第40話:襲撃者
「あっ!!そーいえばあの憲兵隊の奴が言ってたけど、ルーリアさんが『大鷹隊』ってホントなの?」
アルが急にルーリアに聞いた。
飛空挺から飛び降りてから一日。
森から抜けて、街道に出た。
僕たちは街道を一路、砂漠地帯の入口にあるというコウローンというオアシスのある街に向かっている。
気温が上がってきているのを感じる。
暑い。
「ええ。『大鷹隊』の副隊長を務めていました。憲兵隊に目をつけられた以上、もう『元』ということになりますわね。」
「ほぁ〜そりゃすげぇ・・・・」
「なにが?」
よくわからないので聞いてみる。
「空挺部隊の中でも『大鷹隊』って言えば、空戦騎士のトップガンが集まる部隊だ。隊員であるイーグルファイターは、空戦騎士の憧れの的なんだぞ!」
「ふ〜ん・・・・やけに詳しいな・・・・」
僕がいぶかしげに見ると、アルは自慢げに言った。
「お前知らないのか?空挺部隊は、ほとんどが女の子なんだ!!ファンクラブだってあるんだぜ!!」
あー・・・・なるほど。
それで詳しいのね。
「それにしても、なんで女の子ばっかりなの?」
「それはですね、単純に重量の問題なんです。」
僕の前を歩くチコが振り返った。
「重量?・・・・あっ、そうか!飛ばないといけないからか!」
チコがコクコク頷く。
「そーです!翼脚甲は大氣エーテルを反射して浮力を得ますが、当然、限界があります。だから、高速戦闘を持ち味とする空挺部隊では、やはり体重の軽い女性がその大部分を占めることになるのです。」
相変わらずの説明役、ありがとう。
それにしてもルーリアが亡霊騎士団ってどこから漏れたんだろ?
内部に裏切り者がいるとかだったら、イヤだな〜
「いえ、たぶんそういうわけではないと思います。」
ずいぶんあっさり否定したルーリア。
「わたくしは本来、訓練中のケガで自宅療養中なんです。」
「ん?つまりはズル休み?」
「ええ。おそらくそれが部隊の人間からばれたんだと思います。」
あらら・・・・・
そんな簡単な偽装でいいのか?
「そろそろバレてもいいと思っていたところでしたし、このまま今の帝国に従うのは嫌でしたから、これがいい機会だと思います。お父様には怒られそうですが・・・・・」
苦々しくルーリアが言った。
お父さんも確か亡霊騎士団のメンバーだったかな?
「父は、わたくしが亡霊騎士団に参加するのをずっと反対してましたから。でも、殿下のことがありますから、わたくしもほってはおけませんでしたし・・・・・・」
「殿下って?」
「あ!そういえば話していませんでしたわね。大事なことですから、皆さんにも聞いておいて貰わないと。」
大事な話か。
歩きながらだと何だから、休憩するか。
ちょうど昼なので、昼ご飯を食べながらルーリアの話を聞くこととなった。
〜〜〜〜〜〜
街道から外れ、小さな川のほとりで食事を始める。
チコのリュックに詰められた保存食だ。
恐ろしいほどたくさんの物が入るチコのリュックだが、秘密がある。
以前、不思議に思って聞いたら、
「リュックの中の空間を歪めてあるんで、見た目よりいっぱい入るんです!!すごいでしょ?」
と、自慢げに語ってくれた。
まあ、それは置いといて。
ルーリアの話を聞こう。
「今回のクーデターの中心人物のひとりに、開戦派の重鎮のクロイラー議員という方がいます。この方は奥様を共和国との戦争で亡くしています。そうしたことから、クーデター前の帝国の和平路線を許すことができなかったんだと思います。」
うーん・・・・迷惑な野郎だな。
「彼はクーデターが始まってすぐに開戦に反対する皇族、議員を拘束しました。わたくし達、亡霊騎士団はなんとか皇太子のラブリフ殿下だけは助けることができました。」
「そのラブリフ殿下がルーリアが言っていた殿下?」
「その通りです。今はザガルバフにいます。わたくしとは子供の時からの友人なんですの。」
なるほど・・・・
友人では見捨てられないだろう。
皇族と交友関係を持っているのはすごいな。
「どんな人?」
「そうですね・・・・・基本的に穏やかな人ですが、頑固です。国外に逃げることを勧めたのですが、帝国にとどまって戦うと言って、いまだにザガルバフに居ます。感じとしては、アルと似ているかもしれませんね。」
ん?今の説明でどこが似てますか?
「女性を見るとすぐに口説きにかかります。」
「似てるね。」
「そ、そんなことないぞ!!」
アルは即座に否定したが、当然誰ひとりとして同意しなかった。
「それにしても、どーしてクーデターの情報がこんなに出回ってないんでしょう?不思議です。」
パンをもぐもぐ食べながら、チコが首をかしげる。
「それはおそらく竜宮天次郎による情報統制。それに、皇帝陛下は元々病で表に出てきませんし、協力的な皇族に代役をやらせておけば、ほとんどの国民は気づきません。」
「でも、いずればれるのではないんです?」
「戦争が始まってしまえば、どうとでもなると考えているのでしょう。いざとなれば、扱いやすい皇族を皇帝にして、傀儡政権としてやっていくつもりでしょう。」
まずいな〜・・・急がないとホントに戦争がはじまりそうだ。
すこし焦りが出てきた。
〜〜〜〜〜〜
全員が昼食を食べ終わり、休憩していると、
「砂漠に近づいてきたせいか、暑くなってきましたわね。川で水浴びでもしましょうか?」
「うん。いいなそれ。チコもどう?」
「はい!いいですね!」
という、女性陣の会話が聞こえた。
み、水浴びだと・・・・!?
アルを見た。
アルも僕のほうを見ている。
「これは素晴らしい展開だな!!」
「だな!!」
という視線での会話を行った。
当然口には出さない。
「おい、そこの男ども。何を見つめあってる、気持ち悪い。」
ひどいよ、セラ。
つづけて睨んで言う。
「お前たちは向こうに行ってろ。変なまねをすれば、すり潰すからな。」
す、すり潰すんですか・・・・・
「なにを言っているのか分からないが、僕たちは紳士だ。な?アル。」
「おう!安心して水浴びをしたまえ!!」
僕たちはさわやかな笑顔でグッと親指を立てた。
セラは疑いの目を向けたまま、川のほうに向かった。
僕たちは川から離れ、森の中に入る。
さて、
「なあ、ユウ。俺たちは紳士としてどう行動すべきだ?」
どう行動すべきか?
1 のぞく
2 こっそりのぞく
3 堂々とのぞく
4 のぞかないわけがない
うん。どれでも一緒ですな。
「僕は何事にも全力を出す主義だ!!」
「それでこそユウだ!」
僕たちはがっちり握手をした。
〜〜〜〜〜〜
ばしゃばしゃという水音が聞こえてくる。
「うわっ!?ちょ、ちょっと、ルーリア。」
「えい、えい。水遊びも面白いですわね。」
セラとルーリアのはしゃぐ声が聞こえる。
僕は今、川の近くの茂みに伏せている。
ここからは、大きな岩が邪魔で川のほうが見えない。
この岩を回り込むしかない。
僕とアルは協議の結果、別々の位置に向かうということになった。
危険を分散させるのが目的である。
茂みに伏せ、匍匐前進。今の位置は川に隠れて近づくには最適な場所だ。
アルベイン流 秘戦術 五号 『影渡し』
気配を消し、エーテル、音を消し、匂いすらも限りなく無にする暗殺術の一種。
本気を出しすぎな感はあるが、何事も全力で行く。
特にエロに関しては!!
「ふぁ〜・・・・いいなー・・・お二人とも。私もそんな大人ボディになってみたいですー。」
チコの声が聞こえてくる。
お、お、大人ボディだと!?
それはどんな・・・・・おっと、ダメだ。
集中を切らすと、『影渡し』が継続できない。
平常心、平常心。
「うわぁ・・・・・ふかふかです!!いいなー、いいなー。」
「チ、チコ。止めろ・・・・くすぐったいぞ。」
へ、へ、へいじょーしん、へいじょーしん!!
匍匐前進で邪魔な岩を迂回して川の見える位置に向かう。
そこで、アルの叫び声が聞こえた。
「ふぎゃぁぁぁっぁぁぁ!!!」
な、なんだ!?
僕から右斜め方向にある茂みからだ。
なにがあったんだ?
と、とにかくこの隙にこの岩を回り込む。
あと少し!!
カチン
という何かが作動するような金属音が響いた。
すさまじい嫌な予感で、動きが止まる。
ボスっという音と共に、目の前の地面の中から筒状のものが飛び出した。
「なにっ!?」
筒には『おしおき粉末』とかわいらしい文字が一瞬見えた。
空中で筒の両端が開き、ブシュと煙が噴き出した。
びっくりして粉末をおもっきり吸い込んだ。
「ふぎょぉぉぉおぉっぉ!!」
先ほどのアルと大して変わらない叫び声を出してしまった。
喉がひりひりして、目からは涙がドバドバ出る。
「予想通りだな。」
「まさか、ここまでうまく引っかかるなんて驚きですわ。」
「新しい鎮圧用薬品を試せて良かったです。」
よ、読まれていたとは・・・・・。
〜〜〜〜〜〜
「すり潰すと言ったよな。」
「「はい。」」
僕とアルは顔面を腫らして、女性陣の前に正座している。
さきほどの鎮圧地雷を川の水で洗い流した後、セラにボコボコにされた。
気分が高揚して忘れてたが、僕たちが忍び込みやすいと感じる場所にセラやルーリアが気付かない訳がない。
そこに地雷を仕掛けておいたということだ。
「ひ、卑怯だぞー、地雷なんてー」
「ああん?」
「ごめんなさい!!」
すさまじい眼光で睨みかえされた。
結局、お前らはしばらく飯抜きだ!!
という判決が下った。
〜〜〜〜〜〜
道草を食ったが、ザガルバフへと出発。
街道を一路、砂漠の入口の町コウローンへ。
歩いていると、何かの駆動音がかすかに聞こえた。
「ん?なんだろ?」
「飛空挺の駆動音だと思います。」
チコが間髪入れずに答えてくれる。
音は徐々に近ずいてくる。
「ユウ!気を付けて!相手は相当な手練だよ!!」
イヴが横に現れ、警告した。
「みんな!!敵だ!!」
僕がそう叫んだ瞬間、僕たちを影が覆った。
真上を中型の飛空挺が通り過ぎる。
飛空挺から5つの影が飛び降りてきた。
「!?・・・・アル!撃墜しろ!!」
「わ、わかった!!」
アルが詠唱杖を起動。
基礎大氣術 『第一爆法・射出』×5
アルの周りに次々と小型の魔法陣が現れ、炎の矢が射出される。
二重詠唱を使って、瞬時に5回の大氣術を起動。
炎の矢は一直線に飛び降りてきた影に向かう。
空中では身動きできない。
直撃すると思われた瞬間、
影は剣を振り、エーテル衝撃波を放つ。その反動で空中で動き、矢を避けた。
うまい。反動を使うとは、イヴの言うとおり相当な手練だ。
ドスッという音を響かせ、5つの影は地面に降り立つ。
鋭角的な黒い鎧、顔を見せない兜。そして所属を表す表記が一切ない。
この雰囲気、見覚えがある。
「ユウ・・・・こいつらは・・・・」
「ああ。たぶんセラと会った時に戦った特殊部隊だ・・・・」
帝国の所属だったのか!?
「まさか・・・・特務戦術部!?」
ルーリアが顔を驚きでいっぱいにして言った。
「ルーリア?」
「特務戦術部は国内外で特別任務につく帝国騎士団の中の一つの部署です。気を付けてください。特殊戦術部は、竜宮天次郎の影響が最も強い部署でもあります。」
折りたたみ式斧槍を起動させ、構える。
ということはセラを狙っていたのも、帝国の連中だったのか!?
くそっ!!
僕は、わざわざ奴らの本拠地にセラを連れてきてしまったのか!!
先ほど頭上を通り過ぎた飛空挺が戻って来た。
今度は二つの影が飛び出してきた。
まだ来るのか!?
影の一つは鎧の形が少し違い、マントを付けている。そしてこいつは、兜をかぶっていない。
顔をさらしている。涼しげな顔に黒髪、紅い瞳が見える。
恐らく先に跳び下りてきたやつらの隊長だろう。なぜか剣を帯びていない。
無手で戦うのか?
もう一つの影は銀色の髪をなびかせた美形の20代半ばの青年。
銀髪のほうが何かつぶやいた。
遠い位置のはずなのにそのつぶやきがハッキリ聞こえた。
『潰れろ。』
!?
大氣エーテルが歪み、圧倒的の衝撃波が現れた。
これは龍声!?
「みな、散れ!!」
とっさに言いつつ、転がる。
ボゴンッ!!!
先ほどまで僕たちがいた場所は陥没し、大きな煙が上がった。
「みんな、無事か!?」
みんなのよわよわしい応答が帰ってくる。
危なかった・・・・
何故、龍族が・・・・?
僕たちが立ち上り、煙が収まった時には、もう二人の影は地面に着地している。
銀髪の青年が恭しく礼をする。
「お久しぶりです、姫様。わたくしを覚えておいででしょうか?」
姫様・・・・?
セラに向かって言っているように見える。
「ローグ・・・・・ローグ S.D. ハイネル・・・・なぜお前が・・・・」
セラが脅えたように言う。
「あなたの存在が銀龍一族繁栄の邪魔なのです。申し訳ありませんが、消えていただきます。」
平坦な声で、ローグと呼ばれた男は言った。