第33話:驚愕のいろいろ
またか・・・・・
最近よくこの空間に来ているなー。
白い空間。
精神世界だ。
あたりを見回してもイヴの姿は見えない。
どうしたんだろう?
しばらく見回していると、遠くのほうに人影が見えた。
すごいスピードでこちらに走ってくる。
イヴのようだ。
「なんで走ってんだ?」
いや、止まれ。
すでにすぐそこまで来ているのに、イヴはスピードを落とさない。
「この、ボケナスがぁぁぁあ!!!!」
と、叫びながら、僕から数メートルの位置で跳んだ。
空中で両足をそろえて、蹴り。
僕の顔面に突き刺さった。
「バグゥホッ!!!」
いきなりだったので、棒立ちの状態で顔面に蹴りを入れられた。
変な叫びを出してしまった。
だいぶ吹っ飛ばされた。
白い地面を削りながら止まる。
イヴは僕を蹴った反動を利用して、軽やかに着地。
「い、いきなり何するんだっ!!」
僕は倒れたまま叫んだ。
ところで、イヴの来ている服は白いワンピ−スのドレス。
飛び蹴りなんかしたものだから、一瞬すばらしい景色が見えた。
ありがたや、ありがたや。
「ユウは何考えてるの?馬鹿なの?アホなの?」
「え、えっ?何が?」
も、もしかしてばれてましたか!?
「あの程度の魔物にやられちゃった事!!昇華はもう少したってから使いたかったのにー・・・・・。」
何だ、そっちのことか。
見たのがばれたかと・・・・
「あ、見たのは、ばれてるよ。」
ぐっはぁー!?
〜〜〜〜〜〜
「ところでさー・・・・結局、昇華ってなんなの?僕の体はどうなってるの?」
この前のように、白い空間にテーブルとイスがあり、僕とイヴはそこに座っている。
「ユウはこの世界に来る前、死にかけてたのは覚えてるよね。」
忘れる訳がない。
あれは思い出したくないことの一つだ。
「覚えてるけど、それが?」
「私は『死にかけていたこと』が条件って言ったよね。なんでだと思う?」
死にかけていたことがこの世界に連れてきた条件、っていうのは前に聞いた。
そういえばなんでだ?
別に死にかけでなく、僕よりもっと有望な人がいただろうに。
「んー・・・・・・分からん!なんで?」
「死にかけている人だからこそ、改造できるんだよ。」
え・・・・・・?
か、かいぞう?
解像、海造、改造・・・・・改造!?
「え、なにそれ!どーいうこと!?」
「死にかけているから、助けるために改造っていう理由ができるでしょ。」
「なんじゃそりゃ!イヴは神様なんだろっ!!そんな理由をつけなくても、有望な人を改造しちゃえばいいじゃないか!!」
「えーっと・・・・神様にもいろいろルールがあるのっ!!なんの理由もなく人を改造なんてできませんー。」
えー・・・・
僕はホントに体を改造されてるのか?
「僕の体は全部機械ってこと?」
「そんなわけないでしょ。食べたりできるし、血だって出るでしょ。改造というより強化手術っぽいかな?この世界に来るには必要なことだから、仕方がないよ。」
必要なこと?
強化することが?
なんでだ?
「んー・・・じゃあ、ユウはこの世界に来てから、病気した?」
な、何だ急に?
「いや、別にないかな・・・・。」
「この世界は異世界だよ。ユウの元いた世界とこの世界は成り立ちが違う。つまり、ユウの世界にはないウイルスとか病原菌があるかもしれないでしょ。それなのにそのまま放り込んだら、病気にでもかかったらすぐに死んじゃうよ。」
おー。なるほど。
そういうことも考えられるのか。
「それに、ユウは不自然に思わなかった?ユウの師匠の技を、たった二年でほぼマスターできるなんて、ただの人間にできるはずがない。ユウには確かに才能はあったけど、強化することでエーテルに対する感度を上げていたからこそ、今ぐらい強くなれたんだよ。」
そうか・・・・
僕は本来、不器用なほうだ。
おっさんの教えに対して、僕にしては呑み込みが早いと思ったら、そういう事情があったわけか。
「納得した?」
「した・・・・ということにしておく。で、あの紅いエーテルは何なの?」
この世界におけるエーテルは、薄い緑色をしているはずだ。
なのになぜ紅い?
「ユウの体内エーテルは、『異界』という名の特別製なんだよ。普段はこの世界のエーテルと同じ機能を持つだけだけど、昇華状態の時には、紅く輝き、爆発的にエーテルを生成し続ける。その他いろいろ機能があるけど、それはまた今度ね。」
ふーん・・・・
まだ教えてもらっていないことがありそうだ。
いきなり体からミサイルが出てきたり、腕がロケットみたいに飛んでいかんだろうな!?
若干心配だ。
「ほんとは『変身!!』とか言って、ヒーローに変身するみたいな強化がしたかったんだけどな〜。」
セーフ!!!
それは絶対嫌だ!!
「なんで?かっこいいのに・・・・・」
「それは恥ずかしすぎるよ・・・・」
助かった。
〜〜〜〜〜〜
イヴが少しほっとしたように言う
「まあ、ユウが無事でよかった。昇華したことで私との線がかなり強くなったから、これからはもっと助けてあげることができるよ。」
イヴに助けてもらえるのか。
魔物が出現する時も教えてくれたし・・・・ってあの時なんで頭痛くなったんだ?
「それは、今ほど線が安定してない状態で、強制的に声を送ったから、ユウに負担がかかっちゃった結果だよ。今度からはもう心配しなくていいよ。」
そして、イヴはイスから立ち上がる。
「さあ、ユウ。そろそろ起きないと、セラちゃん達が心配してるよ。」
「うん。分かった。イヴいろいろ教えてくれてありがと。」
僕もイスから立ち上がる。
次第に視界がぼやけていく。覚醒が近い。
「うんうん。じゃあ、またね。すぐ会えると思うけど。」
え?
〜〜〜〜〜〜
「う・・・・くっ・・・」
まぶしい。
目をうっすらと開けて、周りを確認する。
見慣れない天井。
独特のにおい。
窓からは、青い空とオーロラのようなレイラインがきれいに見える。
「病院・・・・か?」
僕は病室のベッドで寝ているようだ。
体を起こそうとする。
あれ?
動かん。
無理やり動かす。
ゆっくりとではあるが体が反応する。
なまってるなー・・・・どれぐらい寝たんだ?
コンコンという小さなノックの後、がちゃっという音が聞こえた。
ドアのほうを見ると、ユウラさんが入って来た。
「お!起きたか。随分ねぼすけだね、ユウ君。おはよう。」
「おはようございます。今いつです?どれくらい寝てました?」
「あの事件から5日たったよ。」
そんなに寝てたのか。
僕は起き上がろうとして、ユウラさんに止められた。
「そのままでいいよ。いくら異界人といっても、それほどの怪我はすぐには治らんだろう?」
「はぁ・・・・・あれ?僕、ユウラさんに異界人だって事、話しましたか?」
セラに聞いたのかな?
「いいや。私は君の師匠の仲間だったからね。以前の異界人を知っているから、君が異界人だとすぐに分かったよ。」
なんじゃそりゃ・・・・
それから、ユウラさんは医者を呼びに行った。
医者の先生に体の状態を聞かれ、答える。
どうやら退院はまだ先になるそうだ。
先生が出ていくと、ユウラさんはベッドの横の椅子に座った。
僕は気になっていたことを聞く。
「結局あの魔物は何だったんですか?」
「カスロアの公式発表では魔物の襲撃、とされてるけど、ちまたでは帝国の仕業だ、って噂が流れてる。」
「帝国の?」
確かに魔物が自発的に連携をとるのはおかしいと思った。
だがなぜ帝国が?
「で、裏情報なんだが、港の反対側で魔物操者の死体が見つかった。帝国所属の詠唱師の装備を身につけていたことが分かってる。それに、魔物が帝国からの積み荷から現れたことを目撃した一般人が、大勢いる。だから、噂通り帝国の仕業である線が有力だな。」
どこから仕入れてきたんだ、そんな情報。
「なるほど。ところで、魔物操者ってなんです?」
「魔物操者ってのは、魔物の制御をおこなう詠唱師だ。帝国じゃ、10年前の戦争で実験的に、実戦投入を行っている。まあ、公にはなっていないがね。」
そんなことまで知ってるのか・・・・
ユウラさんは、こちらに顔を近ずけ、さらに小さな声で話す。
「ここからは本当に裏情報なんだがね、帝国では少し前にクーデターが起こって、開戦派が勢いずいている。今回の一件はそいつらの差し金だ。」
いっ!?
クーデター!?
そんな話初めて聞いたぞ。
「ほんとなんですか?クーデターって・・・。」
「ああ。皇室は乗っ取られていると言ってもいい。戦争反対派の議員数人と非協力的な皇族は拘束されてる。帝国国内でも、乗っ取りに気づいてる奴は議会の一部の人間だけだ。」
ユウラさんは頷いて、言った。
帝国国内の人たちが気付いてないようなことを、なんでそこまで知ってるんだ?
「ユウラさん、あなた何者なんです?僕にどうしてそんなこと伝えるんですか?」
おかしすぎる。
帝国でクーデターなんか起こったらすぐに情報が出回るはずだ。
そんなこと聞いたこともない。
「私はある組織の一員なんだ。」
「組織って・・・・・?」
「10年前の真実を知る者達が集まって作られた組織『亡霊騎士団』。」
10年前の真実?
なんだそれは?
「ユウ君は帝国のことはどれくらい知ってる?」
「ほとんど知りません。共和国とよく戦争する国、ってことぐらいしか知りません。」
「ふーん・・・・じゃあ、10年前の戦争については?」
「全く知りません。師匠は戦争についてはほとんど教えてくれませんでした。」
この世界の一般常識を習う時に戦争について聞いたことがあったが、ほとんどはぐらかされた。
「君の師匠や私が戦争に参加していたことは知ってるよね?」
「はい。」
「おかしいとは思わない?私も君の師匠もヤマトの人間だよ。なんで他国の戦争に首を突っ込むんだ?」
ん?そう言われるとそうか。
ユウラさんは、ヤマトで高い位を持つ家の出身のはずだ。
その人がなぜ他国の戦争に赴く必要がある?
考えられるのは・・・・・・
「ヤマトの人間が戦争にかかわっていた・・・・・?」
「そう。正解だ。10年前の戦争、あれはある男によって仕組まれたものだった。」
「仕組まれた?」
「ああ。仕組んだ奴の名は、竜宮天次郎。ヤマトの守護四神武家の一つ、竜宮家の人間だ。そして君の師匠、竜宮凶一郎の双子の弟にあたる。」
おっさんの弟!?
っていうかおっさんの本名はそんなのだったのか・・・・。
竜宮凶一郎・・・・・くっ、なんかかっこいい名前だな。納得いかねぇ・・・
「じゃあユウラさんとうちの師匠は、その天次郎とかいう奴を始末するために戦争に参加したってこと?」
「私はそうだけど、君の師匠は違うよ。凶一郎はその時にはもうヤマトを出ていたからね。偶然出会って助けてもらったんだよ。」
へー・・・・・
おっさんが竜宮。で、天次郎って奴が黒幕か。
「10年前の真実って言うのは、その天次郎が絡んでいることを知っている人達ってことですか?」
「そーいうこと。戦争が仕組まれていることに気づいた人達で、天次郎をシバキに行ったわけ。その集まりが『亡霊騎士団』って組織になった。まあ、実は組織と言うほどの人数はいないんだけどね。」
なるほど。
ユウラさんがやたら情報通なのは、その組織の情報網があるからか。
「今回の魔物騒動も、帝国のクーデターにも天次郎が絡んでるらしんだよ。」
「え?天次郎って奴を始末できなかったんですか?」
「いいや。殺したはずだった。だが、今でも生きて、裏でこそこそやってるらしい。」
まあ、理解した。
このままだと戦争になってしまうってことか。
おっさんがいなくなったのも、この話と関係あるんだろうな・・・・
自分の弟が戦争を起こそうとしてるんだしな。
「それで、この話を僕にしてユウラさんはどうするつもりですか?」
「当然、協力してもらいたい。このままほっとくと戦争になる。10年前の二の舞だ。」
「そう言うと思いました。少し考えさせてください。今はなんとも・・・・・」
「ああ、いいさ。別に断ってもかまわないよ。」
嘘つけ。
ここまで話されたら、さすがに断りずらい。
そこで、廊下から騒々しい足音が聞こえてきた。
ドアが乱暴に開かれる。
「ユウが目を覚ましたのか!?」
「ユウが目を覚ましたんですの!?」
セラとルーリアだ。
病院では静かに。
「おーおー、ユウ君はモテモテだね。私はもう帰るとしよう。」
ユウラさんはそう言って椅子を立ち上がった。
「あら?ユウラさんはもう帰りますの?」
「ああ。店に戻るよ。じゃあね。」
ユウラさんは手をひらひらと振りながら病室を出て行った。
セラとルーリアは椅子に座る。
「体の調子はどうだ?」
「うん。ちょっと動きにくいけど、大丈夫かな。」
「そうか・・・・・。」
セラはほっとしたように言う。
その横のルーリアは少し申し訳なさそうな様子だ。
「ユウ。今回のこと本当に申し訳なく思っていますわ。」
謝られた。
「なにが?」
「ユウの怪我は、わたくしをかばった時の傷が原因でしょう。だから・・・・・」
確かにルーリアをかばった時の背中の怪我で、動きが遅れた。
でも実際、スコーピオンの行動に驚いて、反応に遅れたことが原因だしな。
「あー別に気にしなくていいよー。」
「そう言うわけにはいきません!!この恩はきちっと返しますわ!!」
そう言ってグッと拳を握りしめている。
そんなに気合を入れなくても・・・・
「というわけで、なんにか困ったことがあれば何でも言ってください。わたくしが誠心誠意お世話しますわ!!」
な、何でもですか!!
えっと、それは本当に何でも!?
あんのことや、こんなことも!?
とか考えていると
「ユウ。バカなことは考えるなよ。」
セラの妙に迫力のある声が聞こえた。
「え、は、な、なんのことですか?僕にはわからないな〜あはははは・・・・・・・ごめんなさい。」
ごまかそうとしたが結局謝ってしまった。
「?・・・・ユウは何を謝っているんですの?」
よく分かっていないルーリアは首をかしげている。
いや、なんでもないですよ。
〜〜〜〜〜〜
それから、セラに近況を報告してもらう。
ルーリアはリンゴのような果物の皮をナイフで剥いている。結構器用だ。
「チコは、ユウの装備とかルーリアの翼脚甲の修理をしてくれてる。アルはたまに君の見舞いに来てたぞ。」
「そっか。街の様子は?」
「魔物が帝国の仕業なんじゃないかって噂が飛び交ってるな。騎士団はピリピリしてる。」
ユウラさんの言う通りみたいだな。
街が戦争を意識している。
この世界のことは結構気に入っている。
戦争なんて起こってほしくない。
そう考えていると、僕の目の前にフォークに刺さった果物が突き出された。
「はい、ユウ。あーん。」
ルーリアは切った果物を、僕の口元に持ってきた。
え、なにこれ。
「ユウはまだ体が本調子じゃないのでしょう?私が食べさせてあげますわ。」
え、え、いいんですか、そんなこと?
僕すげぇしあわせだ。
女の子にあーんって、すばらしい。
食べようと口を開けたら、セラにフォークを持ってかれた。
ひどい。
「ルーリア、食べさせるのは私がやる。」
「あら?どうしてセラがやるんですの?」
「えーっと・・・・・私にもこれまでの恩があるから。」
「わたくしが剥いたんですよ。わたくしがします。」
私が、わたくしが、とセラとル−リアが言いあっている。
何だかじゃれあっているような雰囲気だ。
仲が良さそうなんだが、少し疑問がある。
「二人ってそんな仲良かったっけ?」
僕がそう言うと、二人は顔を見合わせた。
「あー・・・・そう言えばユウに言わなければならないことがある。」
セラが急に真面目な顔になった。
「そうですわね。ユウには伝えておきましょう。」
ルーリアが頷く。
「私とルーリアはどうやら親戚のようなんだ。」
え?
えええええええっ!!
「え、マジで!?」
「本当です。しかも、従姉妹同士ですわよ。」
なんと!!