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異界の旅路  作者: Posuto
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第29話:首都内戦闘(二)・雷撃

ユウラは魔物と向き合う。


構えも取らず、直立姿勢だ。

魔物が左右のハサミと尾についたハサミによって、三方向から攻撃してくる。


ユウラはすべて最小限の足運びで紙一重で避けている。

そして隙を見て、何発か拳を入れる。


 (ふむ・・・・。思い出してきたかな・・・・。)


魔物の軟体装甲ソフトアーマーに拳を入れ、感触を思い出す。


 (久しぶりの実戦か・・・・。早めに終わらせないとな。)


何発か拳を入れることで、思い出してきた。


ユウたちのほうに視線をやる。

ちょうど、ユウがスコーピオンの背中に乗り、尾に攻撃を仕掛けている。

セラとルーリアのコンビネーションで、尾がはじけ飛ぶのが見えた。


 (へ〜・・・・即席のコンビネーションの割にさまになってるな。)


視線を目の前の魔物に戻し、構える。

さて、こちらも終わらせるか。


本気が出せるのは、一分ぐらいだろう。

瞬殺する!!


体内エーテル操作による、身体機能強化を最大に。


スコーピオンのハサミが、目前に迫る。


 虎島流 紫電章 『陽炎陣』


直撃の瞬間、ユウラは二つに分かれた。


ユウラが二人いる。

分身だ。エーテルによって作り出された、質量をもつ分身。

左右に分かれ、スコーピオンの側面を高速で移動する。


左右から同時に、スコーピオンの地面に突き刺さった6本の足を連続ローキックで刈る。

足が全て浮き、スコーピオンがバランスを崩す。


その隙に、二人のユウラは後方に回り跳ぶ。

尾を挟むように同時に蹴りを入れる。


ドゴンッ!!


ものすごい音。

二人のユウラは、蹴りを入れた体制のまま、霧のようにかき消えた。

そして本物のユウラは、いつのまにかスコーピオンの背中で構えている。


分身が蹴りを入れた地点に向けて、拳を放つ。


虎島流 紅蓮章 『羅刹功・砕破』


拳からものすごい量のエーテルが、軟体装甲の内部に流し込まれた。

拳が当たった位置の半径1メートルが内側から爆発した。


白い体液をまき散らし、尾が地面に落ちる。


そのまま背中の上を走り、体の中央へ。


虎島流 紅蓮章 『羅刹功・砕破』


コアを破壊すべく、拳を叩きつけ・・・・・・


力が抜けた。

身体機能強化が抜ける。


 (なっ・・・もう時間切れ!?一分も持たないなんて!?)


スコーピオンが背中の上からユウラを振り落とそうと、近くの建物に体当たりをする。

とっさにスコーピオンの背中から飛び降りる。


着地。

だが、足に力が入らず、膝をついた。


スコーピオンは建物にぶつかって暴れている。


喉の奥から、熱い物が上がってくる。


 「カハッ・・・・!!」


ユウラは、血を吐いた。



〜〜〜〜〜〜



 「ユウラさんっ!!」


アルの悲痛な声が響く。

僕はユウラさんのほうに視線をやる。


ユウラさんは、地面に膝をついている。

地面には血の跡が・・・・・


ケガでもしたのか!?


 「いや、吐血したようだ。」


セラが教えてくれた。

病気か何かか?


僕は、目の前の魔物をセラとルーリアに任せて、ユウラさんの加勢に向かおうとする。


 「ユウ!!来るな!!」


ユウラさんが叫ぶように言った。

僕はとっさに立ち止まる。


 「君は自分のすべきことをしろ!!」


そう言われても・・・・・


 「私はこいつを任せろと言ったんだ。任せておけばいい。」


アルのほうに視線を送る。

アルは小さくうなずいた。

あいつに任せるか・・・・・チコもいるしな。


 「ユウ、あちらは任せましょう。わたくし達も油断していては、やられますわ。」


ルーリアはそう言ったが、心配そうな顔だ。

だが、ルーリアの言うとおりだ。

僕たちがすべきことは、こいつをすぐに倒して、加勢に行くことだ。


先ほどの手順で、こいつも倒す。

目の前の魔物に、攻撃を仕掛け・・・・

ん!?


スコーピオンの両手のハサミと顔の位置がもりあがり、眼球が現れた。

やべぇ!!これは・・・・・


 「散れ!!」


叫び、回避行動に入る。

セラもルーリアも僕の声で、とっさに地面に身を投げた。


現れた眼球から、無音の光の帯が発せられた。

レーザーだ。


僕のすぐ隣を光の帯が走り、後方にあった港に留められた飛空挺を両断した。


ひぃっ!!


どうやら一匹、魔物を倒したことで、お怒りのようだ。

迂闊に近ずけない。


どうする?



〜〜〜〜〜〜



アルはユウラが戦っている最中に急に、血を吐いてことに驚かされた。

両親の友人であるため、付き合いが長い人だが病気を患っているなんて聞いていない。


 (なんでそんな大事なこと黙ってるんだ、あの人は・・・・)


微妙に腹が立つな。


ユウラは今も魔物の相手をしている。

どうやら身体機能強化ができていないようで、先ほどのような異常な速さで動いたりはしていない。

っていうか身体機能強化なしで戦ってるって、すごすぎだろ・・・・・


とにかくユウラさんは、決定打が打てない状況だ。


ここは俺がやるしかない。

ユウにも任せろ、みたいな合図を送ってしまったしな。


 「ちびっ子、ユウラさんを助けてやってくれ。援護してやる。」


横にいるチコに声をかける。


 「わかりましたです。アルさんはどうするんです?」


 「しっぽをユウラさんが破壊してくれたから、雷撃を破壊した部分から流しこめるだろ?だから、第三雷法ヴォルトをかます。」


 「なるほど。確かに雷撃系の上級大氣術ハイスペルなら、かなり効果があると思います。でも、そんなの詠唱してたら、援護なんてできませんよ?」


 「とっておきがあるんだよ。」


アルはローブの中から、小型の詠唱杖キャストスタッフを取り出す。

詠唱杖『シュト−リア』だ。

右手に持つ豪華な詠唱杖『ランサーコア』の半分ぐらいの長さだ。

増幅率が低いが、予備として持っている。


 「こっちで援護してやる。」


 「こっちって・・・・・まさか、二重詠唱ツインキャストを使えるんですか!?」


二重詠唱はその名の通り、大氣術を同時に発動する杖の二刀流だ。

実際、簡単にできるものではない。


大氣術は、イメージとエーテル操作によって発動する。

つまりは、左右で同時に違う量のエーテルを操作し、さらに同時に異なったイメージを作り出さなければならない。

並列処理を行う必要がある。

常人なら、イメージが混濁し、どちらの大氣術も発動しない。


 「はぁー・・・・・アルさんは器用ですねー」


 「おおよ!どうだ尊敬しただろ。アルフレッド様と呼んでくれていいぜ!」


 「じゃあ、行ってきますねー。」


くっ!!つっこみすらナシか・・・・・

とにかく成功させないとな。


チコがリュックから、ドデカいハンマーを抜き出し、走ってユウラのもとに向かう。


その間に、詠唱を始める。


詠唱杖『ランサーコア』を地面に突き立てる。

地面には術式コードの描かれた大きな魔法陣が発生。

第三雷法の詠唱開始。

かなり時間がかかる。


同時に、左手には小型詠唱杖『シュト−リア』をもち、別の大氣術を詠唱。

ユウラさんを救助しに行くチコを援護する。


スコーピオンが、走ってくるチコを見つけ、そちらに攻撃しようとする。


 「チコちゃん、来ちゃダメだ!!」


ユウラさんが叫ぶ。

だがユウラさんも、少しふらついていて、もう限界のようだ。


スコーピオンがチコに向かってハサミを振りおろす。

チコは動きが遅いため、避けきれない。


基礎大氣術 『第一爆法ブレイズ連射バースト


第一爆法を三発、連続で発生させる。

狙いは、ハサミ。


ドドドンッ!!


爆発が三発。

チコに向かって振り下ろされたハサミは、爆発にはじかれる。


その間にチコはユウラを担ぎ、安全な位置まで移動。


魔物がこちらを向いた。

え?

まさか狙われてる?

今、詠唱中だから動けないぞ!?


助けてー!!!!



〜〜〜〜〜〜



ユウラは怒っていた。


 「チコちゃん、危ないだろう!!」


怒鳴られたチコは、気にせず言った。


 「ユウラさんは、無理しすぎです。これ飲んでください。」


そう言って、チコはリュックから瓶を取り出した。

中には緑色の液体が入っている。


 「ライフリートの高濃度ゼリーです。一時的ですが、体内エーテルが回復するはずです。」


高濃度って・・・・・マズそう。


 「まずいですよ。めちゃくちゃ濃い草の味がします。」


仕方なく受け取る。

チコは、そのまま魔物のほうに向かおうとする。


 「それじゃあ私は、アルさんを助けに行ってきます。危ないみたいなんで。」


止める前に、トテトテ走って行った。

アルが何か詠唱している。

魔物はアルを標的としているようだ。


急いで瓶のを開ける。

口に入れるのを一瞬ためらい、ぐいっと一気にあおる。


 「・・・・・・マズッ!!!」


草の味が、口いっぱいに広がった。

これでしばらく待てば、体内エーテルが回復する。

それまで死ぬなよ、二人とも。



〜〜〜〜〜〜



基礎大氣術 『第一爆法ブレイズ連射バースト


撃つ、撃つ、撃つ。


こちらに向かってくる魔物に向かって連続起動。

スコーピオンは、爆発を受けても多少ひるむだけで近づいてくる。


やべぇーーーーー


こっちくんな!!!


アルから十メートルほどの位置まで来た。


 「ふぉおおいっさ!!」


珍妙な掛け声でチコがハンマーを振りかぶった。

スコーピオンの横っ腹にハンマーが直撃。


 ボゴッ!!


横にある建物にめり込んだ。


 「アルさん、あとどれぐらいですか?」


ハンマーを担いだチコが聞く。


 「あと10秒!!」


そう言った瞬間、建物からスコーピオンが飛び出し、チコにハサミをぶつけた。


チコはギリギリでハンマーで防御。

だが、体の軽いチコは、吹っ飛ばされ、ごろごろ転がった。


 「ふひゃあああーーーーあいたっ!!」


がれきにぶつかって、転がるのが止まる。


そしてスコーピオンがこちらをロックオン。

あと少し、あと5秒。


また第一爆法を詠唱。

が、発動しない。


小型詠唱杖『シュトーリア』から、煙が出ていた。

連続起動によるオーバーヒートだ。


スコーピオンは、もう目の前だ。

死を覚悟する。


突然、アルとスコーピオンの間にユウラが現れた。

拳を放つ。


ゴンッ!!


スコーピオンは地面をけづるようにして後退。

ユウラさんは、地面に膝をつき、また血を吐いた。


 「やれっ!!」


発動。


上級大氣術『第三雷法ヴォルト大剣クレイモア


地面に突き立てられた詠唱杖『ランサーコア』より術式展開。

大氣エーテルが反応し、スコーピオンの真上に5メートルほどの剣の形をした電気エネルギーを精製。


大剣が、スコーピオンの破壊された尾の部分に突き刺さった。


轟音。


本物の雷が落ちたような音と共に、スコーピオンは電撃に焼き尽くされた。


後に残ったのは、黒こげとなったスコーピオンの死体だ。


 「やったぜ・・・・・見たか俺の実力。」


アルは息を切らしながら言った。


魔物の二体目を破壊。

残り一匹。


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