶね・・・・

それで珍しいのか。


 「だから、魔剣を持ってる奴ってのは精霊に気に入られている奴か、精霊をねじ伏せるだけの力がある奴ってことになる。どちらにしても、魔剣を持ってる奴は、かなりの実力を持っている奴ってことだ。出会ったら逃げたほうがいいぞー。」


相変わらずの気の抜けるような声でおっさんは締めくくった。



〜〜〜〜〜〜



逃げられないぞ、おっさん。

冷や汗を流しながら、おっさんの言っていた言葉を思い出す。


魔剣を扱う奴は実力者。

それは分かった。どーせなら対処法を聞いとけばよかった・・・・・

しかも相手は、五本も魔剣を持ってるぞー・・・

希少価値が高いんじゃないのかよ!?


どうやってるのか知らんが、デュラハンという男は赤い魔剣を手に持っているが、残り四本は宙に浮かんでいる。


 「お前たちはあの三人を捕縛しろ。この男は私が相手をする。」


デュラハンが部下に指示をした。

5人の黒い鎧が一斉に動き出す。


まずい!!


僕の意識が5人に移った瞬間、


 「貴様の相手は私だ。」


!?

近い!!


今の一瞬で近づかれた。


赤い魔剣が上段から振り下ろされる。

足捌きと体をそらすことで回避。抜刀して構える。


っつ・・・・やばい!


さらにそこからの連撃。

大剣を扱ってるとは思えない速さで打ち込んでくる。

ヘタしたら刀がへし折れそうだ。


なんとか刀と足捌きで逸らしているが、防戦一方だ。


そしていつの間にか、どんどんルーリア達から離されている。

くそっ・・・・孤立させられる。

いつの間にか街道横の林の中に、追い込まれている。


これ以上離されるわけに離されるわけにわいかない!!


ギィイン!!


火花が散り、刀が軋む。

足を踏みしめ、鍔迫り合いの状態にする。

すると熱を感じた。


 「あつっ・・・!?」


デュラハンの魔剣から炎が吹き出す。


 「炎蛇よ・・・・・」


その炎は蛇のようにのたうちまわり、刀にまとわりついてきた。

まずい、このままだと炎にまかれる!!


とっさに刀を手放して、バックステップ。

刀を手放した右手を握り、振りかぶる。


アルベイン流 格闘術 一式 『発剄・通牙』


通常の発剄よりも速く、貫通力の高いエーテルをライフル弾のごとく撃ちだす。


デュラハンはまだ鍔迫り合いの位置から動いていない。直撃コース!!


バチィインッ!!


弾かれた?

いつの間にかデュラハンの背中にあった魔剣の一本が、エーテル弾を弾いた。

デュラハンが持っている訳ではない。


魔剣が自動で防御に入ったのか!?


ここで追撃されるとまずい!!

落とした刀に目をやり、遠隔操剣術リモートで引き寄せる。


遠隔操剣術。

その名の通り遠隔から武器を操作する技術だ。武器に徹したエーテルを感じ取り、それを操作することで可能な技術だ。

普段なら使わないが、距離がちかく、刀を手放してすぐなので、残留エーテルが多い。


刀は回転しながら、僕の手に収まった。

すぐさま構える。


あれ?

結構隙だらけだったのに追撃がない。

デュラハンは先ほど位置から微動だにしていない。


 「なかなかだ。剣術はうまい。武器を躊躇せず手放す度胸も評価に値する。」


 「な、なんだよ・・・・・褒めても何も出ないぞ。」


急に褒められた・・・・・

なんだよ、こいつ。


 「遠隔操剣術リモートまで使えるとは、器用だな。・・・・だが、本当の遠隔操剣術とは、こういうものだ。」


デュラハンは左手をこちらに突き出した。

すると、デュラハンの背中で浮遊していた4本の大剣が、こちらにすさまじい勢いで飛んできた。


 「うおっ!?」


4本の剣がまるで人によって振られているように斬りかかってくる。


素早く刀を振り防御するが、焦る。

数が多い。徐々に後ろに下がる。


お、重い・・・・


遠隔操剣術で操っているとは思えないような重さだ。

だんだん受けきれなくなってくる。


耳と頬を浅く斬られた。

さらに腕、太ももとじわじわと傷が増えていく。

せっかくチコに直してもらったコートが傷だらけで、血まみれだ。

痛い。


切り傷なので結構な量の血が流れていく。


ある程度後ろに下がると、4本の剣はデュラハンのもとに戻って行った。

この距離が射程距離か・・・・


 「はぁ・・・・はぁ・・・・くそっ・・・・」


いてぇ・・・切り傷って地味に痛いんだよ。

なんとか痛みを意識の外に閉め出す。


 「どうした、こないのか?もう何も聞こえないぞ。」


聞こえない・・・・・?

あっ!?


先ほどまで聞こえていたセラとローグの戦闘音。

ルーリア達の戦闘音。


まるで聞こえない。


 「くそっ・・・・まさか、セラもルーリア達も・・・・・」


 「このままだと貴様の仲間は終わりだぞ。」


技量では完全にこっちが負けている。正面きって戦っても勝てない。

どうする、どうすれば・・・・

焦る、焦る、焦る・・・・

汗がだらだら流れる。


 「さあ、あの力を使え!あの紅いエーテルの力を!」


こいつ・・・・

昇華ブーストさせるために手を抜いていたのか!?


 「あの力さえ使えば、私と対等の勝負ができる!使わなければ貴様の仲間を助けることは出来んぞ!!」


デュラハンの顔は先ほどまでの冷たい風貌は消え去り、残忍な笑みでいっぱいだ。

戦闘狂め・・・・


たしかに昇華すれば、なんとかなるかもしれん。

だが制限時間が30秒じゃあ・・・・


 「ユウ、時間のことなら心配しなくていいわ。」


 「・・・・どうゆうこと?」


イヴが僕の隣に現れた。


 「前回の昇華で、ユウの体が『異界アナザーワールド』に適応してきたから多分、3分程度持つはずだよ。」


それなら、使うしかないか・・・・3分でこいつを倒し、みんなを助ける。

やってやる。やってやるさ!


 「決まったか?」


デュラハンは動かない。待っている。


 「あんたの願いどおり使ってやるよ!!」


僕は恐れを吹き飛ばすように、声を大にする。


 「はははっ・・・・それでこそっ!!」


昇華する。



〜〜〜〜〜〜〜



セラはローグの打撃を受けて、林に突っ込んだ。

木を5本ほどなぎ倒してようやく止まる。


防御に入れた手がしびれている。

なんて蹴りだ。

ユウラさんにもらった手甲『虎鉄』がなければ、骨が折れてたかもしてない。


ローグ。あの人がなぜ・・・・


ローグは親戚として何度か会ったことがある。

また、私が龍式拳殺術ドアゴニックアーツを教えてもらっていたジョフ F.D. ガイエンの愛弟子で、銀龍の中でもトップクラスの実力だ。


過去に何度か手合わせしたことがあるが、一発も入れたことはない。


頭を振り、立ち上がる。


 「くそっ・・・・引き離されたか・・・」


 「気を抜いてはいけませんよ。」


っつ!?

もう追いついて来た!

気を引き締め、拳を構える。


蹴りが来た。


ハイキック。

膝から力を抜き、体を落として回避。


反撃をこころみようとするが、ハイキックは頭上で急停止し、踵落としに変化した。

とっさに、連続でバック転をして踵落としを避けた。


ローグの踵落としが地面と接触し、轟音をあげて地面が陥没する。


背筋がひやっとした。

だが、ゆっくりはしてられない。

ユウたちが気になる。


心を奮い立たせ、足に力を入れる。


いくぞっ!!


地面をえぐりつつ、高速で接敵。

長い銀髪がしっぽのようにひるがえる。


右手に体内エーテル収束させ、ハンマーのように振りかぶる。

轟と大気エーテルがうなり、空気が震える。


龍式拳殺術 剛天四式 『屠殺龍衝』


右手を中心として、半径5メートルの範囲を圧殺する。

『虎鉄』の大気エーテルを打撃力に変換する機構により威力が上がっている。


拳を振り下ろす。


ドゴンっ!!


地面をえぐるのみ。


ローグはバックステップで後方に。

やはり同門であることから、技の効果範囲を知っている。


避けられた・・・・が、追撃する。


龍式拳殺術 疾風二式 『旋転落蹴』


右手の振りおろす力を利用して、体を前方に連続回転させ、あびせ蹴り。


ドスンッ!!


 (受け止められた!?)


ローグは腕を頭上で交差させ受け止めている。


 「少しは腕をあげたようですが、まだまだですね。前にも言ったでしょう?あなたは自分の腕力に頼りすぎだと。大きな力は適切な時に使うべきなのですよ。」


 「うるさいぞ!!」


とっさに受け止められた腕を蹴り、宙返りで距離をとる。


着地した時にはすでにローグは目の前にいる。


 「くっ・・・・!!」


ローグの拳と蹴りが空気を切り裂き、せまる。


龍式拳殺術 剛天五式 『龍鱗舞踏』だ。


まるで舞踏を舞うかの如く拳と蹴りの連撃を繰り出す。


対抗するかのようにセラも『龍鱗舞踏』を放つ。


至近距離での乱打戦。


打撃がぶつかり合い、空気が鳴動し、木々が衝撃の余波で軋む。


純粋な腕力ではセラが上回っている。

セラの身体機能は龍族の中でもトップクラスである。


しかし、ローグには当たらない。

すべてかわすか、少しの力を加えて打撃の方向を逸らす。


 (くっ・・・・当たらない。どうしてだ!?)


徐々に焦りが出てくる。

私は以前より強くなっているはずだ・・・それなのに!!


乱打戦が続いていたが、ローグが動いた。


セラの拳を逸らした瞬間、ねじり込むようにセラの脇腹に拳を入れた。

体が浮き上がり、鈍痛。


 (これは・・・内部破壊の!?)


龍式拳殺術 剛天七式 『龍咬・一』


相手の体内にエーテルをたたき込み、内部を破壊する技だ。

はらわたを咬みちぎる龍の一撃。


とっさに体内に流れ込んできたローグのエーテルを受け流そうとする。

が、ほとんど受け流すことができず、内臓を揺さぶられた。


 「ごふっ!!」


セラの口から大量の血が吐き出された。

後ろに下がろうとするが、足がもつれ、膝をついてしまう。


 「これが適切な時に使うということです。姫様」


 「ぐあっ・・・・うぅ・・・」


どうにか立ち上がるが、力が入らない。


格闘戦では到底かなわない。

だが、諦めない。

別の、私が勝てるもの・・・・・


龍声ドラゴンヴォイスだ。


私の龍声の出力は龍族で一番だ。

混血であることが影響しているのか、体内エーテル総量や身体能力、エーテル共鳴声帯の力は他の龍族を圧倒している。

だから・・・・


 『ラ』


セラの声。エーテル共鳴声帯が音を大気エーテルに伝え、強力な衝撃波が発生する。


と、思われた瞬間、


 『滅』


ローグの口から吐き出された言葉が、空間を満たした。


何も起こらない。

衝撃波の発生がなかった。

セラは混乱した。


 「な・・・・・に?」


そんなバカな!!


ローグは全く動くことなく、自然体で立っている。

なにがどうなったんだ?

ローグがうっすら笑い、セラの疑問に答える。


 「エーテル共鳴声帯からの大気エーテルへの伝導は、音が波として空気を伝わる原理と同じです。だからは私は、あなたの龍声の逆位相の波をぶつけて相殺したのですよ。」


意味が分からん。

だが、途方もないことをやっていることはわかる。


 「この力『対消滅アンチヴォイス』が、私が銀龍の中でもトップクラスの実力だと言われている所以です。」


べらべら喋ってる隙を!!


 『吹き飛べっ!!』


 『断る。』


またキャンセルされた。


ダメだ・・・・勝てない・・・・何をしてもそれ以上の技で返される。


心が折れてしまった。

怖い。


今まで感じたことのない恐怖。

体がピクリとも動かなくなり、涙がにじんできた。


 「う・・・あ・・・」


 「諦めましたか?姫様。では・・・・・」


そこで一瞬、ローグは息を吸い込み、


 『弾けろ。』


セラに向かって龍声による衝撃波が放たれた。


セラは目をつむり、祈った。


助けて・・・・ユウ・・・・



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