第32話:セラの日記(2)
大陸暦1999年5月4日
私たちが首都に来てから、もうすぐ二週間。
『ニニギ亭』の仕事にはもう慣れた。
何度かユウの仕事を手伝ったりして、知り合いも増えた。
以前一緒に仕事をしたドワーフのチコ。
年齢は私よりも上だが、仕草はとても幼くて見ていてとても楽しい。
もう一人は、アルフレッド。
詠唱師なのだが、性格に問題ありだ。
絶望的に空気が読めない時がある奴だ。
最近は、ユウと一緒に仕事をしているらしい。
肝心の母上に関する情報収集は、ユウに任せてしまっている。
これまでのことも、母上の情報についても、ユウに頼りすぎている気がする。
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5月5日
今日はユウが、店に女の人を連れてきた。
私が汗水たらして働いている時に、女の人と食事とはいい身分だ。
決して、ユウが女の人と一緒にいることに怒ったわけではない。
単純に私が働いている時に、楽しているのが癇に障っただけだっ!!
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5月6日
今日はいろいろな事があった。
母上に関することが少しわかった。
母上の実家は、帝国貴族でランドグリフというそうだ。
断絶しているらしいが、帝国に行けば何かしらわかるかもしれない。
ユウとアルにはとても感謝だ。
そして、ユウラさんに丸めこまれて、ユウとチコと共に帝国に向かうこととなった。
そのおりに、昨日ユウと一緒にいた女性、ルーリアが紹介された。
なんだ、ユウラさんの知人だったのか。
それからみんなで昼食をとっている時に、事件は起こった。
首都に魔物が攻めてきた。
私は、自分の力を暴走させかけた。
ユウラさんは、病気で血を吐き、ルーリアは足にけがをした。
そして、ユウは重傷を負った。
結局、ユウが紅いエーテルを用いて魔物を倒した。
あの力は何だったのか・・・・。
ユウに聞いてみたいが、無理だ。
ユウは魔物を倒した後、病院に運ばれ治療されたが、昏睡したままだ。
医者が言うには、重度の体内エーテル欠乏症だそうだ。
骨折や傷などの体に関しては、治癒系大氣術で治療されている。
大丈夫だろか?
あの時、紅い光を放ったあの時、ユウは少しおかしな状態だった。
あれは、いったい?
それから、暴走しかけた時からエーテル共鳴声帯に違和感を感じる時がある。
これはなんだろうか?
疑問だらけだ。
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5月7日
今日は朝から騎士団の本部に行った。
チコとアルも一緒だ。
ルーリアはこの国にいることをあまり公にしたくないらしく、辞退した。
本部で騎士団長直々に、魔物との戦闘に対する礼と、礼金をもらった。
正直、別に必要なかったが受け取らないと面倒なことになりそうだったので、ありがたくもらった。
『ニニギ亭』の営業はいつも通り行っていたので、仕事が終わった後ユウの見舞いに行った。
ユウはまだ目覚めていない。
ユウのいる病室には、ユウラさんが来ていた。
ユウラさんは、ユウのあの力について知っているのだろうか?
「あの、ユウラさん。聞いてもいいですか?」
「ん?なにかな?」
「ユウラさんは、ユウのあの紅いエーテルについて何か知ってるんじゃないですか?」
「んー・・・・なんでそう思うんだい?」
「ユウはこんなところでは死ねないって言ってましたから・・・・・」
「あー・・・そんなこと言ったか・・・・・・」
しばらくユウラは、黙りこんだ。
そして、話始めた。
「ユウ君が異界人だってことは?」
「知ってます。」
「んー・・・・私も詳しい事情を知ってるわけじゃないんだ。昔の仲間の異界人から聞いたことだからね。そいつが言うには、異界人とはイヴという存在によって、この世界に連れてこられた者なんだと。」
イヴ?
何者だ?
「イヴっていうのは、異界人の主人らしい。だからユウ君みたいな異界人は、『イヴの眷属』とか呼ばれてたな。」
「イヴの眷属・・・」
「『イヴの眷属』は、これまでに何度か現れているらしい。んで、あの紅いエーテルは『イヴの眷属』がを扱う特殊能力で、『異界』と呼ばれている。」
イヴの眷属に異界か・・・・・
わからないことが多すぎる。
「ま、私も聞いただけだからな。詳しいことはユウ君、本人に聞きな。今頃、イヴに事情を聞かされているころだろう。」
今?
ユウは私達の目の前で寝ている。
「イヴは基本的に夢の中に現れるらしい。たまにこちらの世界に顕現するらしいけどな。」
なんだそれは?
人ではないのか?
「ま、私が知っているのはこのくらいかな。」
結局、ユウに聞くことが一番か・・・
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5月8日
ユウはまだ目覚めない。
今日は仕事が休みだ。
ユウの病室に行くと、ルーリアがいた。
足のケガはもういいようだ。
「あら。おはよう、セラ。」
「ああ、おはよう。」
「セラはお見舞いですの?」
「ああ。今日は仕事が休みなんでな。」
しばらくルーリアとたわいもない話をした。
ユウのことや、これまでの旅に関して。
こうしてルーリアとゆっくり話すのは、初めてだった。
話してみると割と気が合う。
「そういえばセラは龍族でしたわよね?」
ルーリアは少し声のトーンを落として話した。
この前の戦闘でルーリアは、私の龍声を間近で見ている。
「そうだが?」
「龍族が外の世界に出てくるのは、珍しいことではないんですの?」
「まあ、そうだな。私は目的があったから、国を出てきた。」
「目的?」
「ああ。母を探す。」
「お母様を・・・・・・どこにいるか見当は付いているんですの?」
「ユウとアルのおかげで帝国にいるのではないか、ということが分かった。ユウが目を覚ましたら向かうつもりだ。」
「まあ・・・・そうですの。」
ルーリアは帝国の騎士だったか?
帝国の人なら、母のことを聞いてみようか。
写真を取り出し、ルーリアに見せる。
「この人が私の母らしい。アルが言うには、ランドグリフという家の人らしいんだが・・・・・・ん?ルーリア?」
ルーリアは写真を見てかたまっている。
「セ、セラ。この方があなたのお母様ですの?」
「ああ。どうかしたのか?」
何やら様子が変だ。
「セラ。重大なことがわかりましたわ。」
「な、何だ急に?」
すごい真剣な顔で言った。
ルーリアから聞いた内容は、言葉通り重大なことだった。